ジープ・コマンダー リミテッド5.7 HEMI (4WD/5AT)【試乗記】
ミニバンではない。Jeepなのだ 2006.06.15 試乗記 ジープ・コマンダー リミテッド5.7 HEMI (4WD/5AT) ……673万500円 “ジープ初の3列シート”を採用した、ジープブランドのフラッグシップ「コマンダー」。3列シートの使い勝手と走りを、最上級グレード「リミテッド 5.7 HEMI」に乗って試す。Jeepらしさ全開
Jeepと聞いて、誰もがまず頭に思い描くのは「ラングラー」に違いない。というか、多くの日本人にとってラングラーがJeepであるといっても間違いないだろう。「ウィリス」と言ったあなたは……たぶんマニアである。その次に思い浮かぶのは、私なら初代の「チェロキー」。日本でも一世を風靡したモデルだけに、いまだに強く印象に残っているのだ。
このふたつに共通するのが角張ったエクステリアデザインだった。その雰囲気を受け継ぎ、一目でJeepとわかるフォルムを与えられたのが、Jeepの新しいフラッグシップモデルである「コマンダー」だ。
「グランドチェロキー」をベースに、全長、全幅をそれぞれ35mm、20mm延長したというが、それがにわかに信じられないほど、このコマンダーはボリューム感がある。しかも、2781mmというグランドチェロキーと共通のホイールベースを持ちながら、Jeep初の3列シートを採用したというのもまた驚きである。
サードシートはあくまで“プラス2”
力強いエクスリアとは対照的に、コマンダーのインテリアは豪華な雰囲気が特徴だ。ホワイトのボディカラーには「サドルブラウン」と呼ばれる茶色のレザーシートが組み合わされており、また、ウッドパネルやクロームメッキが施されたパーツが押しつけがましくない程度に配置され、見るからに贅沢なのだ。それでいて、インストゥルメントパネルを飾る六角ボルトが、Jeepらしいワイルドさを主張している。
ユニークな装備としては、セカンドシート上部に設けられた「コマンドビュー」なるグラスルーフ。それ自体はさほど大きくないが、フロントのスライディングルーフとともに開放感向上に一役買っている。
開放感といえば、セカンドシートがフロントよりも一段高い位置に設置されているおかげで、前方視界がきわめて良好だ。
サードシートも視界は優れるものの、大人が座るにはスペース不足で、あくまで“プラス2”と割り切ったほうがいい。セカンドシート中央もシートバックのクッションはないに等しく、できればこの席に座るのも遠慮したいものだ。
その代わり(?)サードシートは、使わないときには荷室のフロアに完全に収納できる。5人乗車時の荷室サイズは、まあ満足できるレベルなのだが、フロアが開口部よりさらに高い位置(地上から約90cm!)にあるため、荷物の出し入れは苦労しそうだが……。
といっても、このクルマはまぎれもないJeepであって、「クライスラー・ボイジャー」ではない。アプローチアングルを確保するため、開口部からして高い位置にあるのだから仕方ない。
余裕あるパフォーマンス
ひととおり室内をチェックし終えたところで、ふたたび高い位置にある運転席に戻る。思いきり足を伸ばして乗り込んだ甲斐あって、アイポイントは高く、またスクエアなボディのおかげで、思っていたほどボディの大きさが苦にならない。
車両重量は2360kgに達するコマンダーだが、5.7リッターV8 OHV「HEMI」エンジンの力を借りればその重さも意識せずにすむ。最高出力326ps/5000rpm、最大トルク51.0kgm/4000rpmを発生するこのパワーユニットは、大排気量エンジンらしく低回転域からきわめて太いトルクを湧き出し、大柄のボディを軽々と走らせる。しかも、このエンジン、高回転も得意とし、4000rpmを超えたあたりから盛り上がりを見せ、気持ちよくレブリミットに向かっていくのが好ましい。ただ、低速走行時になぜかオートマチックがギクシャクすることがあった。
乗り心地は、一般道では快適なレベルだ。高速でも角の取れた快適さはあるが、うねりのある路面を通過したあとなど、ボディの上下動が一発で収まらないのが気になった。また、M+S(オールテレイン)のタイヤが発するロードノイズも大きめである。
残念ながら、今回の試乗では、同時に試乗した他の乗用車と同じルートをたどったので、コマンダー本来の性能を試すには至らなかった。とはいえ、グランドチェロキーとほぼ同等のオフロード性能を有するということだから、その点は十分に期待が持てるだろう。
Jeepはほしいけれど、「合法的に7人が乗れるモデルがなくて……」とあきらめていた人には、まさに朗報となるコマンダーの日本上陸。ただし、さすがにミニバンのような使い勝手は望めないので、そのあたりは十分ご理解を。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2006年6月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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