トヨタ・エスティマハイブリッド アエラス プレミアムG(4WD/CVT)/エスティマ アエラス プレミアムG(FF/CVT)
優美であるという価値 2016.07.11 試乗記 登場から10年以上の時を経て、3代目「トヨタ・エスティマ」に本格的な仕様変更が施された。大がかりなテコ入れで、ミニバンとしての使い勝手や走りは、どのように変化したのか? ガソリン車とハイブリッド車の2車種に試乗して確かめた。気がつきゃ市場は様変わり
「天才タマゴ」が出現したのは1990年。四半世紀が経過し、日本のミニバン市場はすっかり様変わりした。未来型MPVという触れ込みだったトヨタ・エスティマは、現在では主流の地位から外れてしまった。スペース効率のいいハコ型全盛の中では、なめらかな曲面で構成されたスタイルは異端の趣がある。
2006年に登場した3代目が、11年目にしてマイナーチェンジを受けた。これまでにもたびたび小変更が施されてきたが、今回はエクステリアデザインを刷新する大がかりな手直しである。
見た目の違いはわかりやすい。フロントマスクは今風のトヨタ顔にアップデートされた。キーンルックと大きな開口部を持つグリルの採用により、「オーリス」「アクア」などと近縁性を感じさせるデザインに生まれ変わっている。空力を考慮するとフロントフェンダーはどのクルマでも同じような形状になってしまうが、苦労してオリジナルデザインにうまく融合させた。よく見ると、ボディーの至るところにエンジニアが「さかなクン」と呼ぶ小さなフィン形状の空力パーツが付け足されている。これが思いのほか大きな効果をもたらすらしい。
新色を採用したことに加え、トヨタのミニバン初となる2トーン仕様が新鮮だ。ルーフをブラックにすることで上下がくっきり分かれ、寸法の割に全高が低く見える効果がある。塗装作業は手間がかかる。まず本体部分を塗ってから数カ所に分けて広い面積にマスキングを施し、ブラック塗装を行っている。通常とは逆のやり方で、生産部門に無理を言って実現したそうだ。仕上がりのきれいさはドアを開けてボディーの内側まで見なければわからないが、おろそかにはしなかった。
シックで上品な女性にアピール
内装にも手が入っている。センタークラスターやメーターパネルのデザインを変更し、新たにサテン調の装飾オーナメントを施して質感向上を図った。内装色はブラックを基調とし、落ち着いた印象を演出する。
2年前にエスティマは女性誌『VERY』とコラボした特別仕様車を発売し、黒基調の内装をアピールしていた。『VERY』は30代から40代の主婦がターゲットで、「シロガネーゼ」という流行語を生んだライフスタイル誌だ。読者層はエスティマのユーザー層にほぼ重なっている。きらびやかでゴージャスな装いではなく、シックで上品な美意識をよしとする女性たちである。だから、エスティマも派手さや押し出しの強さを追求する路線はとらない。エクステリアもインテリアも抑制されたしつらえで、ケバさとは無縁だ。
3代目エスティマが登場してから10年の間に、売れ線は完全にハコ型ミニバンに移行した。トヨタではエスティマよりも大きな「アルファード」「ヴェルファイア」が高級ミニバンの地位を確立し、5ナンバーサイズの「ノア」「ヴォクシー」「エスクァイア」3兄弟が驚異の売り上げを誇る。どちらも最大限のスペース効率を確保するスクエアなフォルムで、インパクトの強い顔つきだ。エスティマとは正反対の世界観が見て取れる。
サイズ的には、エスティマは両ハコ型ミニバンの中間ということになる。アル/ヴェル(標準ボディー)は全長が4915mmで全幅が1850mmという堂々たる体格。ノア/ヴォク(標準ボディー)は全長が4695mm、全幅が1695mm。対するエスティマは全長4820mm、全幅1810mmだ。
一段上の上質な乗り心地
試乗会場にはノアのG'sモデルがあったので、並べて眺めてみた。思ったほど大きさの違いは感じられず、横から見た感じではむしろノアのほうがきゃしゃなイメージだ。エスティマの全高は1730mmから1760mmで、1800mmオーバーのノアと比べると明らかに低い。丸みを帯びたワンモーションフォルムは優美で、角が張った威圧感のあるノアよりも控えめなたたずまいになる。
あくまでもマイナーチェンジであり、骨格に変更はない。ということは10年前のままということになるが、乗ってみるとノア/ヴォクよりも明確にしっかり感があった。ノア/ヴォクも決して安っぽい乗り心地ではないが、エスティマには一段上の上質さを感じる。運転席だけではなく、2列目や3列目に座っても印象は同じだった。
新たに取り入れられたのが、フロントに装着されたパフォーマンスダンパーである。路面から伝わる微振動を吸収しつつシャープなハンドリングを実現するとされており、これが効果をあげているのかもしれない。サスペンションにも手が入れられていて、操縦安定性の向上が図られている。
エンジンは2.4リッターの直列4気筒で、「エスティマハイブリッド」はフロントとリアにモーターが配されて四輪駆動となる。ハイブリッドモデルのほうが当然パワフルで、燃費性能でもはるかに優秀だ。ただ、運転感覚ではガソリン車のナチュラルさに軍配を上げたくなった。約100万円の価格差があるから、別のモデルだと考えたほうがいいのだろう。
色あせないシートアレンジ
先進安全装備の「Toyota Safety Sense C」は全車に標準装備される。レーザーレーダーと単眼カメラを使って運転支援を行うもので、プリクラッシュセーフティーシステムやレーンデパーチャーアラートなどの機能を持つ。すでに必須の装備と考えられるようになっており、マイナーチェンジの機会に採用されたのは朗報だろう。
新しい試みとしては、紫外線を99%カットするスーパーUVカットプライバシーガラスをフロントだけでなくリアにも採用したことが挙げられる。どの席に座っても日焼けに対する防御力があるということで、試乗会場でのデモを見る限り確かに効き目があるようだ。ナノイー効果をうたうエアコンと合わせ、女性から高い評価を受けるだろう。
シートアレンジは従来通りである。とはいっても、現在の水準から見てもまったく色あせていない。サードシートは電動床下格納機能付きで、スイッチひとつで操作できる。フラットな荷室が出現するので、普段はこの状態で乗っているユーザーが多いそうだ。セカンドシートは前後最大800mmの超ロングスライド機構が付いていて、横スライドもできる。オットマンも装備されているおもてなし席なのだ。
