BMW 320d xDriveツーリングMスポーツ(4WD/8AT)
だから愛される 2023.04.28 試乗記 すでに日本車では不人気カテゴリーになって久しい「ワゴン」だが、ドイツ勢、ことにBMWの「ツーリング」は、ここ日本でも高い人気を保ち続けている。ディーゼルエンジンを搭載した最新モデルをドライブし、その理由を考えてみた。現行モデルの最終形態
「BMW 320d xDriveツーリングMスポーツ」を運転していたら、何というか妙に親しみある心地よさを感じた。それは、すごく楽しかったはずの旅行から帰ってきたのに、自宅のリビングのソファに座った瞬間に「ああやっぱり家はいいなあ」と思わず漏らしてしまうような気分に似ているかもしれない。
最近、電気自動車やハイブリッドといった“電動化”されたクルマに乗る機会が本当に多くて、というかそういうクルマばっかりになっている。だから“非電動化”の3シリーズ ツーリングに乗ってどこかホッとしたのかもしれない。クルマに乗っているのに「クルマっぽいなあ」なんて稚拙な第一印象を抱いてしまったのも、多分そういう理由だったのだと思う。
BMWの3シリーズは昨2022年、いわゆるフェイスリフトを受けた。余談だが、個人的にはいまだにこの“フェイスリフト”という言葉になじめない。そもそも、欧州メーカーは1モデルの寿命が長く、途中で主にフロントまわりの意匠を少しいじるなどして、新鮮味を持続させようとする手法が一般的だった。そこから“フェイスリフト”と言うようになったらしいのだけれど、自分なんかはどうしても美容エステの広告みたいな響きに思えてしまう。
実際、3シリーズでも今回顔をいじっている。お尻も少しいじっている。でもメインは装備と室内のインターフェイスのアップデートだろう。ちなみに現行3シリーズ(G20)がデビューしたのは2018年のパリサロン。早いものでもう5年目を迎えようとしている。つまりおそらく、今回がフルモデルチェンジ前の最後の改良で、これがG20の最終型となる可能性が高い。
お家芸のガラスハッチ
3シリーズ ツーリングの日本仕様は、「318i Mスポーツ」「320i Mスポーツ」「320d xDrive Mスポーツ」「M340i xDrive」の4モデルが展開されている。全車が“M”がらみの仕立てで、ディーゼルは四駆しか選べず、ガソリンの四駆が欲しいとなると一気に1000万円を超えてしまう(M340iの車両本体価格は1104万円)。
対面したら最初にどうしても確認したいことがあった。ハッチゲートの前に立ち、リアワイパーの根元あたりをゴソゴソと探ってみたらお目当てのスイッチが指に触れた。押してみると「コツン」と音がして、ハッチゲートのガラスの部分だけが持ち上がった。
BMWのツーリングは、この“ガラスハッチ”が伝統的なお家芸のようになっている。ミニバンのなかには似たような機構を持つものもあるけれど、BMWのこれが優れているのは、ガラスハッチを全開にしてもバンパーよりもはみ出ないところにある。つまり、人ひとりがやっと立てるくらいのスペースしか後方に残っていない場合、ハッチゲートは開けられなくてもガラスハッチだけ開ければ、ラゲッジルームの荷物にリーチできるわけだ。
以前、BMWのエンジニアに聞いたら「ボディー剛性やもろもろの手間を考えたらガラスハッチの採用はなかなかやっかいで、社内でも何度も廃止が検討されたことがあります。でも、ガラスハッチがあるからという理由で購入してくださるお客さまが少なくないので、われわれはその期待に応えることにしました」とのことだった。
ひと昔前は、自動車カメラマンにも重宝された。荷室に陣取ってガラスハッチだけ開ければ、並走や引っ張りの撮影ができるからだ。最近は何かとアレなんで、そういう使い方はめっきり減ってしまったけれど。
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音声認識はあるけれど
室内の景色は最新のBMWのそれにアップデートされている。カーブドディスプレイやトグル式シフトセレクターなどで、運転支援などを含む電子デバイス類ももちろん最新版となった。
BMWに限らず、最近はどこもタッチ式ディスプレイをメインに据え、機械式スイッチを減らす傾向にある。そのほうがダッシュボードがスッキリするし、おそらく(機械式スイッチの減少により)コストも抑えられるのだろう。しかし、タッチ式ディスプレイはどれもすこぶる使いやすいとは到底言い難い。走行中にフラフラする片手でディスプレイのアイコンを正確に一発で押すのは難儀だし、視線もそっちに奪われるし、モノによっては階層が深いのでなかなか目的のコマンドにたどり着けないからだ。
