フォード・フィエスタST(FF/5MT)【試乗記】
野太く骨っぽいホットハッチ 2006.09.12 試乗記 フォード・フィエスタST(FF/5MT) ……249万円 2006年6月、フォード・チームRSが手がける「STシリーズ」が一新された。「フォーカスST」「モンデオST」に少し遅れて発売された末っ子の「フィエスタST」。内外装が変更され、よりスポーティな印象になった新型は、どんな走りを見せてくれるのか。あっさりしょうゆ顔
現在買える輸入車で、特定の国籍に属さない唯一のブランドが、ヨーロッパ・フォードである。そのためか、エクステリアデザインはどれもシンプル&クリーンだ。他のブランドが、グリルをガバッと大きくしたり、フェンダーをドカッと張り出したりしても、知らんぷり。減塩醤油並みのあっさりフェイスである。
もしかしたらヨーロッパ・フォードは、グローバルカーとしての責務を意識して、どの国の景観にも違和感なく溶け込むデザインを目指しているのかもしれない。先日マイナーチェンジを受けたフィエスタSTを前にして、そう思った。
ヘッドランプやリアコンビランプは、円を基調としたデザインに変わった。でも全体的な印象は、あっさりすっきりのまま。ここまで徹底していると、いさぎよさを感じてしまう。濃厚化が進む純血のライバルに感化されず、今後も素肌美人であり続けてほしいと思った。
インパネまわりは若干変更
一方のインテリアはマイナーチェンジ前に比べると、お化粧を覚えた感じだ。黒一色だったインパネはセンターパネルを残してブルーになり、メーターは大径になって、オーディオは流行のセンターダイヤルを取り入れた。たしかにこのほうが目立つが、フォードらしさは前のほうが上ではないかと思えた。
ブラックレザーとブルーのファブリックをコンビさせ、STのロゴを縫い込んだフロントシートは今までどおり。クッションはやや硬めだが厚みはあるし、もものあたりをしっかりサポートしてくれる。シートバックは剛性感があり、背中の張りが心地よい。ヨーロッパ生まれを実感する、手抜きのない作りだ。
リアシートは、サイズは小さく形状は平板になるが、身長170cmの自分が前後に座った場合、ひざの前には約15cmの余裕が残り、頭上も余裕がある。空間はこのクラスのトップレベルだ。ラゲッジスペースも同じことがいえる。
走りはイギリス風味!?
デザインはグローバルカーの匂いがするヨーロッパ・フォードだが、走りはドイツ車とイギリス車の美点を合わせ持った存在に思える。そしてスポーティなモデルほど、イギリス車寄りになる感じがする。
ヨーロッパ・フォードといっても、主要拠点はイギリスとドイツであり、WRCを戦いSTを生み出したチームRSの本拠地は英国にある。見た目はグローバルでも、走りには生まれた場所が反映されているというわけだ。
それをまず証明したのがスタートの瞬間。スロットルレスポンスが鋭く、ボトムエンドのトルクが細いエンジンと、スパッとつながるクラッチのために、発進にやや気を遣わせるあたりが、日本やドイツのホットハッチと違う。
でも動き出してしまえば、1130kgのボディを2リッターで動かすだけあって、低回転からグイグイ加速していく。高回転も苦手ではなく、5000rpmで吹け上がりが勢いづいたあと、レッドゾーンに吸い込まれるように伸びていく。2リッターで150ps/6000rpmというスペックに現れないドラマを秘めている。
音は昔のミニを思わせるような、少しこもり系の重低音。車格からするとかなり豪快で、ボリュームはそれなりなので、クルージングでは2リッターのトルクを生かし、高いギアを使い回転を抑えて走りたくなる。
シフトレバーのタッチはややねっとりしていて、ストロークはさほど短くはないが、動きはコクコクと確実。ペダルはヒール&トゥに最適な配置だ。このあたりはWRCという厳しい現場を知っているチームRSの作品らしい。
![]() |
強靱なボディ剛性
乗り心地はそれなりに硬め。ステアリングの切れ味はスパッと鋭い。このあたりも、いまのミニよりミニっぽい。ただし街なかレベルで試した限り、コーナリングはけっこう安定していて、立ち上がりでフルスロットルにしても確実なトラクションで駆動力を前進力に変えてくれる。ボディの剛性感は、強靱という言葉がふさわしい。このあたりはドイツ車を思わせる。
軽快さ、繊細さが目立つラテン系のライバルと比べると、フィエスタSTは野太く骨っぽいホットハッチだった。グローバル・ファッションの内側では、ジョンブル魂とゲルマン魂がいいカタチで融合していた。作りはしっかりしているのに、味はちょっとなつかしい。国籍にこだわらないからこそ手にできる個性もあることを教えられた。
(文=森口将之/写真=高橋信宏/2006年9月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。