ポルシェ・カイエン(6AT)【試乗記】
150万円はバッジ代にあらず 2005.01.14 試乗記 ポルシェ・カイエン ……676.0万円 V8エンジンを搭載してデビューしたポルシェのSUVカイエンに、兄弟車「トゥアレグ」と心臓を同じくするV6モデルが追加された。そこにポルシェらしさは貫かれているのか、自動車ジャーナリストの島下泰久が検証する。「強い意志」が作るフォルム
心からカッコいいとかスタイリッシュだといった言葉を発することができるデザインでは決してない「カイエン」だが、それが高級SUVブームの中で、誰の目にも明らかにポルシェだとわかる、アイデンティティを持たせるためだとすれば、納得するほかない。そこには、車体の基本骨格を同じくするフォルクスワーゲン「トゥアレグ」と、まったく別のクルマに見えなければならない、という強い意志もあったはずだ。
デビューから約1年半。街中でその押しの効いた姿を目にするたびに、ナルホドなと感心させられる。依然、カッコいいと思うところまでは来てはいないけれど。
せっかく、そんなふうに納得していたのに、よりによってそのトゥアレグに積まれているのと同じ、3.2リッターV6エンジンを搭載して登場したのが、Sもターボも付かない「素のカイエン」である。
9psのアドバンテージ
同じとは書いたが、実はそのエンジンは厳密には同じではない。ブロックなど基本部分は共通だが、吸排気系やエンジンマネージメントシステムがポルシェ設計のものとされた結果、最高出力250psと、トゥアレグのV6に対して9psのアドバンテージを得ている。最大トルクの31.6mkgは同値だが、発生回転数はトゥアレグV6の3200rpmに対して2500〜5500rpmとワイドだ。
そうはいうものの、実は昨年モデルまでのトゥアレグV6のスペックは220ps/31.1mkgに留まっていたから、最新仕様では数値的ににじり寄られているわけである。となると、ますます世間の「約150万円の価格差はポルシェのバッジ代じゃないの?」という声が大きくなりそうだが、実際のところはどうなのだろうか。
外観上、より大きな口を開けたカイエン・ターボとは容易に見分けられるものの、カイエンSとの差異はほぼ皆無と言っていい。識別点は唯一、リアゲートのバッジだけである。いざ乗り込んも、やはり他グレードとの違いは見当たらない。ただし試乗車のベージュ系のインテリアは、最新の911(997)を知った今となっては、特に質感がちょっと物足りなく感じた。
また、リアシートは分割可倒など定番のアレンジが可能だが、シートを倒すには硬いヘッドレストを引き抜き、力を込めてラッチレバーを引かなければならない。とても積極的に使いたくなるものではなく、多くの女性ユーザーはお手上げだろう。まあ、そうした親切なユーティリティ性を求めるクルマではないということなのだろうけれど。
ともあれ走り出す。2トンを超える車重に250psは、カイエン・ターボのあの圧倒的な力強さを知らなければ、物足りなさを覚えることはない。むしろ、これでもSUVとしては充分速いほうだ。それには、2速で6800rpmのトップエンドまで回しても約83km/hと、低めのギア比が与えられた6段ティプトロニックも貢献している。
そんなローギアードとはいっても、吹け上がりが軽く、またサウンドチューニングも行き届いているため騒々しさとは無縁。5000rpmあたりから鋭さを増す吹け上がりを存分に楽しめる。ただし、緻密でパワーのギュッと詰まったポルシェのエンジンらしい深い味わいを求めると物足りなさがあるのも確かだが。ちなみに、6速100km/h時のエンジン回転数は2200rpmほどと、こちらは常識的なところに収まる。
ハンドリングは紛れもなくポルシェ
それよりも、やはりポルシェだなと唸らせるのは、むしろハンドリングのほうである。サスペンションは比較的ソフトな設定。しかし、身のこなしはその巨体からは想像できないほど軽快で、特にステアリングを切り込んだ瞬間の反応は、あるいは911よりシャープかもしれないほどだ。背は高くとも、手応えはあくまでスポーティ。このあたり、紛れもなくポルシェである。とはいえ、その後の挙動は終始安定指向なので、巨体を御しきれなくなるようなことはない。
結局のところ、素材が何であれポルシェは、乗れば走ることに没頭させるものに仕上げて見せる。それがトゥアレグとの一番の違いである。その外観が紛れもなくポルシェであるように、フォルクスワーゲンのV6を積んだカイエンも、やはり明らかにポルシェなのだ。150万円の差額は、その走りの味、もしくは哲学というかコダワリというかの価値ということになるのだろう。確かにトゥアレグなら、ほぼV8が買える価格だが、それでもV6のカイエンを買いたいと思わせるだけのものが、そこには間違いなくあるのだ。
(文=島下泰久/写真=岡村昌宏(O)、洞澤佐智子(H)/2005年1月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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