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トヨタとホンダの最新ミニバンが激突! 選ぶべきはどっちだ?

2022.01.24 デイリーコラム 渡辺 陽一郎

競争激化は必然的

ホンダは2021年12月10日に新型「ステップワゴン」のティザーキャンペーンを始め、2022年1月7日には外観を公開、概要も発表した。今後は同年2月に価格を公表して予約受注を始め、4~5月に納車を伴う発売に至る。

新型ステップワゴンを販売するまでに、なぜこのような手間をかけるのか? 開発者に尋ねると「『ノア』と『ヴォクシー』がフルモデルチェンジしたので、ステップワゴンも新型になることを告知した」と返答された。ミニバンは国内向けの商品であり、小さな市場で争う。片方が売れるともう一方が売れなくなるので、互いに意識し合うわけだ。そこで新型ステップワゴンもティザーキャンペーンを行った。

今回はそんな、まさにライバル同士の新型ノア/ヴォクシーと新型ステップワゴンを比べてみたい。

新型ノア/ヴォクシーは、エンジンとハイブリッドシステム、プラットフォームを一新した。開発者は「従来型はメカニズムの設計が古く、プラットフォームから変えないとエンジンやハイブリッドシステムも刷新できなかった。そこですべてつくり替えた」と語る。

ガソリン車の2リッター直4エンジンは「ハリアー」などと同じタイプになり、WLTCモード燃費は15.0~15.1km/リッター(2WD車)を実現。従来型から新型に乗り換えると、カタログ値のうえでは燃料代を約10%節約できることになる。

ハイブリッドシステムは大幅に刷新されて第5世代に入り、WLTCモード燃費は23.0~23.4km/リッター(2WD車)に。こちらは従来型から乗り換えると、燃料代を約17%節約できる。

新型ミニバン戦線で先制パンチを浴びせたのはホンダだった。2022年春に発売予定の新型「ステップワゴン」(写真)を、新型「トヨタ・ノア/ヴォクシー」のデビュー1週間前、2022年1月7日に公開した。
新型ミニバン戦線で先制パンチを浴びせたのはホンダだった。2022年春に発売予定の新型「ステップワゴン」(写真)を、新型「トヨタ・ノア/ヴォクシー」のデビュー1週間前、2022年1月7日に公開した。拡大
2022年1月13日に発売された、新型「トヨタ・ノア」。新世代プラットフォームの採用に伴い、ボディーはわずかに拡幅され、いわゆる3ナンバーサイズとなった。
2022年1月13日に発売された、新型「トヨタ・ノア」。新世代プラットフォームの採用に伴い、ボディーはわずかに拡幅され、いわゆる3ナンバーサイズとなった。拡大
「ノア」の姉妹車「ヴォクシー」も引き続きラインナップされる。強烈な個性を放つフロントフェイスで存在感をアピール。
「ノア」の姉妹車「ヴォクシー」も引き続きラインナップされる。強烈な個性を放つフロントフェイスで存在感をアピール。拡大
新型「ノア/ヴォクシー」のハイブリッド車には、新世代の1.8リッターハイブリッドシステムが採用されている。写真は2WD車だが、ハイブリッドの4WD車が設定されるのもトピックのひとつ。
新型「ノア/ヴォクシー」のハイブリッド車には、新世代の1.8リッターハイブリッドシステムが採用されている。写真は2WD車だが、ハイブリッドの4WD車が設定されるのもトピックのひとつ。拡大
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機能にスキなし ノア/ヴォクシー

新型ノア/ヴォクシーでは、運転支援システムや安全装備をはじめ、装備も大幅に進化した。「プロアクティブドライビングアシスト」は新型「レクサスNX」に先行採用された装備で、例えば歩行者などを検知すると飛び出しの危険を想定して回避操作の支援を行う。衝突被害軽減ブレーキは危険が迫った時に作動するが、プロアクティブドライビングアシストは“危険に近寄らない”安全装備だ。

車両を停車させてスライドドアを開いている時に車両や自転車が接近すると、ドアのオープン動作を停止する機能も採用した。横開きのドアは、開いた時でも開口部前方がドアパネルで覆われているが、スライドドアは外が丸見えになる。そのために子どもの飛び出し事故を誘いやすい。

しかもスライドドアは、開いた時でもドアパネルが外側にあまり張り出さないため、接近してくる車両のドライバーも飛び出しを予想しにくい。つまりスライドドアは狭い場所でも開閉できて乗降性に優れるが、この便利な特徴が、安全面では欠点になりうる。新型ノア/ヴォクシーでは、この対策を講じた。

