ボルボS80 3.2(FF/6AT)/V8(4WD/6AT)【海外試乗記】
貫かれる“ボルボ流” 2006.07.20 試乗記 ボルボS80 3.2(FF/6AT)/V8(4WD/6AT) ボルボのフラッグシップサルーン「S80」。生まれ変わった新型も先代同様、直6&V8をフロントに横置きするレイアウトを踏襲した。その裏には、ボルボの安全設計に対する考えが貫かれているという。チョクロク横置きのワケ
ボルボのフラッグシップ「S80」が新型に切り替わり、本国スウェーデンで国際試乗会が催された。新型は先代に較べて、長さは同じだが幅と高さが若干拡大され、全長=4.85m、全幅=1.86m、全高=1.49mとなった。搭載されるエンジンは、「XC90」に採用した狭角V8エンジンと、新設計になる直列6気筒。世界的に、今や珍しくなったストレート6を新開発したのだから注目の的だ。また、いずれもフロントに横置きされる点も、またボルボ流である。
客観的に見て、衝突安全に関して一番熱心かつ、実績もあるのがボルボだろう。いくつかのゾーンに分けた剛性の違う部位の、変形によるショック吸収を効果的に組み合わせ、安全構造とした「ゾーン・システム」はボルボが特許取得済みである。世代的には「S40/V50」から採用されており、今回のS80もこれにならった。
その筋書きをおさらいすると、「クラッシャブル・ゾーンは長ければよい」という時代から一歩進んで、「短いゆえに効果的にショックを吸収する」レベルに高められた。たとえて言うなら、キャッチボールでボールを受け止めた瞬間にちょっとグローブを引く、あのショック緩和に似ている。それゆえ新しいS80は、先代と同じ全長で、より高レベルのパッシブセーフティを獲得したワケだ。
エンジンの搭載方式もしかり。縦置きエンジンは衝突時の室内侵入を早期に許すが、横置きエンジンの前後寸法の短さはパッシブセーフティにより有利なだけでなく、ショックを受け止める幅においても、FF方式と相まって広範囲をカバーできる。今さら直列6気筒を新設計してまで横置きする裏には、そこを強調する意図も含まれている。
コンパクトが身上の新エンジン
とはいえ、広いタイヤ幅やサスペンション・アームの長さを確保するのに冗長さは敵。つまり、ムダに長い直列6気筒を横置きするのは、クルマを設計するうえで不利だ。
ボルボの新型6気筒は、今までの2.9リッター直列6気筒より3mm長いだけ。ブロックの全長は625mmに納められた。しかし、排気量は3.2リッターとこれまでより300cc大きい。排気量を拡大したのにコンパクト……このマジックは、補器類の収納の工夫によるものだ。パワーステアリングポンプやエアコンのコンプレッサー、ベルト類などはギアボックス側の上辺にまとめられ、側端はスッキリとしていて、なにもない。
ボアピッチ93mmに対して、84mm径のピストンが6個並び、同じ直6をつくるBMWエンジンよりシリンダー間の壁は十分に採られている。一方、ストロークは96mmと相当に長い。よってかなり丈の高いエンジンだ。直列6気筒は長めのクランクシャフトを持つが、ねじれによる振動に対しては、バランス・シャフトのような慣性シャフトをブロック内部に通すことで対応する。これは内外2軸になっており、クランクからはギア駆動にして直動でダイナモを回す。回転を半分に減速するカムシャフトの駆動は、その外軸からブロック内部を通ってチェーンで回される。これらの回転物は、通常のトーショナルダンパーが省略されているための慣性重量を補うことにもなる。ATと組み合わされることもあり、フライホイールなどを含む回転慣性マス全体が小さいため、蓄えられるはずのトルクが心配になるところだ。
V8はXC90でお馴染み、ヤマハ製の4.4リッター。60度のバンク角を持つコンパクトな設計で、クランクはオフセットされ、さらにバランサーシャフトも備わる。組み合わされるギアボックスは、直6エンジンともども、アイシン製の6段ATだ。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアはマルチリンクの独立懸架式。室内で切り替えの利く、お馴染みになった可変ダンパー「FOUR-C」を装備する。なお4WDはこれまで通りハルデックス社のオンデマンド型を改良して搭載する。パワーステアリングは車速感応型となり、アシストを3段階にセットできるようになった。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
期待に違わぬ素性のよさ
外観のデザインは一目でボルボと判るS60やS80の流れに沿うものの、よりグローバルなトレンドに沿って、「アウディA6」や「BMW5シリーズ」に雰囲気が似てきた。特に空力上の処理で絞ったテールは、サイズをよりコンパクトに見せるし、前記2車にも類似している。
走り出して最初に感じるのは、静粛性を始めとする快適性の向上だ。ボルボとしては初めて、セダンにV8エンジンを採用したということもあり、これまでのS80に比べても大幅にプレミアム・ラクシャリーカーとしての資質を上げた。
マルチシリンダーによる滑らかさや、排気量によるゆとりの走りもさることながら、軽快にして洗練された走行性は、これまでのボルボ車のイメージから一段高いところにある。旧S80で気になった、アーム長に起因するバンプステアやトルクステアも払拭されていることはいうまでもない。
注目の直列6気筒エンジンについては、滑らかさはもちろん感じられたし、直6ならではの快音を発して回る。クランクシャフトの長さゆえに、元来、高回転まで攻めるべきエンジンではないが、少なくとも6000rpm までは十分に滑らかな範囲にあるし振動も高まらない。ATとのマッチングは車の性格上、滑らかさが身上と考えていいだろう。それゆえ、繋がりをスムーズにするためか、ややおっとりした回転合わせが行われるが、もちろん繋がってしまえばシャープなレスポンスが発揮される。
ただし、2000rpm 以下の低回転領域においては、大きな排気量やロングストロークエンジンに期待するより低いトルク感であるなど、まだまだチューンの可能性が垣間見える。
ともあれ基本的な部分では、期待に違わぬ素性のよさが認められた。エンジン設計から車両開発まで、徹底して“ボルボ流”が貫かれたフラッグシップの登場といえるだろう。
(文=笹目二朗/写真=ボルボ・カーズ・ジャパン/2006年7月)

笹目 二朗
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。








