第27回:イタリア製高級車絶滅寸前!?
気になる「あの方」たちのクルマ
2008.02.09
マッキナ あらモーダ!
第27回:イタリア製高級車絶滅寸前!?気になる「あの方」たちのクルマ
フィアット系高級車惨敗
2008年1月のイタリア国内新車登録台数速報が発表された。それによると、1位が「フィアット・グランデプント」、2位が同「パンダ」、そして4位が「500」と、3位こそ「フォード・フィエスタ」に譲ったが、フィアットが健闘した。
それに対して元気がないのは、同じフィアットグループでも「高級車」だ。
すこし前の数字になるが、2007年10月の「ランチア・テージス」の国内販売台数はわずか64台だった。「アルファ166」に至っては、もはや統計にに上がってこない。同月にライバルである「BMW5シリーズ」と「メルセデスEクラス」は約300台売れたにもかかわらずである。
クラスは一段下だが、2007年に発売されたばかりの「メルセデスCクラス」も、毎月1000台ペースでイタリア製プレミアムに追い討ちをかけている。
ボクは野鳥愛好会の如くイタリアの路上を日々チェックしているが、Cクラスの体感的繁殖度は、新型フィアット500のそれを上回る。フィアット・グループは、高価格かつ開発費が小型車よりかからない「おいしいセグメント」をドイツ車に持っていかれてしまっているかたちだ。
テージスや166を街で見かけても、かなりの確率で「SERVIZIO DI STATO」つまり国家の公用車であることを示すバッジが貼り付けられている。または明らかに企業幹部用の運転手付きである。個人オーナーと思われるクルマは極めて少ない。
フィアット、次期高級セダンの行方
思えば2006年1月、アルファ・ロメオのA.バラヴァッレ前CEOは筆者に対して「世界市場をグレーの車(筆者註:ドイツ車のこと)ばかりにしないためにも我々は努力してゆく」と、危機感を既に示していた。
それから2年。少しずつフィアット・グループの次期高級セダン像が少しずつ伝わるようになってきた。
まずはアルファ166の後継車である。名前は「169」となる可能性が高い。しかし開発の最終段階まで「シンバ」だ「ジンゴ」だとリリースまでしておきながら、発売直前でやっぱり「新型パンダ」にしたフィアットのことだ。最後までわからない。
この169は去年あたりまで、イタルデザインの2004年ショーカー「ヴィスコンティ」風になるか? と噂されていた。だが実際はまったく違ったスタイルになるようだ。個人的には「メルセデスCLS」を彷彿とさせる。
なお以前バラヴァッレが「模索中」と筆者に語っていたマセラーティとの共用化は、どうやら最高級仕様にマセラーティ製エンジン搭載、というかたちで決着しそうである。
発売は来年というのが大方の見方だ。経営危機時代の品質低下に失望してドイツ車に流れてしまったミドルエイジ層以上の元アルフィスタをどこまで呼び戻せるのか、注目したい。
いっぽうで気になるのは、ランチアである。目下のところ、テージスの後継車の計画が聞こえてこないのだ。最近は「ランチアはテージスの後継を造らない」という話もある。そういえば昨年会ったランチアのオリヴィエ・フランソワCEOは、新型「フルヴィアHF」については「進行中」と明かしてくれたものの、テージス後継についてはついぞ話がなかった。
共和国大統領のクルマが!?
そこで心配になのは、イタリアの国家首脳たちである。現在のプローディ首相はランチア・テージスに乗っているが、後継車がなくなると困ってしまうだろう。
さらに困るのは共和国大統領だ。ナポレターノ現大統領は「マセラーティ・クアトロポルテ」に乗っているが、次期モデルは「マツダRX8」のようなドアを持った4ドアクーペになる? との噂があるのだ。
数年前フィアットのモンテゼーモロ会長は、「アウディA8」を愛用するベルルスコーニ前首相(当時)に対して、「一国のトップがガイシャに乗っている国は珍しい」と苦言を呈したことがある。
しかし皮肉にも今度は、フィアット自らが国家首脳用のモデルを落とす可能性が出てきた。
もちろん、大統領が新型クアトロポルテに乗ったっていいが、想像し難い。だってRX8から福田康夫首相がピョコンと降りてきたら、やっぱりヘンでしょう?