このほか車庫入れを支援する「アドバンストパーク」は、“リモート機能”付きのものを採用した。運転席にドライバーがいなくても、車外でスマートフォン(専用アプリ)を操作するだけで車庫入れが行える。横幅の狭い、乗り降りのしにくい車庫にクルマをおさめる時などに重宝する機能だ。

トヨタの新たな安全装備「安心降車アシスト」のデモの様子。スライドドアからの降車時に後方から接近するクルマや自転車を検知すると、オープン動作をキャンセル。未然に事故を防ぐ。
トヨタの新たな安全装備「安心降車アシスト」のデモの様子。スライドドアからの降車時に後方から接近するクルマや自転車を検知すると、オープン動作をキャンセル。未然に事故を防ぐ。拡大
車外からスマホを使って駐車ができるリモート機能付きの「アドバンストドライブ」も、新型「ノア/ヴォクシー」で注目される装備。
車外からスマホを使って駐車ができるリモート機能付きの「アドバンストドライブ」も、新型「ノア/ヴォクシー」で注目される装備。拡大
「ノア/ヴォクシー」のパワースライドドア装着車には、ドアの開閉に合わせてドア下部からステップが展開・格納される「ユニバーサルステップ」(助手席側)が備わる。モーターのような電動装置を一切使わず、フックやレバーなどの“からくり”だけで動作する、つまりローコストで壊れにくい点も長所とされている。
「ノア/ヴォクシー」のパワースライドドア装着車には、ドアの開閉に合わせてドア下部からステップが展開・格納される「ユニバーサルステップ」(助手席側)が備わる。モーターのような電動装置を一切使わず、フックやレバーなどの“からくり”だけで動作する、つまりローコストで壊れにくい点も長所とされている。拡大

練りに練られた製品開発

このように新型ノア/ヴォクシーがプラットフォームから各種の装備まで新機能を豊富にそろえた理由は、販売が好調だからにほかならない。2021年は、先代ノア/ヴォクシーと姉妹車「エスクァイア」を合計すると、モデル末期とはいえ1カ月平均で1万台以上が登録された。それは「カローラ」シリーズを上回り、「ルーミー」に迫る売れ行きだった。

先代がデビューした翌年の2015年には、前述した3種の姉妹車を合計すると1カ月あたりの平均販売台数が1万7000台を上回り、同年の「アクア」を超える販売規模となった。これだけ好調に売られた販売実績があるから、新型への潜在的な乗り換え需要も多い。そこで多額の開発コストを費やして、ハイブリッドやプラットフォームを刷新させ、新開発の装備も豊富に採用したわけだ。

新開発の装備を豊富に採用した背景には、今ではミニバンの機能とデザインが熟成され、ライバル同士で差がつきにくくなった事情もある。広さもシートアレンジも似ていて、新型では両車とも2列目キャプテンシートに「オットマン」と、左右スライド無用の「超ロングスライド機能」が付与された。積載性も同様。価格も限界まで下がっているから差がつかない。そうなると安心感や利便性を高めるアイデア装備で、ユーザーの選択が決まることも多い。そこで新型ノア/ヴォクシーは、先進装備を数多く採用した。

トヨタの全店が全車を販売する体制に移行したのに、ヴォクシーとノアという姉妹車関係をあえて残したのも大量に売るためだ(ただしエスクァイアは廃止した)。しかし漠然と姉妹車を扱うと、「アルファード」と「ヴェルファイア」のように互いに需要を食い合う。そこでヴォクシーはフロントマスクを思い切り個性的に変更した。ノアはエアロを含めてオーソドックスなデザインを守り、価格もヴォクシーに比べて5~7万円安い。「売れ筋で買い得なノア」と、「個性派のヴォクシー」という位置づけで共存を図っている。

「ノア/ヴォクシー」の7人乗り仕様車の2列目キャプテンシートには、オットマン機構やシートヒーターが備わる。
「ノア/ヴォクシー」の7人乗り仕様車の2列目キャプテンシートには、オットマン機構やシートヒーターが備わる。拡大
新型「ノア/ヴォクシー」のキャプテンシートは先代のものとは異なり、座席を中央に寄せることなく前後の超ロングスライドが可能。開発に際しては、こうした「先代のネガつぶし」が徹底的に行われている。
新型「ノア/ヴォクシー」のキャプテンシートは先代のものとは異なり、座席を中央に寄せることなく前後の超ロングスライドが可能。開発に際しては、こうした「先代のネガつぶし」が徹底的に行われている。拡大
3列目シートをはね上げた「ノア」の荷室。はね上げ後のシートは、ベルトを使って固定する必要のあった先代とは異なり、ロック機構でカチリと留まる。
3列目シートをはね上げた「ノア」の荷室。はね上げ後のシートは、ベルトを使って固定する必要のあった先代とは異なり、ロック機構でカチリと留まる。拡大
新型「ノア」では、メッキグリルやエアロパーツでドレスアップしたグレードもラインナップ。外観(主に顔)に対する、ユーザーの多様なニーズに応える。
新型「ノア」では、メッキグリルやエアロパーツでドレスアップしたグレードもラインナップ。外観(主に顔)に対する、ユーザーの多様なニーズに応える。拡大

