MG TF160(5MT)【ブリーフテスト】
MG TF160(5MT) 2003.12.17 試乗記 ……325.0万円 総合評価……★★★★ ハイドラガスの足を捨て、シャープな顔つきを得たMGの2座オープン。ハイスペック版「TF160」に、自動車ジャーナリストの森口将之が乗った。
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正真正銘のMG
英国の名門「MG」と「ローバー」のわが国への輸入が再開されて、ラインナップにこのクルマが含まれていたとき、「まだつくっていたんだ」と思った人もいたかもしれない。
それはそうだろう。このクルマが生まれるきっかけになった「マツダ・ロードスター」は、2代目になってすでに5年以上が経過している。たしかにMGも、名前は「F」から「TF」に変わり、フロントマスクやサスペンションが新しくなってはいる。でもそれ以外は、1995年のデビュー当時とほとんど同じ。そのため、古さを感じさせる部分もある。ミドシップということでキビキビしたハンドリングを期待すると、裏切られることもある。でもしばらく付き合っていると、「MGってこういうクルマなんだよな」と納得してしまうのだ。
なにせまだデビューして8年だ。かつての「ミジェット」や、18年も生産された「B」もある。それに比べれば、TFはまだまだ若い。人によっては穏やかすぎるというハンドリングも、MGが昔から掲げてきたスローガン「セーフティ・ファスト」を形にしたものなのだろう。そもそも英国には、ロータスやTVRという、もっと辛口のスポーツカーがあるのだ。MGはこれでいい。MGBがデビューしたとき、彼らはそのボディ形状をロードスターではなく、ツアラーと呼んでいた。前作MGAよりもキャビンが広くなったことをアピールするためのネーミングだったようだが、その名前はこのTFにこそふさわしいと思った。まなじりを吊り上げて攻めるのではなく、ちょっと速めのペースで流すときに、このクルマはもっとも光り輝く。つまり、心情的スポーツカー。そういう意味で、TFもまた正真正銘のMGだった。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「TF」の原形となった「MGF」がデビューしたのは1995年。6年前にマツダが発表したユーノス・ロードスターに影響を受けたモデルであることは間違いないが、フロントエンジン・リアドライブのロードスターに対し、MGの歴史上初のミドシップ・リアドライブとしたことが特徴だ。サスペンションには、ローバーグループの小型車に用いられてきた、オイルとガスを用いた前後関連懸架のハイドラガスを採用した。
TFはFを進化させたもので、本国では2002年に発表された。ピーター・スティーブンスの手になるデザインは、フロントマスクを一新。室内では、不評だったシート高が低められた。シャシーは、サスペンションを金属スプリングに、サブフレームも改良されている。
(グレード概要)
グレードは、TF135とTF160の2タイプ。車名の数字はps表示での最高出力を示している(TF135は厳密には136psだが)。どちらも1.8リッターの直列4気筒DOHC16バルブを積むが、TF160はVVCと呼ばれる可変バルブタイミング機構を装着することで、パワーアップを図った。最大トルクも16.8kgmから17.7kgmへと、わずかに向上している。それ以外の部分は共通。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
MGF時代と同じデザインのインパネは、あいかわらずステアリングが下のほうに付いているのが気になる。メーターナセルやエアコンのルーバーなどは、かつてのパートナーだったホンダを思わせる造形だ。しかしながら、落ち着いた色調のベージュと黒でまとめられたコーディネイトは、英国車そのものという感じがする。装備は必要最小限だが、すっきりしていて好感が持てる。
(シート)……★★★★
車高を考えれば着座位置は高めだが、それでもMGFよりすこし低くなった。シートは小さめで、腿や背中のあたりのタイトなサポート感が心地よい。もちろんサポート性は文句なし。それでいてクッションの厚みがあり、快適でもある。リクライニングのダイヤルは、走行中だと手が届きにくかった。
シートがこの種のクルマとしては高めなことに加え、ウィンドスクリーンが前寄りにあるので、オープンにしたときの開放感は抜群。それでいて、風の巻き込みはうまく抑えられている。このあたりは、オープンカーづくりの経験がなせる技かもしれない。
(荷室)……★★★★
フロントフードの下は、スペアタイヤやバッテリーが占領していて、ラゲッジスペースは皆無。しかしエンジンの後ろにあるリアのトランクは、奥行きこそ限られるが、最大幅106cm、奥行き44cm、深さは45cmとけっこうある。2人分の旅行の荷物なら問題なく入るだろう。ただ、すぐ近くにエンジンがあるので、生ものを積むには適さない。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
可変バルブタイミング機構「VVC」を備えたKシリーズ・ユニットは、ザラついたまわりかたに古さを感じるが、レスポンスはけっこういい。2000rpmあたりから、アクセルの動きに対してクンッと反応してくれるあたりが英国車っぽい。そのときのブォーンという低いエグゾーストサウンドが、これまたブリティッシュネス。
回していっても驚くほどのダッシュはみせてくれないが、4000rpmあたりから音がクォーンと澄むとともに、すこしだけ加速が勢いづく。5500rpmから上ではサウンドがさらに力強くなり、クライマックスに達したことを教えてくれる。それなりにドラマを秘めたエンジンだ。
5段MTのシフトレバーは、新車ということもあってシブさを残していたが、タッチは正確。アルミのノブが心地よい。このシフトを駆使しつつ、背中にエンジンの存在を感じながら走るのは、なかなかいい気分だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
サスペンションは、ハイドラガスを用いたMGFに比べると締まっている。とくに細かいショックを伝えてくるようになった。よくも悪くも、スポーツカーらしい硬さをダイレクトに感じるフィーリングだ。ただ高速では、わりとフラットな乗り心地が味わえる。
電動パワーアシストのステアリングはそんなに鋭くなく、その後の挙動もミドシップらしいクイックさはあまり感じられない。そのかわり、前後どちらかがいきなり滑り出すような不安感もない。MGらしいマナーだ。ミドシップらしさは、コーナー立ち上がりでのトラクションのよさに感じられる。ブレーキはストロークではなく、踏力で効かせるタイプ。しっかり力を込めれば望みどおりの制動力を得られるし、慣れればこちらのほうがコントロールしやすい。ヒール&トゥのしやすいペダル配置を含めて、「スポーツカーとはなにか」が、わかっている人のつくったクルマだと感じた。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2003年9月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1581km
タイヤ:(前)195/45R16 80W(後)215/40ZR16 82W(いずれもグッドイヤー イーグルF1)
オプション装備:--
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(3):山岳路(4)
テスト距離:275.4km
使用燃料:29.6リッター
参考燃費:9.3km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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