シトロエンDS3レーシング(FF/6MT)【試乗記】
アムロ、いきます! 2012.12.16 試乗記 シトロエンDS3レーシング(FF/6MT)……360万円
国内わずか35台の限定車「シトロエンDS3レーシング」に試乗。シトロエン・レーシングが手掛けたWRC連覇記念モデルの走りやいかに?
マニア待望のカルトカー
2010年のパリサロンで、限定1000台! と発表されたスペシャルモデルである。WRC(世界ラリー選手権)において、当時すでに5度におよぶシトロエンのマニュファクチャラーズ・タイトルと、セバスチャン・ローブの前人未到、ドライバーズ・タイトル6連覇を記念する。さらに、これらの偉業を達成した立役者、シトロエンのコンペティション部門たるシトロエン・レーシングが開発した、初めての市販モデルである。大好評を博したのもむべなるかな。1年後の2011年9月に2000台の追加生産が発表となり、日本にも35台ぽっきりが用意された。現代のシトロエニスト待望のカルトカーである。
シトロエン・レーシングは、まず「DS3スポーツシック」の1.6リッター直噴ターボエンジンの最高出力156ps、最大トルク24.5kgmを、それぞれ207ps、28.0kgmに向上させた。同じPSAグループ内のスポーツクーペ「プジョーRCZ」の同型ユニットを上回る強力な心臓をつくりだしたことになる。シャシーは車高を15mm低め、トレッドを30mm拡大、専用のダンパー&スプリングを採用。タイヤは17インチから18インチに格上げし、大胆な専用ペイントとパーツでボディー内外を仕立て上げた。このコスメティックが最大の見せ場、ともいえる。
2トーンのボディー色はノアール オプシディアン+オレンジとブラン バンキーズ+グレーの2種がある。前者は、ごく平易に書くと黒地に鮮やかなみかん色。後者は白地に灰色の組み合わせとなる。テスト車はご覧のようなノアールにオレンジで、精悍(せいかん)なカーボンパーツに加えて、タミヤのプラ模型もかくやのジェット戦闘機的デカールが大々的に貼られている。これは、ガンダムだ! アムロ、いきます。
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伝統が息づく乗り心地
かわいい子ブタにも衣装で、カワユくも見える「DS3レーシング」に乗り込む。ルーフと同色のオレンジのダッシュボードは鮮烈で、旧弊な戦闘マシン、男の仕事場というより、ポップカルチャーっぽい。その昔、“ハリウッド”ハルク・ホーガンがイエローのタイツを着用していたけれど、柑橘(かんきつ)系色の快さというものが世の中にはパターンとしてある。
35台ぽっきりとはいえ、日本向けのDS3レーシングはすべて右ハンドルで、ギアボックスはクラッチ付きの6段マニュアルとなる。クラッチはぜんぜん重くなくて、確かな足応えがあって制御しやすい。1速に入れて試しにアクセルペダルを床まで踏みつけてやると、強大なトルクに前輪が圧倒される。もちろん路面にもよるが、ブリヂストン・ポテンザ050Aでは28.0kgmの大トルクを受け止められないのだ。
セカンドにシフトアップしてさらにフル加速すると、前輪が手綱を引きちぎってダッシュしていくかの感がある。ここに至れば、強烈なトラクションが痛快だ。DS3レーシングはランボー一辺倒のちびっこギャングではない。乗り心地はファームではあるけれど、けっして悪くはない。むしろ快適といってよいほどで、実際、東京〜小淵沢間を3人乗車で往復したのだけれど、同乗者のだれからも不満は出なかった。ストローク量はたいしたことないけれど、80年代半ばに登場した「AX」、その後継の「サクソ」あたりから連なるプチ・シトロエンのしなやかな金属バネの脚の伝統が息づいている。
ちなみに、シトロエン・レーシングの前身であるシトロエン・スポールの誕生は1989年のことで、まずパリ・ダカールラリーで成功をおさめ、およそ10年後の2000年末にシトロエン・レーシングに改組された。WRCフル参戦は2002年から。以来、常勝軍団となり、2012年には8度目のマニュファクチャラーズ・タイトルとローブのドライバーズ・タイトル9連覇を達成した。DS3レーシングは前人未到の業績の、目に見える成果なのだ。
日常生活に彩りを
フランス人がつくる自動車の美点は、「ルノースポール・スピダー」のような例外を除いて、実用性を無視しないところだろう。限定3000台のDS3レーシングも、原則に忠実といえる。レーシングの名称はあっても、エンジンはトルキーで扱いやすいし、乗り心地は十分日常に使える。3ドアといえども、後席には大人が圧迫感なく乗れて、長時間でも過ごせる。前席のバケットシートはちゃんとリクライニングするから、窮屈感とは無縁だ。
トルクの盛り上がりが明確なターボバンを感じさせるエンジンゆえ、トルクステアを伴うけれど、それも演出の範囲内で、小型車ならではの、生き生きとしたキビキビ感、活発さを感じさせる源泉になっている。低いギアで全開にすると、前輪がボディーを引きちぎって大地を蹴っていく感があるが、ご愛嬌(あいきょう)というべきだろう。まことに痛快な加速とハンドリングを持つ一方で、実用性も維持している。その意味では、じつにホットハッチらしいホットハッチ、……つまり実用性の高い小型スポーティーカーなのだ、DS3レーシングは。
フランス人は知的で、生活を楽しむすべを知っている。というようなことをよくいわれる。本音と建前の使い分けも当然上手なのである。たぶん。仮にあなたが、DS3レーシングにかつての「三菱ランサーエボリューション」や「スバル・インプレッサWRX」の幻影を追っていたとしたら、ニッポンのサムライ・スピリットとフランスの合理主義の違いにあらためてギョッとするであろう。DS3レーシング、360万円をあえて選ぶニッポンのラリー・サムライは、このクルマに死地を求めることなかれ。
レーシングを名乗るとはいえ、コイツは競技マシンではなくて、ガンダム・コスメをまとった、日常生活に彩りを加えてくれる実用小型スポーティーカーなのだ。フランス人からしたら、往時のランエボ、インプなんて「シェーッ!」と硬いに違いない。「MINIジョンクーパーワークス」よりもソフトタッチの、フレンチシックなスポーティヴネスを味わいましょう。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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