ジープ・グランドチェロキー トレイルホーク(4WD/8AT)/ラングラー アンリミテッド ルビコン(4WD/8AT)
最強のふたり 2020.02.05 試乗記 フラッグシップSUV「グランドチェロキー」と、本格クロスカントリー「ラングラー アンリミテッド」。オフロードに強い2台のジープは、雪に覆われた北海道の道で、実力の違いを見せつけたのだった。いまとなっては適度なサイズ
2019年に続き、2020年の冬も北海道でジープブランドのプレス試乗会が開催された。例年、北の大地が選ばれる理由は、言うまでもなくジープ自慢の四輪駆動システムを試せることと、「クルマのサイズを気にせず乗っていただけるから」(スタッフ)。
なるほど、初日に割り当てられた試乗車「グランドチェロキー トレイルホーク」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4835×1935×1805mm。たしかに大柄だ。けれども、昨今の、ガタイのよさを競い合うかのようなハイブランドのSUV競争を見ていると、グラチェロの寸法がむしろ堅実なサイズに思えてくるから不思議だ。例えば陸の王者たる「トヨタ・ランドクルーザー」の外殻にすっぽり収まる大きさと聞くと、意外に思う人も多いのでは。
現行グランドチェロキーのデビューは、2009年。その後10年ほどの間に、まわりの新型SUVがどんどん大型化したわけである。いまや懐かしいダイムラークライスラー時代のいわゆるひとつの置き土産として、「メルセデス・ベンツMクラス」とコンポーネンツを共有して開発された、現在の“WK2型”グランドチェロキー。泥臭いリジッドサスペンションを捨てて4輪独立懸架を採用。上級グレードにはエアサスペンションまで装備して、クルマのキャラクターをググッとオンロードに寄せてきた。ちょっと「レンジローバー」入っている? と思わせるクリーンなスタイルにも驚かされたものだ。
そんなグラチェロの“キャラ変”は4WDシステムにも表れていて、オフもこなすグラベル派が「クォドラトラックII」、オンロード重視のターマック派が「クォドラトラック アクティブオンデマンド」と、2種類の4WDシステムが用意されている。
日本でのラインナップでは、3.6リッターV6搭載モデル(最高出力290PS、最大トルク347N・m)がクォドラトラックII、6.4リッターV8(同468PS、同624N・m)の「SRT8」、6.2リッターV8スーパーチャージド(同710PS、同868N・m)を積む「トラックホーク」のモンスター級2車種がクォドラトラック アクティブオンデマンドとなる。前者はセンターデファレンシャルを備えたフルタイム4WD、後者もやはりフルタイム4WDながら、こちらは湿式多板クラッチを用いて前後にトルクを分配するシステムだ。
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道に対する備えは万全
試乗車のグランドチェロキー トレイルホークは、グラベル派の100台限定モデル。リアデフに電子制御式のLSDを装備する。通常のクォドラトラックIIは、左右の差動制限を、回転が速い側の、つまりスリップしているタイヤにブレーキをかけることで実現している。4輪のブレーキを個別に制御するスタビリティーコントロールの応用技術で、ジープでは「BTCS(Brake Traction Control System)」と呼ぶ。トレイルホークは、リアにLSDを加えることで、駆動力を殺すことなく後輪左右間でやりとりをして、より積極的なドライブを可能とした。言うまでもなく、タイトコーナーでのコーナリング速度向上! ……というよりは、小岩やがれきが転がる未舗装路で無駄なくトラクションをかけて前に進むためである。
試乗車となったジープ・グランドチェロキー トレイルホークのボディーカラーは、グラナイトクリスタルメタリック。7スロットのグリルがブラックアウトされる一方、フロント下部の赤く塗られたけん引フックが、いかにもタフなアクセントになっている。
室内装備は「リミテッド」グレードに準じたぜいたくなもの。背もたれに「TRAILHAWK」の文字が入ったレザーとファブリックのコンビシートに座ると、足元左側からフロアトンネルの壁が張り出している。8段のオートマチックトランスミッションと4WDシステムのシャフトのためだろう。
ATシフターの後方には、ジープ自慢の「セレテレインシステム」のモード切り替えダイヤルとボタン類が設けられる。路面状況に合わせてスロットル開度、シフトタイミング、トラクションコントロールなどを統合制御する機能で、「SAND」「SNOW」「MUD」「ROCK」そして「AUTO」から選択可能。さらに、低速で悪路を脱出するための「4WD LOW」や“クォドラリフト”エアサスペンションを活用しての車高調整、急な勾配を一定の速度で上り下りできるセレクスピードコントロールも装備する。オンロード志向のラグジュアリーSUVとはいえ、そこはジープ。備えは万全だ。
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気の置けないSUV
フロントシートはしっかりとしたサイドサポートを備えるが、あたりが柔らかくてやや平板なクッションが、少々ルーズな姿勢も許してくれる。氷点下のドライブながら、取材・撮影のため着ぶくれした格好で出たり入ったりを繰り返すと、暖房が効いた車内では汗をかくほど。思わずシートヒーターならぬシートファンのスイッチを入れて体を冷やしたが、北米発のSUVには、そんな乗員のわがままをおうように受け入れる懐の深さがある。
後席も広い。足元、頭まわりとも余裕があって、多少のスポーツギアとも同居できる。グランドチェロキーは、ジープブランド内ではシティー派の高級SUVとはいえ、前後席の区別なく、車内でワイワイできるカジュアルな感じがいい。
