キャディラック・エスカレード【試乗記】
最大の敵は「SRX」(?) 2004.04.01 試乗記 キャディラック・エスカレード ……764.4万円 「全長5.1m……はともかく、横幅2m超はいかがなものか」と、日頃から考えていた『webCG』エグゼクティブディレクター大川 悠。そんな巨躯のSUVを、実際に自分で運転してみるとどうなのか? 意外に……。日本で見ていると好きになれないが
自宅近くに嫌いな道がある。世田谷の丸子川に沿った狭い道だが、一種の抜け道になっているために交通量は激しいにも関わらず対面通行である。嫌いだけど使わざるを得ないこの道に限って、どういうわけか大きなSUVが多い。対向車線からそれがくるたびに、左ギリギリまで避けている。
多くは「レンジローバー」や「フォード・エクスプローラー」だが、時々「リンカーン・ナビゲーター」や「キャディラック・エスカレード」などもくる。ともに全長が5000mmを超えるのはまだしも、全幅は2000mm以上もあるから、さすがにこの種のクルマに出会うと、やや不機嫌になる。「どうしてわざわざこんなものに乗りたがるのか」と呟きたくなる。
もっとも人間というのは身勝手なもので、自分が乗っているときは、そんなに気にならない。エスカレードやピックアップ版の「EXT」、姉妹車の「シボレー・タホ」などはアメリカで何度か運転しているし、ナビゲーターのベースになった「フォード・エクスペディション」や、もっと大きな「エクスカーション」も乗った。ともにアメリカの道では全然とはいわないけれど、ほとんど不便を感じなかったし、そこで乗っている限りはかなりいいクルマに思えた。
それでも日本ではまったく縁がないとしか思っていなかったのだが、三井物産がエスカレードを正式に輸入することになり、それが2月のJAIA試乗会に出ていると聞いて、実際にこの国であの種のクルマに乗るのはどういう感じなのだろうという好奇心に勝てなくなった。
大きいことはいいことか
短時間だったし、西湘バイパスと一般道をすこしだけという限られた経験だったが、「日本で乗っても意外と乗りやすいし、予想以上にできがいい」というのがエスカレードの印象だった。
キャディラックのSUVとなると、必然的に「SRX」と比較することになる。つい半月前に乗ったSRXは、言うまでもなくGMとしては新世代のSUVであり、エスカレードより小さいが、より現代的かつ国際的な成り立ちを持つ。しかも日本での価格はSRXのV8が745.5万円に対してエスカレードは764.4万円とほとんど匹敵する。ちなみにアメリカではSRXが4.7万ドルからに対してエスカレードは5.5万ドルからとちょっと高い。ただしこれはあくまでもベース価格だから、実勢はそんなに変わらず、多分6万ドル弱だろう。
5100×2040×1950mmと、SRXよりふたまわりほど大きなボディによじ登り、周囲を見まわすと、室内の雰囲気は古典的なアメリカン・スタイルだが、ダッシュのプラスティックにせよ木目パネルにせよ、そのつくりや風格はSRXよりはるかに高級に見える。センターコンソールの時計は「XLR」のようにブルガリ・デザインだ。ドライバーズシートも単に革の質がいいだけでなく、サイズはたっぷりしている。
着座位置が高くて見晴らしがいい2列目シートはバケットタイプで、標準仕様では2列目も2座、そしてサードシートが3座の合計7座。オプションで2列目をベンチにすれば2+3+3の8座になる。外のサイズが大きいだけあってサードシートも相当広い。これより上の「シボレー・サバーバン」など、よく彼の地の飛行場で迎えにきてくれるが、大家族とその旅行荷物ぐらい楽々と積める。
まあ、ドライバーでなければ、それなりに大きいことはいいことだともいえる。
キャディラック技術者の意地
でもドライバーとしても、結構楽しめた。試乗会場から出ていく途中に舗装が荒れた部分があり、ここで「シボレー・トレイルブレーザー」は大げさにリアを振るわせたものだが、エスカレードは意外とぴしっと、というよりたおやかに受け止める。基本的にはトラックシャシーなのだが、そこはアメリカではプレミアム市場を狙うモデル、キャディラックのエンジニアは細かいところまで煮詰めている。それに2.5トンという重さもいい方に働いているのだろう。
考えてみれば、アメリカでは相当な高級車だし、それなりにかなり売れているのだから、きちんとできているのは当たり前である。同じキャディラックの「ドゥビル」が、「CTS」などとは違った意味で手抜きなくつくられているのと同じようなもので、顧客を大切にする気持ちでつくられている。
これまたトラック用といったら失礼だが、以前から大型GM車各種に使われている6リッターV8の「ボルテックエンジン」は、350psもさることながら52.3kgmというトルクを誇るから、4ATを介してゆるゆるまわしているだけで充分に力強く重いボディを引っ張る。
太くて柔らかいオールシーズン・タイヤでハーシュネスを遮断した乗り心地、回転を上げることなくすむエンジンゆえに静かな走行など、まさに大型アメリカンSUVの王者的だが、同時にヨーロッパの新型SUV(やSRX)のように高速向けではない。あくまでもせいぜい80マイル(約130km/h)ぐらいまでで快適性を楽しむクルマであり、急激なレーンチェンジはクルマの方が好まない。
それにしても、日本の道路でも想像より使いやすいというのは新発見だった。やはり見晴らしがいいのと、四角いボディの隅々の確認がしやすいからだろうが、それ以上にたぶん、周囲が遠慮してくれるという要素も忘れてはいけない。
インターナショナルな性格のSRXに対して、旧来のアメリカンSUVそのままの土着性だけが売りもののクルマだと思っていたが、予想外の力作だった。やはり近年、キャディラックのエンジニアはかなり努力をしているのがまた理解できた。
(文=webCG大川悠/写真=清水健太、日本ゼネラルモーターズ/2003年4月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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