BMW 320dブルーパフォーマンス ツーリング モダン(FR/8AT)【試乗記】
平熱で付き合えるBMW 2013.01.24 試乗記 BMW 320dブルーパフォーマンス ツーリング モダン(FR/8AT)……609万9000円
「BMW 3シリーズツーリング」のクリーンディーゼル搭載モデルに試乗した。実直に働くディーゼルはステーションワゴンという道具にふさわしいエンジン。これぞベスト「3シリーズ」だ。
ガソリンモデルの20万円高
政権交代して2013年が明けたら、ガソリンが値上がりしてきた。安倍バブルによる円安をいち早く小売価格に反映させる、先取り値上げだろうか。
インフレターゲットとやらで、新政権も物価上昇にお墨付きを与えている。石油価格は投網をかけたようにさまざまな物の値段に影響する。それで、ガソリン値上げにもお墨付きが与えられたような結果になっているのかどうかはわからないが、いずれにしても、消費者にとっては大迷惑である。
軽油価格も上がっているが、しかしガソリンよりは安い。この構図が変わらないのは、日本の場合、産業振興で軽油の税率が低く設定されているからだ。
つまり、ディーゼル乗用車はお仕事用の安い燃料で走れる。そのかわり、ガソリンエンジンにはないネガに耐えなければならなかったのは、昔の話である。最新のクリーンディーゼルのほとんどは、燃料費の安さだけを享受できるクルマになった。とくに欧州車はハイオク指定だから、ディーゼルに乗り換えると1リッターあたり2ランク安くなった感じがするはずだ。2013年1月半ば現在で言うと、その差30円以上である。大きいゾ。
見るたびに上がるスタンドの表示はいまいましいが、軽油は常にガソリンより安い、と思えるのがディーゼルドライバーの特典だ。2013年はディーゼルが大ブレークしそうな予感がする。
新型「3シリーズ(F30)」から登場したディーゼル、「320d」も大人気らしい。今回乗ったのは「320dブルーパフォーマンス ツーリング モダン」。511万円の本体価格は、ガソリンの「320iツーリング モダン」の20万円高に収まる。ディーゼルをフツーに売っていこうという意図が見える戦略価格である。
速いというよりも、強いエンジン
走っても、320dはすごくフツーのクルマである。なんというか、こんなに平熱で付き合えるBMWって、今までなかったのではないか。
クリーンディーゼルの「音・振」対策が優秀なのはもはや常識で、320dも例外ではないが、かといってディーゼルかどうかわからないほどではない。アイドリングストップ機構があるので、停車すればゼロだが、エンジンが止まる瞬間は、最後のひと爆発で軽くユサッと揺れて、パタっと静かになる。電装類の使用で停車中にエンジンが自動スタートしたときも、「オッ、ついた!」と感じるくらいの存在感はある。でも、そうした振る舞いが自然だから、ぜんぜんイヤじゃない。静穏なガソリンエンジンより血が通っている感じがして、むしろ好感がもてる。
パワーも自然だ。NOx吸蔵還元触媒で厄介な窒素酸化物を退治してポスト新長期規制をパスした2リッターディーゼルターボは、184psの出力と38.7kgmのトルクを発する。
8段ATがもたらす100km/h時のエンジン回転数は、わずか1500rpm。そこからフルスロットルを踏むと、4速に落ちて4000rpmに上がり、4800rpmまで回ってシフトアップする。そんなフル加速時だと、42.8kgmの大トルクで売るマツダ製2.2リッターディーゼルのパンチにはかなわないが、十分であることはもちろんだ。
ディーゼルのありがたみを感じるのは、たとえば早朝の首都高のような、混んでいるけど速い流れの中である。レスポンシブでトルクフルだから、一定の車間をキープすることがたやすい。結果として、リラックスできる。速いエンジンというよりも、強いエンジンである。
ベスト「3シリーズ」
もうひとつ、320dツーリングのサプライズは足まわりだ。乗り心地がとてもいい。最近のBMWは「Mスポーツ」でも乗り心地がいいが、このノーマルサスのワゴンはまたすこぶる快適だ。
ワゴンだからといって、とくに脚を固めた印象もない。路面のうねりを腰から下でねっとり吸収してくれるような乗り心地は、メルセデス・ライドを彷彿(ほうふつ)させる。高速走行での落ち着きがとくにすばらしい。
約300kmを走って、燃費(満タン法)は12.5km/リッターだった。車重1.6トン超のステーションワゴンをこれだけ走らせるのは、やはりディーゼルならではだろう。同じく“免税”をゲットする「アクティブハイブリッド3」は、ハイブリッドという名の3シリーズ超特急であって、燃料代をケチる人のクルマではない。なにしろ、燃料単価がリッター30円以上高いのだ。320dは間違いなく最も安く走れる3シリーズである。
ディーゼルといえば、もともと欧州車のオハコだが、「アテンザ」や「CX-5」のようなコストパフォーマンスに優れた国産車が出てきた以上、もはや独壇場ではない。だからその分、ユーロ・ディーゼルは長く付き合いたい。ミシンのように実直に働くディーゼルは、そもそもが長い距離を走ってこそ、長い歳月使ってこそのエンジンである。ステーションワゴンという道具にふさわしいエンジンでもある。
乗り味に派手さはないが、そのかわり、というか、それだけに、このクルマはながーく愛せるビーエムだ。現在のラインナップを見渡すと、個人的には320dがベスト「3シリーズ」だと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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