18インチのホイールに装着されるタイヤは、グッドイヤーの「アイスナビSUV」。車外は雪に覆われた白銀の世界だが、ご想像の通り、路上ドライブ全行程を通してAUTOからダイヤルを回す必要をまるで感じなかった。不自然さとは無縁の優秀な4WDシステムである。
エアサスペンションを備えたアメリカンSUVということで、ずいぶんとソフトな乗り心地を予想していたら、思いのほか締まった足まわり。シュンシュン回るV6と合わせ、雪道でもなかなかスポーティーに走る。シャキッとしたハンドリングが印象的だ。ステアリングホイールを握っていて、10年を超えるロングライフモデルの衰えをまるで感じさせない。
この日のプレスブリーフィングによると、グランドチェロキーの属するSUVセグメントで、同車はオーナーの平均年齢が最も若く、40歳なのだという。ちなみに、ライバルと目されるランクルは47歳、「BMW X5」が52歳、親戚筋にあたる「メルセデス・ベンツGLE」は54歳とのこと。弟分たる「チェロキー」からの上位移行ではなく、決め打ちで買う人が多いそうだ。
リアに電制LSDを備えたグラチェロ トレイルホークは、およそ640万円。決して廉価なクルマではないけれど、ヨーロピアンSUVのようにスカして……否、かしこまらずに、惜しげなく使える雰囲気がある。4WDも頼りがいがある。実力に裏打ちされた、まさに気の置けないスポーツ・ユーティリティー・ヴィークルだ。
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ラングラーもAUTOでほぼオーケー
さて、フォードが日本市場から撤退し、キャデラック、シボレーも元気がないなか、新進テスラと並んで(!?)気を吐いているアメリカンブランドが、ジープである。2000年には2000台に届かなかった国内販売台数が、2019年にはなんと1万3360台を記録! 2015年から手ごろでポップなコンパクトジープ「レネゲード」がラインナップに加わったことも大きいが、同ブランド不動のセンターといえばラングラーである。
2017年にフルモデルチェンジを受け、翌年からわが国でも販売が始まった。強固なラダーフレームに前後リジッドのサスペンションをつる基本構造はそのままに、ホイールベースを延ばして特にリアシートの居住性を向上させ、軽量化したボディーを載せたのが、現行の“JL”ラングラー。伝統的な2ドアモデルも残っているが、販売面では4ドアモデルが圧倒的だ。
パワーソースとして、3.6リッターV6(同284PS、同347N・m)に加えて、2リッター直4ターボ(同272PS、同400N・m)がラインナップに加わったことが話題になった。トランスミッションは、両者とも8段ATである。
ジープのキモである4WDに関しては、自動で前後輪に駆動力を分配する「4H AUTO」が設定されたことが新しい。ラングラーが搭載するのは「セレクトラック フルタイム4×4システム」(厳密にはセレクトラックII)と名付けられたシステムで、RWD(後輪駆動)をベースに、必要に応じて電制多板クラッチを介してフロントにもトルクを送るもの。理論的には、前後のトルク配分は0:100から50:50の間で可変する。ATレバーの横に副変速機が備わるが、通常はセレクターを4H AUTOに入れておけば事足りる。
4H AUTOの上の「2H」はRWDを意味する、一般道での燃費向上を狙ったモード。セレクトラックの多板クラッチはロック機構を備える。パートタイムモードでの「4H」、ファイナルギアを下げた「4L」で前後を固定すれば、極悪路面からの脱出で威力を発揮するはずだ。
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やっぱりジープは機能ありき
今回の試乗会は、北海道の星野リゾート トマムがベースとなった。かつて訪れたのは「日産ラフェスタ」の試乗会だったから、10年以上も前のことか。当時はまさに“バブルの遺物”といった様相を呈していたが、いまではすっかりリニューアルされて、おしゃれなリゾートに変貌している。久しぶりに訪れると、海外からのスキー客の多さに驚かされる……って、「何をいまさら」というハナシですが。
試乗前に受けた説明によると、ラングラーオーナーの平均年齢は、ジープブランドの中で最も若い38歳。なんと、レネゲードの41歳より若い! 女性比率は、レネゲードの28%に次ぐ16%。購入者は、迷うことなくラングラーを買うのだとか。まあ、世界中のクルマのなかでラングラー、というか、一般名詞の「ジープ」ほど知名度が高く、キャラクターがハッキリしたクルマはありませんからね。
ジープブランドを扱うFCAジャパンとしてはラングラーの販売好調を受けて、今後は「ジープのある生活」、ライフスタイルの側面もアピールしていきたいようだが、どうなんでしょう? ラングラーほどのモデルなら、有無を言わさずひたすら機能を説明した方が「かえってスタイルが後からついてくるのでは?」と、その夜、氷のブロックでつくられた建物が並ぶアイスヴィレッジで、アイススケートに興じる女の子を見ながら愚考した次第。次回は、ぜひラングラーに、氷の上でダンスを踊っていただきたい。
翌日は、いまにも雪が降り出しそうな厚く重い雲が空を覆っていた。試乗するラングラー アンリミテッドは、オフロード最強版たる「ルビコン」だった。前後のデフにロック機構を追加し、最終減速比を3.454から4.100、4Lのギア比を2.717から4.000に落としたスーパーローを備え、アンチロールバーを解除してサスペンションのトラベルを増やす「フロントスウェイバー・ディスコネクト」機能を持つ。「ロックトラック フルタイム4×4システム」が、4WDの名前だ。
ヨイショと思わず声を出して、クルマに乗り込む。着座位置が高い。悪路での突き上げを吸収させるためか、柔らかめのレザーシート。フロントスクリーンの向こうには見慣れた四角いエンジンフード。右ハンドルの“アメ車”でありがちな足元の狭さを含めて、ジープに乗っている安心感がある。
