三菱ランサーエボリューションX GSR ハイパフォーマンスパッケージ(4WD/5MT)【ブリーフテスト】
三菱ランサーエボリューションX GSR ハイパフォーマンスパッケージ (4WD/5MT) 2007.11.29 試乗記 ……391万5450円総合評価……★★★★
三菱の高性能スポーツセダン「ランサーエボリューション」の最新モデル「X(テン)」に試乗。10代目の走りとは!?
機械との対話
2007年10月、「インプレッサWRX STI」よりひとあし先にフルモデルチェンジを果たした「ランサーエボリューションX」。ライバルがセダンから5ドアハッチへ大きく転換したのとは対照的に、ランサーエボリューションは4ドアセダンスタイルを踏襲。実際に走らせてみても、両者の性格はずいぶん違う。どちらも速いが、ランサーエボリューションのほうがイージーにスピードを楽しめるのだ。
それに大きく貢献しているのは、S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)と呼ばれる制御システム。ここでは詳しい説明を省略するが、電子デバイス介入をほとんど意識することなく、自分の腕が上がったと錯覚するほど、気持ちのいいコーナリングが楽しめるのが、このランサーエボリューションの醍醐味である。
その自然さが、実は不自然だったりするわけで、冷めた目で見ると、“クルマに乗せられている”感じがしないこともない。その点、ライバルのインプレッサWRX STIは、ドライバーがクルマを操っているという感覚がいまだ強く、ドライバーがどこまで運転に介入できるかが、両者の違いということになる。デュアルクラッチSSTなら、さらにイージーに扱うことができるランサーエボリューションX。間口の広さではランサーエボリューションに軍配が上がるが、私のように、“もう少し積極的に関わりたい”と思ういまや古典的な人間には、インプレッサWRX STIのほうが向いているのかもしれないなぁ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1992年10月デビューした、三菱を代表するハイパフォーマンスモデル「ランエボ」。先代「IX(ナイン)」のデビューから、2年7か月ぶりのモデルチェンジにより、今回で10世代目となる。
「ギャラン・フォルティス」をベースとする車体は、全長×全幅×全高=4495(+5)×1810(+40)×1480(+30)mmで、ホイールベースは2650(+25/カッコ内は「IX」比)mm。トレッドも30mmアップ。最高出力は、280ps/6500rpmの据え置き。いっぽう、最大トルクは43.0kgm/3500rpmに高められた。トランスミッションは5MTと新開発の2ペダルMT「TC-SST」(ツインクラッチ・スポーツシフトトランスミッション)から選択できる。
ラインナップは、基本装備充実の一般向けグレード「GSR」と、競技ベース車両「RS」の2種類。駆動方式は4WDのみ。
(グレード概要)
テスト車は、ベースモデルの「GSR」にメーカーオプション「ハイパフォーマンスパッケージ(21万円)」を装着したもの。
ビルシュタイン社製のショックアブソーバーや、アイバッハ社製のコイルスプリングサスペンション、ブレンボ社製2ピースタイプのベンチレーテッドディスクブレーキ、「245/40R18」の低扁平&大径タイヤなど、「走る」「曲がる」「止まる」を追求した装備が追加される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
インパネは、基本的にギャラン・フォルティスのデザインを受け継ぐもの。ランサーエボリューションならではという部分は、専用の小径ステアリングホイールや、インパネを飾るブラックのパネル、そして、レイアウトを変えたメーターパネルくらい。メーターは、左に回転計、右に速度計というように配置を入れ替えるとともに、どちらもゼロ位置を6時のポジションとしている。
変更点が少ないわりにフォルティスとは明らかに違う印象を受けたのは、ドアを開けると真っ先に目に入るレカロのフルバケットシートの効果だろう。
それでも全体としては、比較的シンプルで、落ち着いた雰囲気にまとめられている。フォルティスと同様、好感が持てる。惜しいのは質感が価格相応といえないところで、豪華さは必要ないが、安っぽく見えない工夫がほしい。
(前席)……★★★★