ステップワゴンは乗り換えも意識

一方、ホンダの新型ステップワゴンでは、新型ノア/ヴォクシーとの直接対決を避ける商品開発を行った。開発者は「ミニバンを購入するお客さまの71%は、VIP感覚や存在感の強い外観を好むが、残りの29%は自然でシンプルなテイストを求める。新型ステップワゴンは、『エアー』と『スパーダ』の両タイプとも、ナチュラルな雰囲気でつくり込んだ」という。

この話を聞いた時は「新型ステップワゴンは最初から残りの29%をねらうのか!?」と思ったが、そこにはホンダの戦略がある。2021年に国内で新車として売られたホンダ車の33%は「N-BOX」で、軽自動車全体では53%に達した。そこにコンパクトな「フィット」「フリード」「ヴェゼル」を加えると84%になってしまう。ステップワゴンを含む上記以外のホンダ車は、残りの16%でしかないのだ。

新型ステップワゴンは、この今のホンダ車の国内販売状況を前提に企画された。新型ノア/ヴォクシーは前述のように先進のメカニズムと装備に力を入れたが、新型ステップワゴンは居住性と快適性を重視している。全幅を1740~1750mmに拡幅して、ボディー側面の“上方への絞り込み”も抑えた。これにより有効室内幅を広げて開放感を強め、インパネも水平基調で車内が広く感じられるデザインとした。

さらにホンダではクルマ酔いの研究も行い、1列目/2列目シートの背もたれ形状やサイドウィンドウの配置を工夫して、子どもをはじめとする乗員への圧迫感を解消した。3列目シートの座面は20mm厚くなり、座り心地を向上させている。

このように新型ステップワゴンでは、安全装備なども相応に充実させながら、ゆったりと広い室内と、リラックス感覚に重点を置くクルマづくりを行った。これにより、新型ノア/ヴォクシーとの真っ向勝負を避け、なおかつホンダの国内販売で圧倒的多数を占めるN-BOX、フィット、フリードのユーザーに、新型ステップワゴンへの上級移行を促す効果も期待できる。N-BOXやフリードのユーザーが「もっと車内の広いクルマが欲しい」と思った時にイメージするのは、新型ノア/ヴォクシーではなく、新型ステップワゴンだろう。

以上のように新型ノア/ヴォクシーと新型ステップワゴンは、それぞれが国内で扱われる商品ラインナップを前提に成り立っている。ユーザーとしては、存在感の強い外観や先進的なメカニズム・装備を求めるなら新型ノア/ヴォクシー、ミニバンならではの広い室内と穏やかな乗車感覚を求めるなら新型ステップワゴン、ということになるだろう。

(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)

新型「ホンダ・ステップワゴン」の意匠は、標準タイプの「エアー」とスタイリッシュな「スパーダ」(写真)に大別される。いずれもシンプル&クリーンなテイストは共通している。
新型「ホンダ・ステップワゴン」の意匠は、標準タイプの「エアー」とスタイリッシュな「スパーダ」(写真)に大別される。いずれもシンプル&クリーンなテイストは共通している。拡大
トヨタのライバルとは対照的な、“すっきりデザイン”の「ステップワゴン」。ベルトラインは先代モデルよりも引き上げられている。
トヨタのライバルとは対照的な、“すっきりデザイン”の「ステップワゴン」。ベルトラインは先代モデルよりも引き上げられている。拡大
ホンダ史上最も広い空間とされた、新型「ステップワゴン」のキャビン。乗員の視界や視野を安定させることで乗り物酔いを防ぐデザインを意識したという。
ホンダ史上最も広い空間とされた、新型「ステップワゴン」のキャビン。乗員の視界や視野を安定させることで乗り物酔いを防ぐデザインを意識したという。拡大
明るくクリーンなイメージの、新型「ステップワゴン エアー」のインテリア。表皮には、はっ水・はつ油機能のある素材が採用されている。
明るくクリーンなイメージの、新型「ステップワゴン エアー」のインテリア。表皮には、はっ水・はつ油機能のある素材が採用されている。拡大
年の初めから激しく火花を散らす、トヨタとホンダの最新ミニバン。2022年は、この戦いに新型「日産セレナ」も加わる見込みだ。
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渡辺 陽一郎

渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。

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