第5回:新型「フォード・マスタング」にみる、アメリカンスポーツカーの可能性(桃田健史)
2006.10.11 アメ車に明日はあるのか?第5回:新型「フォード・マスタング」にみる、アメリカンスポーツカーの可能性
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■SUVは売れなくても、スポーツカーは売れる
アメリカで予想外に「マスタング」が売れている。2006年8月のアメリカ国内月販台数は1万7993台にも達したという。
財政的に窮地に追い込まれているフォード。生命線であるフルサイズピックアップトラック「F150」の売り上げ下降が今夏から顕著になった。CEOの交代、GMや日産との提携交渉の報道、傘下のアストンマーティンやジャガー身売りの噂などなど。自動車の大衆化を世に知らしめたフォード社にとって、いまこそ同社史上最大の大転換期であることは間違いない。
そうした現状で、ひとり(1台?)気を吐いているのがマスタングである。ガソリン高騰で巨大SUVが売れなくなっても、スポーツカーは売れるのだ。
GM「シボレー・コルベット」や「日産350Z(フェアレディZ)」、さらには「ポンティアック・ソルスティス」「サターン・スカイ」などの新種コンパクト系を含めて、スポーツカーたちは元気がいい。さらに、「シボレー・カマロ」も復活決定、「ダッジ・バイパー」の進化バージョンも登場するらしい。
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■アメリカ人の心のよりどころ
60年代に誕生した初代マスタングの愛称はポニー(子馬)カー。かの、リー・アイアコッカ氏が仕掛けた大衆スポーツカーであった。70年代初頭の「マッハ1」を境に、マスタングのイメージが急降下。「そんじょそこらのアメ車クーペ」に成り下がっていった。
そして登場した最新型。最近どこのメーカーでも流行の“原点回帰”を謳った。新型はポニーカーを通り越えて、「マッスルカー復活!」イメージを強烈に推し進めている。
さらに、東南アジア系米国人チーフエンジニア氏の陣頭指揮のもと、V6モデルで2万ドル以下、V8モデルで3万ドル以下という商品コンセプトを貫き、価格競争力を武器に「往年のマッスルカー好き男性」や、「ちょっと風変わりなセクレタリーカーが欲しい女性」など、見るからにアメリカンなヤツラをドンドン囲い込んでいる。
だから、マスタングのテレビCMも派手系が多い。ニューヨーク・ブロンクスあたりの倉庫街で、激しくバーンアウト(!!)。いかにもロングホイールベースFR車らしく、ゆったりとした姿勢のフルカウンターで交差点を立ち上がる。
60代おじいちゃんが助手席、20代前半の孫が運転席。夜中の、とあるパーキングエリア。バーンアウトしながらV8で遊ぶふたり。興奮気味の孫にお爺ちゃんが「もいっちょ、いってみっか!」、とハッパをかける。
そして最近登場の「シェルビーGT500劇走編」。アウトバーンと思しきハイスピードロード、小雨振るなかを全開走行。目の前にあらわれた「ポルシェ・カレラGT」に「邪魔だ、どけ!!」という態度でシフトダウンして全開加速……。
以上、どれもが「ありえねぇー!」ハリウッドっぽい状況設定である。だが、マスタングならここまでやっても、アメリカ人の多くは笑って許してくれるのだ。
マスタングとは、アメリカ人の心のよりどころなのかもしれない。
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■アメ車の明日の指南役
話は変わって、日本。
「しいていえば、マスタングぐらい、ですかネ」
外車系月刊誌の編集者がポツリと言う。
「ハマーH2」がブレイクし「クライスラー300C」に飛び火した、日本でのアメ車“プチ”ブーム。その次の候補は、マスタングしかいないようだ。
「環八(東京・環状8号線)あたりで最近、古いアメ車がメッキリ減りました。『所ジョージが長年仕掛けてきた、革ジャン着てるタイプのアメ車好き』が激減ナンですヨ」と、前述の編集者。「でも、名古屋方面に行くと、H2を含めて新しいアメ車がよく売れています。1世代前の『(リンカーン)ナビゲーター』など入荷するとすぐ掃けるそうですから」とも言う。
アメリカのように道幅が広く、さらにトヨタ景気で盛り上がる中京地域は、日本のアメ車一大消費エリア。そこでも、マスタングに火がつきそうな気配があるようだ。
今、多くのアメ車たちが将来の方向性を失いかけている。それは、あまりに日本車や韓国車、さらには欧州車を意識し過ぎるからではないか。アメ車ならアメ車らしく、ドバッと弾けてみてはどうだろう。
デザインもテレビCMも弾けた、新型マスタング。こいつがアメ車の明日を指南する役になりそうだ。
(文=桃田健史(IPN)/2006年10月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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