GSRグレードには、レカロのスポーツシートが標準で装着される。背もたれ、座面ともにサイドサポートが目立つが、乗り降りに難儀することはない。座ってみると、感触はかなり硬いものの、支え方がうまいのか、疲れたり、どこかが痛くなったりしないのはさすがレカロだ。大きく見えるが、比較的小柄な人でも腰や尻がしっかりサポートされるので、スポーツドライビングにはうってつけだ。
残念なのは、ステアリングの調節がチルトのみという点。フォルティスも含め、テレスコピック調整の追加を検討していただきたい。
(後席)……★★★
フロントに据えられた大きなフルバケットシートに前方視界が遮られて、多少圧迫感を覚える後席。しかも、前席ではあまり気にならなかった排気音のボリュームが大きく、乗るなら前席が絶対オススメ。それでも、シートは前席ほど硬くなく快適で、足元も広く、乗り心地も突き上げられるような感じがないから、長時間のドライブでも辛い思いはしないで済みそうだ。
(荷室)……★★
フォルティスからランサーエボリューションになるにあたって、大きく変わったのがトランクとリアシート。エンジンルームにあったバッテリー(そしてウォッシャータンク)を、ヨー慣性モーメントを減らす目的でリアシート背後に収めたために、リアシートは固定式になり、トランクの奥行きは60cm足らず。比較的高さに余裕があるのと、トランクリッドの開閉部にダブルヒンジが使われているのがせめてもの救い。
![]() |
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
クラッチは重め。それ自体はやむをえないとして、発進時に低回転でクラッチをつなごうとして、何度かエンストしたのを白状しておく。ひとたび動き出せば、2リッターの排気量から最高出力280psを発揮する4B11ユニットは、強大なトルクでクルマを押し出してくれる。とくに3000rpmを超えてからが見もので、トップエンドまで強烈な加速が持続するのは頼もしいかぎり。ただ、ライバルのインプレッサWRX STIに比べると、高回転域の伸びが多少物足りないように思えた。
組み合わされる5段マニュアルは、シフトストロークは短めでも、さほどカチッとした手応えがないのがすこし残念。トップの5速で100km/hのエンジン回転数は2800rpmで、これでも巡航ギヤだというが、欲をいえばもう少し回転が低いと助かる。つべこべいわずにデュアルクラッチSSTを選びなさいということか!?
![]() |
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
試乗車は“パフォーマンスパッケージ”と呼ばれるメーカーオプション装着車で、タイヤは標準と同じ245/40R18サイズながら、ハイグリップタイプのADVAN A13Aに格上げになり、さらにBBSの鍛造アルミホイール、ビルシュタインのダンパー、アイバッハのスプリング、ブレンボの2ピースタイプフロント18インチベンチレーテッドブレーキなどが追加されるというものだ。
S-AWCとフロント:マクファーソンストラット、リア:マルチリンクのサスペンションに、オプションのハイグリップタイヤを手に入れた試乗車は、痛快なほどよく曲がる。ステアリング操作に対して鋭い回頭性で応え、吸い付くように路面を捉えながら、コーナーを駆けぬけるのだ。進入スピードが少し速かったかな?というくらいなら、ロールを抑えたまま、危なげなく、オンザレール感覚でコーナリングを終えてしまう。セーフティマージンは大きい。
乗り心地はやや硬めとはいえ、速度によらず落ち着いた動きを示すから、意外に快適。高速巡航時もフラットさは十分で、ロングドライブが苦にならないのはうれしい。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2007年11月9日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:5100km
タイヤ:(前)245/40R18(後)同じ(いずれもヨコハマ・アドバンA13)
オプション装備:BBS社製18インチ鍛造軽量アルミホイール(21万円)
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:340.1km
使用燃料:40.70リッター
参考燃費:8.36km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。