トヨタ・ヴァンガード240S(4WD/CVT)/350S“Gパッケージ”(4WD/5AT)【試乗速報】
脱「RAV4」 2007.09.20 試乗記 トヨタ・ヴァンガード240S(4WD/CVT)/350S“Gパッケージ”(4WD/5AT)……302万8200円/378万4200円
「RAV4」をベースとしながら、280psのエンジンや7シートが与えられた「トヨタ・ヴァンガード」。「アクティブ&ラクシャリー」を謳う新型の乗り味とは?
ちょっと立派で高級
試乗会が開かれるホテルの駐車場には、ピッカピカに拭き上げられた「ヴァンガード」十数台が出番を待っていた。そのほとんどがブラックやダークグレーのボディをまとい、クロームメッキのグリルが上品に映える。そういえば、この手の落ち着いた感じのSUVはこれまでトヨタにはなかった。
ヴァンガードは、RAV4と基本コンポーネントを共用するSUVで、ホイールベースを100mm、全長を235mm拡大することでキャビンに3列シートを収めていた(2列シート仕様も用意される)。エクステリアを見るかぎり、RAV4との共通性は感じられない。RAV4の7人乗りバージョンではなく、あくまでRAV4より1クラス上の、ちょっと立派で高級なSUVなのだ。ちなみに、ヴァンガードは国内専用モデルである。
ラインナップは、2.4リッター直4エンジンを搭載する240Sと3.5リッターV6の350Sの2本立てで、それぞれ5人乗りと7人乗りが用意される。駆動方式は全車フルタイム4WDで、トランスミッションは240SにはCVTが、350Sには5段ATが組み合わされる。
3列目は“おトクな保険”
まずは売れ筋となるはずの240Sの7人乗りを試すことに。少し高い位置にある運転席に収まると、グレーとベージュのツートーンにブロンズ色のメタリックパネルが施されたインパネが目に入る。色遣いこそヴァンガードならではの落ち着いた印象だが、デザインそのものがRAV4と変わらないところが少し寂しい。たとえばメーターを同社のセダンのようなシンプルなデザインに変えるだけでも、それなりに上質な雰囲気に見えそうなんだけど……。
走り出す前に、後席もチェックしておこう。セカンドシートは左右別々にリクラインが可能なことに加えて、前後スライド機構が備わる。スライドを一番前にセットすると、膝は窮屈だが大人でもなんとか我慢して座れるレベル。一方、スライドを一番後ろにすれば、十分すぎるほどのスペースだ。サードシートは、2列目を前に追いやったところで大人には足元が窮屈で、あくまでプラス2と割り切ったほうがいい。ただ、5人乗りに比べて税抜き価格の差は4万ないし5万円に過ぎないし、使わないときには床下にきれいに収まるから、いざというときの“保険”としてサードシート付きを選んでおいてもいいだろう。
ラゲッジスペースは、フル乗車では心細いものの、サードシートを収納した状態なら90cm強の奥行きが確保され、必要に応じてセカンドシートを倒せばフラットなフロアがさらに広がり、室内高にも余裕があるから、カサ張るものを積み込むにも好都合だ。ひとつ不満なのが、7人乗りにトノカバーが備わらないことで、ミニバンほどサードシートの出番が多くない(ことが予想される)7人乗りヴァンガードにも5人乗り同様、トノカバーは必需品だと思うのだが……。
オススメは「240S」
室内のチェックはこのくらいにして、運転席に戻ろう。例によってセンタークラスターのスタートボタンを押してエンジンを始動。セレクターをDレンジに入れてブレーキから足を離すと、ヴァンガード240Sはゆっくりとクリープを始める。タイヤがひと転がりしたあたりでアクセルペダルを軽く踏めば、力強いとはいえないけれど、不満のないレベルの発進加速を見せた。走り始めてしまうと、CVTとの組み合わせにより、アクセルペダルの踏み加減に応じて素早く回転を上げる2.4リッター直4エンジンが3000rpm以下の常用域でも活発な印象で、さらに加速が必要なとき、アクセルペダルを深く踏んでやれば、3500rpmを超えてトルクが盛り上がるエンジンが、ドライバーの期待に応えてくれる。
2.4リッターでこの性能だから、3.5リッターV6なら出足から力強いうえ、追い越し加速は1枚も2枚も上手。4500rpmあたりからレブリミットを目指すときのサウンドもなかなか好ましいもので、スポーティさは2.4リッターをはるかに上まわる。しかし、それほどのパワーは必ずしも必要とは思えず、私は2.4リッターで十分と感じた。
走りっぷりについては、SUV臭い無駄な動きはほとんど感じられず、ステアリングを握っているかぎりはセダンやステーションワゴンと変わらない感覚だ。高速でも落ち着いた挙動を見せる。オールシーズンタイヤが発するロードノイズは多少大きいが、気になるほどのボリュームではない。乗り心地は硬いほうだが、225/65R17タイヤを履く240Sなら充分快適。一方、235/55R18タイヤが標準の350Sでは路面の凹凸を拾いがちで、バランスを考えると240Sが私のオススメだ。
大人の雰囲気と落ち着いた走りで魅力的に仕上がったヴァンガード。“先駆者”という名前のわりに目新しさはないけれど、国内のSUV市場を“先導する者”として見逃せないモデルになりそうなのは確かなようだ。
(文=生方聡/写真=荒川正幸(A)、峰昌宏(M))
![]() |
![]() |
![]() |

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。