オートモードで走り始めると、なんとなく上屋が左右に揺すられる感じが、これまた「ボディー・オン・フレーム」構造を守るジープらしい。3.6リッターV6は、黙々とトルクを紡ぎ出す。車外の気温は-6度。路面の雪はあたかも乾いているかのようで、よくグリップする。ルビコンの誇る超絶オフロード性能は出る幕がなさそうだ。
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確実に役立つメカニズム
ジープがもたらすライフスタイルを実体験するためワカサギ釣りに挑戦する参加者たちを降ろし、無粋なジープの運転手はもう少し試乗を続けさせていただく。
試しに駆動方式を2H(RWD)に変更すると、にわかに走りが不安定になる。ちょっとした路面変化やガスペダルの操作で、後輪がしきりにグリップを失うのがわかる。ラングラーのフルタイム4×4は、VSCといった電子制御と力を合わせて、運転者がそれと気づかぬ裏でしっかり機能していたのだ。「氷点下の雪道は通常の舗装路と大して変わらない」と楽観していた粗忽(そこつ)者(←ワタシのことです)は冷や汗をかく。副変速機のギアを4H AUTOに戻すと、ラングラーは再びウソのように安定して走りだした。細かいスリップがほとんど気にならないレベルに落ち着くので、雪道では、こちらの方が2Hポジションより燃費もいいに違いない。
パートタイムの4H、4Lでセンターロック、さらにルビコンでは、フロントデフ、フロント+リアデフのロックが可能だが、これらは“曲がること”は考慮されない。普通のラングラーオーナーにとってはもっぱらスタックからの脱出用で、悪路走破の競技にでも出ない限り、積極的に使うことはまずないだろう。
強力無比な4WDシステムを持つラングラー ルビコンといえども、当たり前のことながら、4本のタイヤが持つグリップ以上のことはできない。例えば登り坂で4輪が空転するような状況では、いかなロックトラックシステムといえども、そのまま登り続けることはできない。同じことは、コーナリングやブレーキングの際にもいえる。タイヤがグリップを失う前に、ドライバーが注意する必要があるのだ。なんだかエラそうで恐縮ですが。
優れたフルタイム4×4システムは、雪道では諸刃(もろは)の剣である。安心・安定して走れる一方、ドライバーは物理の法則を忘れがちになる。かつてのマニュアルトランスミッションのジープなら、後輪が滑り出したらガチャリと副変速機を4WDに入れ、タイヤがスリップしそうになったら半クラッチを駆使して慎重に危険箇所を抜けて……といった具合に、運転者も駆動方式に組み込まれていた。もしかしたら、そこから悪路や自然に対するリスペクトが自然と湧いてきたのではないか。長い歴史を持つクルマに乗っていると、際限なく思いが広がっていって、困る。そんなところもまた、ジープ・ラングラーの魅力かもしれない。
(文=青木禎之/写真=ダン・アオキ、FCAジャパン、webCG/編集=関 顕也/取材協力=星野リゾート トマム)
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テスト車のデータ
ジープ・グランドチェロキー トレイルホーク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×1935×1805mm
ホイールベース:2915mm
車重:2260kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:290PS(213kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)265/60R18 110Q/(後)265/60R18 110Q(グッドイヤー・アイスナビSUV)
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:641万6666円/テスト車=641万6666円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2019年型
テスト車の走行距離:1万0131km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:159.9km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:7.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1895×1850mm
ホイールベース:3010mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4100rpm
タイヤ:(前)265/70R17 115T/(後)265/70R17 115T(ミシュラン・ラティチュードX-ICE)
燃費:9.0km/リッター(JC08モード)
価格:612万円/テスト車=647万5850円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション パフォーマンスロックレール(28万2150円)/ロゴ入りナンバーロックボルト(6820円)/Jeepエンブレム(5500円)/エアコンダクトプレート<6枚セット>(1万4300円)/ショートアンテナ<カーボン>(1万0780円)/オールウェザーフロアマット(3万6300円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1万2477km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:192.7km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。