トヨタ・エスティマ3.5G 7人乗り(FF/6AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・エスティマG 7人乗り(FF/6AT) 2006.04.10 試乗記 ……515万5920円 総合評価……★★★ 3代目ニュー「エスティマ」に新しく採用された、280psを発生する3.5リッターV6エンジン搭載のトップグレードに試乗。高性能版の走りはどうなのか。価格に見合っていない
見た瞬間は思い出せなかったが、どっかで会ったような顔だと思ったら、2004年のフランクフルトショーに登場したシトロエンの「エアーラウンジ」にイメージがそっくり。とはいえ、十分に個性的で迫力あるデザインである。内装も明るくシンプルな意匠でありながら、本革シートなどを備えたこの仕様は豪華な雰囲気も味わえる。テスト車はエンジンも3.5リッターV6を積む高性能版。しかし、価格は本体で344万4000円、オプション込みで500万円を超える、と聞いてしまうとちょっと受け取り方は違ってくる。
アイドル振動は並レベルで、ビリビリとハンドルに伝わってくる。レクサスとは違うものだ。乗り心地もトヨタが想定した範囲内であれば快適だが、ちょっと路面からの入力が大きくなると、バネ下の動きを抑えきれないでブルブルとくる。大きめの目地段差では上下動の姿勢変化は大きくフラット感に欠ける。シートに座って文字を書こうとすると、振動でうまく書くことができない。シートそのものもサイズがやや小振り、サイドブレーキは廉価版の2度踏みリリース方式のまま……とか、じっくり観ていくと結構舞台裏も見えてきて、その辺の安物感が価格に見合っているとは思えなくなってしまう。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
初代「エスティマ」は1990年にデビュー。10年後に生まれ変わった2代目を経て、2006年1月に3代目へと進化した。プラットフォームなど中身を一新。エンジンは2種類で先代3リッターに替わるパワフルな3.5リッターV6(280ps、35.1kgm)は、4段から一気に6段へとグレードアップしたATとの組み合わせ。2.4リッター直4(170ps、22.8kgm)は先代からの改良版で10ps、0.3kgm増。こちらはCVTとなる。全車マニュアル感覚でシフトできる「シーケンシャルシフトマチック」を装備。4WDは、電子制御カプリングで前後の駆動力を配分する「アクティブトルクコントロール4WD」である。
シート機構では、2列目を2席とした7人乗り仕様には「リラックスキャプテンシート」を採用。800mmも移動できる前後スライド機構、角度調整が可能なオットマン付きのシートで、3列目を格納すれば、前席後ろから2列目ヒップポイントまで1580mmものスペースが広がる。8人乗り仕様では、2列目を6:4分割可倒式の3人がけとした。7、8人両仕様とも3列目は6:4分割可倒式で、電動(オプション)か手動でシートを床下に格納することができる。
キー携帯で解錠・施錠、エンジン始動ができる「スマートエントリー&スタートシステム」は全車標準装備。
(グレード概要)
「G」は上級グレードで、テスト車は3.5リッターエンジン搭載の7人乗り。2列目には標準で「リラックスキャプテンシート」が備わる。
3.5リッターモデルには車両安定性を高める「S-VSC(ステアリング協調車両安定性制御システム)」が、Gにはレーダークルーズコントロールとレーンキーピングアシストなどの安全装備、さらにその7人乗りには本革シートがオプションとして用意され、テスト車はすべてを装備している。66万円を超えるHDDナビゲーションシステムには、天井パネル自身が振動して音を発する「パノラミックスーパーライブサラウンドシステム」が含まれる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
トヨタにしては比較的シンプル。センターメーターは全員参加意識をもてる。小さめに配した木目のフィニッシャーも効果的で高価格車なりに見た目の納得はできる。センターダッシュに生えるATシフトレバーも操作に対する重さが適当で、最近流行りの単なるスイッチの軽々しさがなく重畳。ドアミラースイッチはアームレストに移したほうが操作しやすい。ステアリング前のETCカード入れなどの小物ポケットは便利で使いやすい。
(前席)……★★★
座面の前後長が短かく後傾角も少なめで落ちつかない。いわゆる腰掛け型で長時間座っていると疲れるタイプ。ハイトコントロールで前端のみを上げると角度的にはまずまず。ステアリングのチルト&テレスコピック調整が効いて、ドライビングポジションを好みの位置に合わせやすい。ドアミラー調整スイッチはベルトをしてしまうと遠い。ノーズが短いとはいえウィンドスクリーン直下が見えない不安はある。
(2列目)……★★★★
このクルマの中での特等席。前席のシートより座面の前後長も長く、後傾斜角も大きく採られており、独立した2脚しかないので横方向の空間もありゆったり寛げる。またオットマンを引き出せば脚をのばしたままくつろぐことも可能で、筆者も試すうちに不覚にも眠ってしまった。前後のスライド量がたっぷりあるため、ホイールベース間のどこに座るかで微妙に乗り味も違う。後方になるほどリアアクスル周辺の動きや、ワゴンボディにありがちなこもり音などが大きくなる傾向だ。
(3列目)……★★
電動全自動で収納設置はお手軽。3人掛けのサイズとしてはミニマム。背もたれの調整機構は一切なし。座面はフラットに近く本当の意味で腰掛け。しかし評点は低いものの、短距離緊急用であると割り切れればさして問題とはならない。ちょっと駅までの送迎程度ならば我慢の範囲内にある。引き上げ式のヘッドレストは後方視界確保に有効。
(荷室)……★★★
定員乗車時の荷物室と考えると、あまり大きなスペースは確保されていない。それでも3列目シートが収まるべき部分の穴は結構深くて広い。そして当然ながら、たくさん積みたい時には3列目シートを畳んで、さらに2列目を前までスライドさせれば、かなり大きな物でも収納可能。パワーバックドアは力任せに閉めなくともよくスマート。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
アイドル振動は並で、トヨタ車のレベルとしては期待以下。4気筒エンジンでももっとマシな例は多々ある。パワーに関しては十分で、1.9トンのボディを軽々と高速域に誘う。また急坂の上りでもグイグイ加速していく。ATは変速上手だが、マニュアルモードでのギアポジション表示はその時々の位置がわからない。減速時のシフトダウンにおける回転合わせはうまい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
ラバーブッシュなどのチューンはうまくいっており、ショックは抑え込まれているが、目地段差などでも大きめの入力になると姿勢変化大きく上下動を許す。軋み音など低級音の発生はトヨタ車らしくないと言える。シートが全体に小振りで腰掛け型ゆえ、長時間は疲れる。操縦安定性は破綻しないようにまとめられてはいるが、制御系の微小な動きは自然に感じるように身を隠すべきだろう。グニャグニャした動きは足元の剛性感を削ぎ、やや不安。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:笹目二朗
テスト日:2006年3月8日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年式
テスト車の走行距離:2513km
タイヤ:(前)215/55R17 (後)同じ(いずれもヨコハマ DNA dB)
オプション装備:S-VSC+レーンキーピングアシスト+レーダークルーズコントロール+プリクラッシュセーフティシステム(ミリ波レーダー方式)=54万6000円/大型ムーンルーフ&サンシェード=8万9250円/クリアランスソナー&バックソナー=4万2000円/パワーバックドア+6:4分割・床下格納機能付サードシート 電動=13万7550円/本革シート=19万6350円/HDDナビゲーションシステム=66万5700円/デッキボード=2万370円/ETCユニット=1万4700円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:292.3km
使用燃料:34.3リッター
参考燃費:8.52km/リッター

笹目 二朗
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。