トヨタ・ヴォクシーZS(FF/CVT) vs 日産セレナ ハイウェイスター(FF/CVT)【短評(前編)】
トヨタが売れるワケ(前編) 2007.12.18 試乗記 トヨタ・ヴォクシーZS(FF/CVT) vs 日産セレナ ハイウェイスター(FF/CVT)……245万7000円/240万4500円
(車両本体価格)
ミニバンのなかでも、売れ筋である「日産セレナ」と、新型エンジンを搭載して勢いに乗る「トヨタ・ヴォクシー」を比較検証する。
『CAR GRAPHIC』2007年11月号から転載。
人気の秘訣
日本の自動車メーカーにとっては稼ぎ頭ともいえるミドルサイズのミニバン。その中でいま、もっとも旬なモデルといえば、2リッターの新型エンジンを搭載した「トヨタ・ヴォクシー」だろう。それがどういうクルマなのか、最新のメカニズムに興味を抱いている人も多いはずだ。そこで今月は、2007年上半期の新車登録台数でミニバンNo.1(4万1835台/自販連調べ)となった「ニッサン・セレナ」を一緒に走らせ、その実力を試してみた。
3列目シートの使用頻度がそれほど高いとは思えないが、ミニバンだけに留まらず、昨今SUVにおいても3列シートを自慢にするモデルが増えてきた。3列目のシートは家族でドライブする場合などたしかに重宝で、“荷物”置き場として、私もその恩恵を少なからず受けている。けれども、“乗せられる人”にとって、そこはあまり居心地の良い場所ではない。もちろん、そんなことはメーカーも承知しているから、モデルチェンジのたび改良されるのだが、いまだに補助シートの域を出ていないというのは事実である。
そもそも3列目シートはリアタイヤの後ろ、あるいは真上に位置するわけで、車両の運動中心点から遠く離れたこの席に、快適な乗り心地を求めること自体、理論的に無理がある。ここで採り上げた2台にしても、最も快適なのは車両の重心点に近い運転席だった。こうした事実をミニバンユーザーはすでに経験済みだと思う。
それでも生活の道具として3列シートのミニバンに人気が集まるのは、スポーツカーにとっての余剰性能と同じようなものなのだろう。今回テストした「ヴォクシーZS」の車両本体価格は245万7000円、「セレナ・ハイウェイスター」は240万4500円である。8人も乗れる広い室内空間を備えるミニバンは、セダンに比べて割安感を覚えるから不思議だ。このあたりも人気のひとつに違いない。
バルブマチックのメリット
さて、2代目となったヴォクシーで最も注目べき点は、“バルブマチック”を採用した新開発の2リッター直4エンジンを搭載したことだ。バルブマチックとは、燃焼室に取り込む吸入空気量をコントロールするためのシステムで、その目的はエンジン回転数の制御にある。
バルブマチック機構は、すでにトヨタ車の多くに採用されているDual VVT-i、すなわち吸排気バルブの開閉タイミングを無段階に連続制御するシステムのインテーク側に組み込まれており、アクチェーターによって作動する。要するにこの3ZR-FAE型エンジンは、排気側はバルブタイミングのみ連続制御し、吸気側はバルブタイミングとバルブリフト量を協調制御しているわけだ。
ちなみに、バルブマチックの基本原理はBMWのバルブトロニックと同じ。違いはBMWがエンジン回転数をインテーク・バルブのリフト量だけでコントロールしているのに対し、トヨタは従来のスロットル・バルブも併用していることである。バルブマチック機構を採用することのメリットはポンピングロスの低減で、具体的には、低負荷時に吸気管内の負圧を小さくするのが狙い。これは燃焼室に取り込む吸入空気量の充填効率を引き上げることにつながり、結果として低燃費と高出力、そして低エミッションに役立つことになる。スペックは最高出力が158ps(116kW)/6200rpm、最大トルクが20.0mkg(196Nm)/4400rpm、10・15モード燃費は14.2km/リッターである。
その効果はヴォクシーに積まれるもうひとつのエンジン、3ZR-FE型と比べるとよくわかる。ZSというトップグレードを除くモデルに搭載されるこのエンジンは、簡単にいうと3ZR-FAEからバルブマチック機構を取り除いたユニットで、ボア・ストロークの80.5×97.6mm(総排気量1998cc)や圧縮比の10.0:1、レギュラーガソリンを使用する点は同じ。
だが、パワーとトルクは143ps(105kW)/5600rpmと19.8mkg(194Nm)/3900rpm、10・15モード燃費は13.4km/リッターという値に留まる。つまり、基本的に同じエンジンにバルブマチック機構を付けることによって、パワーで15ps、トルクで0.2mkg、10・15モード燃費で0.8km/リッターの上乗せに成功していることになる。(後編につづく)
(文=新井勉/写真=高橋信宏/『CAR GRAPHIC』11月号)

新井 勉
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