開発責任者の水澗英紀氏は、「エスティマはミニバンのある種の完成形」だと話した。「シエンタ」以外のミニバンを抱えるCVカンパニーを率いる水澗氏はノア/ヴォクの開発も担当しているが、エスティマの先進性にはリスペクトの念を隠さない。「初代モデルは運動性能と居住性を両立させた画期的なパッケージングだった」と語る。同時に、「背の低いミニバンの需要が将来的に復活することはないだろう」と冷静な分析をする。グローバルな展開を考えるなら中国で販売を伸ばすことが必要だが、市場は未成熟で見込みは薄い。
主流にはなり得ないが、エスティマには確実に一定の支持がある。販売台数の約4割は南関東なのだそうだ。東京と神奈川で販売が伸びている。「ゴッホより普通にラッセンが好き!」というフレーズにうなずいてしまうような層には届かないかもしれないが、タマゴが今も天才だと考える人々も間違いなく存在している。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
トヨタ・エスティマ アエラス プレミアムG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1810×1730mm
ホイールベース:2950mm
車重:1820kg
駆動方式:FF
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:170ps(125kW)/6000rpm
最大トルク:22.8kgm(224Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ダンロップSP SPORT 270)
燃費:11.4km/リッター(JC08モード)
価格:370万473円/テスト車=448万4337円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/6:4分割床下格納機能付きシート<電動>(8万6400円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/SRSサイドエアバッグ<フロントシート>&SRSニーエアバッグ<運転席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<フロントシート・セカンドシート・サードシート>(8万1000円)/盗難防止システム<国土交通省認可品>イモビライザー+オートアラーム(5400円)/アクセサリーコンセント AC100V・100W(8640円/1個) ※以下、販売店装着オプション T-Connectナビ9インチモデル DCMパッケージ(28万4580円)/マルチビューバックガイドモニター(3万240円)/11型後席ディスプレイ(9万7200円)/ITSスポット対応DSRCユニット<ビルトインタイプ>・ナビ連動タイプ<ETC・VICS機能付き>(3万2724円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>エントランスマット付き(8万2080円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:954km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ・エスティマハイブリッド アエラス プレミアムG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1810×1760mm
ホイールベース:2950mm
車重:2010kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/4000rpm
フロントモーター最高出力:143ps(105kW)
フロントモーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
リアモーター最高出力:68ps(50kW)
リアモーター最大トルク:13.3kgm(130Nm)
タイヤ:(前)215/60R17 96H /(後)215/60R17 96H(トーヨー・トランパスJ48)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)
価格:492万8727円/テスト車=563万9151円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック×ダークシェリーマイカメタリック>+215/60R17 96Hスチールラジアルタイヤ<17×7J切削光輝アルミホイール>&センターオーナメント ブラック塗装(5万4000円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/SRSサイドエアバッグ<フロントシート>&SRSニーエアバッグ<運転席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<フロントシート・セカンドシート・サードシート>(8万1000円)/盗難防止システム<国土交通省認可品>イモビライザー+オートアラーム(5400円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ9インチモデル DCMパッケージ(28万4580円)/マルチビューバックガイドモニター(3万240円)/11型後席ディスプレイ(9万7200円)/ITSスポット対応DSRCユニット<ビルトインタイプ>・ナビ連動タイプ<ETC・VICS機能付き>(3万2724円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>エントランスマット付き(8万2080円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:950km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。