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=Italdesign-Giugiaro、Fiat Group Automobiles、大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第962回:路上の伏魔殿? イタリア式パーキングチケット発給機のワナ 2026.5.21 ちょっとした駐車に便利な路上パーキング。イタリアでも広範に採用されており、アプリ決済も可能となるなどシステムも進化しているのだが……。イタリア在住の大矢アキオが、かの地のパーキングチケット事情と、日々の移動に潜むささやかなワナ(?)を語る。
-
第961回:海賊エンツォ・フェラーリ 敵に取り囲まれる 2026.5.14 F1における、フェラーリとイギリスのコンストラクターの戦いにフォーカス。「トリノ自動車博物館」でスタートした企画展「ドレイクの敵たち—エンツォ・フェラーリと英国のチーム」を、イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがリポートする。
-
第960回:レクサスは欧州人のマナーを変えた? 「ミラノ・デザインウイーク2026」の自動車ブランド出展から 2026.5.7 イタリア・ミラノで世界的なデザインの祭典「デザインウイーク」が開催された。アウディ、レクサス、ルノー、イタルデザイン……と、自動車関連の出展も数多く見られた会場の様子を、伊在住の大矢アキオがリポート。今回はどんな展示が注目を集めていたのか?
-
第959回:「うすらデカいフィアット」がもたらしてくれたもの 2026.4.30 11年にわたりモデルライフを重ねてきた、フィアットのCセグメント車「ティーポ」が、ついに生産終了に……。知る人ぞ知る一台の終売の報を受け、イタリア在住の大矢アキオが、“ちょっと大きなフィアット”の歴史を振り返り、かつての愛車の思い出を語る。
-
第958回:欧州BEVのゲームチェンジャー? 「ルノー・トゥインゴE-Tech」と初対面 2026.4.23 いよいよ欧州で販売が開始された、新型「ルノー・トゥインゴ」。初代を思わせるデザインをまとい、電気自動車のみのラインナップとなって現れた4代目は、マーケットの勢力図を変える一台となり得るのか? 欧州在住の大矢アキオが、実車に触れての心象を語る。
-
NEW
車載カメラが普及した今、“デジタルサイドミラー”が主流にならないのはなぜか?
2026.5.26あの多田哲哉のクルマQ&Aサイドミラーの役割をカメラが担う“デジタルサイドミラー”は、レクサスやアウディなどで採用例があったものの、普及するには至っていない。その決定的な理由はなにか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんが語る。 -
NEW
マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R(FR/6MT)【試乗記】
2026.5.26試乗記販売台数わずか200台の限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」に試乗。スーパー耐久レース参戦をはじめとするマツダのモータースポーツ活動を担うサブブランドが生み出した初の市販コンプリートカーは、いかなる走りをみせるのか。 -
買った後にもクルマが進化! トヨタ&GAZOO Racingが提供するアップデートサービスのねらいと意義
2026.5.25デイリーコラムGAZOO Racingが「トヨタGRヤリス/GRカローラ」の新しいソフトウエアアップデートを発表! 競技にも使える高度な機能が、スマートフォンのアプリで調整できるようになった。その詳細な中身と、GRがオーナーに提供する“遊びの機会”の意義を解説する。 -
第336回:やっぱり絶交!
2026.5.25カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に200台の台数限定で販売される「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」で出撃した。手作業で組まれた2リッター直4エンジンを搭載するマツダ入魂のスポーツモデルに、カーマニアは何を感じた? -
アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト(4WD)【試乗記】
2026.5.25試乗記アウディの電気自動車(BEV)「Q6スポーツバックe-tron」で、東京・渋谷と静岡・裾野を往復。雨のなかでエアコンを効かせ、高速や峠道を遠慮なく走らせるハードユースに、最新のBEVはどう応えてくれたのか? そこで感じた“本音”をリポートする。 -
ホンダ・プレリュード(後編)
2026.5.24ミスター・スバル 辰己英治の目利き軟派なクーペはアリやナシや。ミスター・スバルこと辰己英治さんが新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。「シビック タイプR」とは趣を異にするシャシーに触れ、話題の「S+シフト」を試し、これからのスポーツクーペ像に思いをはせた。