その点、BMWはいまだにダイヤルスイッチもあえて残し、タッチパネルと併用することで機能性を担保している。「音声認識」を使えばそんな煩わしさは一掃されるのだろうけれど、自宅に「アレクサ」もない自分はいまだに慣れない。あ、これはクルマ側ではなく自分の問題か。
セダンとワゴン、ガソリンとディーゼル。それぞれの差は以前ほどなくなった。セダンに対するワゴンのネガは、後方にこもり音が発生したり、リアの追従性が悪かったりなど。ガソリンに対するディーゼルのネガは、振動も騒音も大きいなど。そんなことがよく言われていたけれど、セダンの320iとワゴンの320dを比べても、ワゴンとディーゼルのネガはもはやほとんど見られなかった。
素直でさっぱりとした操縦性
重量配分的には当然のことながらワゴンのほうがリアヘビーであり、実際試乗車は47:53だった(車検証数値から算出)。だからといって、後ろが引きずられるとか操舵応答性が悪いとか、そんな事象はまったく感じられない。これにはワゴンとはいえしっかりとしたボディーが構築されている点と、xDriveの恩恵もあるのではないかと想像する。
xDriveは前後の駆動力配分を状況に応じて随時可変する機構で、基本的には後輪寄り、つまりFRのような動きや旋回特性を示す。後輪に最適なトラクションが常にかかるようにすることで、操舵応答などの不利な部分をうまく打ち消しているのかもしれない。
Mスポーツサスペンションが標準で組み込まれているゆえ、しっとりゆったりの乗り心地ではないけれど、しっかり減衰して振動の残像を素早く打ち消してくれる。もちろんそのぶん、前後方向のピッチや左右方向のロールの量は少なく、素直でさっぱりした操縦性に終始する。
直4ディーゼルは、外で聞いたらしっかりディーゼルの音がしたので、遮音や吸音を相当やっているのだろうと分かった。室内にいる限り、ディーゼルを主張する音はほとんど聞かれなかったからだ。動力性能そのものに不満はまったくないけれど、操縦性ほどの軽快感にはちょっと欠けるエンジンかもしれない。
日本車のワゴンなんてすっかり見かけなくなってしまった。そんなご時世でも、ガラスハッチなども含めて「どうしてもこのクルマじゃなきゃ困る」というニッチなお客さまでも置いてきぼりにせず、ご要望の商品をきちんとつくってお出しするBMWの真摯(しんし)な姿勢に、たくさんの根強いBMWファンは引かれるのだろうなと理解した。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 320d xDriveツーリングMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1825×1455mm
ホイールベース:2850mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190PS(140kW)/4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)255/40R18 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 ZP)※ランフラットタイヤ
燃費:15.5km/リッター(WLTCモード)
価格:715万円/テスト車=851万5000円
オプション装備:ボディーカラー<タンザナイトブルー>(26万7000円)/BMWインディビジュアル フルレザーメリノインテリアパッケージ(56万5000円)/BMWインディビジュアル フルレザーメリノ<アイボリーホワイト>(0円)/サウンドパッケージ(18万9000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/ラゲッジコンパートメントパッケージ(5万5000円)/パーキングアシストプラス(8万3000円)
テスト開始時の走行距離:3281km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:325.0km
使用燃料:22.4リッター(軽油)
参考燃費:14.5km/リッター(満タン法)/14.3km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
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