DS 3オペラBlueHDi(FF/8AT)
モードを先取り 2023.07.03 試乗記 “小さな高級車”をうたうフランス生まれのコンパクトカー「DS 3クロスバック」が、マイナーチェンジを機に車名を「DS 3」に変更。最新モードをまとった内外装の仕上がりや、インフォテインメントシステムの進化をロングドライブで確かめた。ルーヴルを思わせるインテリア
フランスの小型クロスオーバー、DS 3クロスバックのフェイスリフト版が上陸し、2023年5月23日から販売されている。「コンパクトラグジュアリーSUV」を自称するこのモデルの国内発売は2019年だから、4年ぶりのお色直しになる。
DSはシトロエンから2014年に分離独立した高級車ブランドで、その名は1955年発表の「シトロエンDS」に由来している。フランス語でDSの発音は女神のdéesseと同じだそうで、発音するたびに彼らは「女神さん」「女神さん」と拝んでいることになる。DS 3ならなおさら。デーエスサンですから。って、それは日本語やろ。
というようなダジャレはともかく、最新のDS 3に施された改良で知っておくべきポイントの第1は、名称がシンプルにDS 3になったことだ。これからはDS 3が正式で、クロスバックと続けるのはマチガイである。お気をつけください。
第2に前後のデザインがチョコっと変わった。フロントではグリル、ヘッドランプ、そしてバンパーに縦に入るデイタイムランニングランプが新しい装いになった。DS 3クロスバックとあまり縁のなかった筆者的には、どこか変わったのですか? という感じだけれど、それだけ違和感なくまとまっている。
細かいことはさておき、ドアを開けて運転席に座る。ダッシュボードには、よくわからないひし形のデザインが並んでいる。なぜかは知らねど、ひし形の連想からか、ルーヴル美術館の中庭につくられたガラスのピラミッドを筆者は思い出す。DSといえば、コレである。
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アイリスさんとはわかり合えない
センターコンソールにあるシフトセレクターの両サイドには“クル・ド・パリ”と呼ばれる意匠が施してあって、微妙にキラキラと輝いている。クル・ド・パリでネット検索したら、ブシュロンという宝石ブランドのサイトに、「パリ・ヴァンドーム広場の石畳を表現したクル・ド・パリ。卓越した職人の技術によって、希少なプラチナに施されたモチーフが光をとらえ、魅力的にきらめきます」とあって、なるほど、と思う。ブシュロンをご存じの方にはより魅力的にきらめいているにちがいない。
“サヴォア・フェール”、「匠(たくみ)の技」と翻訳されるフランス伝統の職人技やオートクチュールのノウハウが息づいている、とされるこのようなDSブランドの特徴はもちろんこれまでどおりである。
改良ポイントの第3は主に実用面で、モニターのサイズが7インチから10.3インチに拡大されたことだ。地図の見やすさが大幅に向上している。「OKアイリス」と日本語で呼びかけると対応してくれる音声認識機能「DS IRISシステム」も新たに装備。だけど私の滑舌が悪いせいか、アイリスさんはすぐに理解してくれない。残念というより悲しい。だからアイリスにはあまり話しかけない。
周囲の状況を俯瞰(ふかん)映像でモニターに表示する「360°ビジョン」が搭載されていることは素直にうれしい。全長4mちょっとの小型車でも、駐車時には便利である。
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荒れた路面でも快適
第4は、パワートレインが1.5リッター直4ディーゼル1本に絞られたことだ。従来のDS 3クロスバックにもあったけれど、「プジョー308」や「シトロエン・ベルランゴ」でもおなじみのこのディーゼルは、最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300N・m/1750rpmを発生する。数値が示すごとく、低回転から生み出す分厚いトルクが魅力の、トルキーで頼もしいエンジンである。
車重1330kgのDS 3に300N・mは十分以上で、発進時についちょっと深めにアクセルを開けたりすると強力なトルクが前輪を襲いそうになる。エレガントに発進するには右足をアクセルペダルにのせるだけ、もしくはブレーキを緩め、車体が動き出してから踏むべきである。
一見マダム志向の内装のクルマなのに、エンジンは比較的静かだけれど、男性的に思える。それというのも先述したように低回転で最大トルクを生み出すからだ。男と女、そのふたつがうまいこと同居している。フランシス・レイの「シャバダバダ・シャバダバダ……」という感じでしょうか。
乗り心地はパリの石畳に合わせてセットしてあるからなのか、低速のやや荒れた路面でも快適で、ソフトとハードの目盛りがあるとすると、真ん中よりややソフト寄り。18インチホイールを標準装着するクロスオーバーSUVなのに、タイヤ&ホイールの大きさを感じさせない。トルキーなエンジンと快適な乗り心地がこの小型車の大きな美点だ。
第5は、日本仕様は「オペラ」という最上級仕様のみのモノグレードになったことだ。ナッパレザーがシート表皮だけでなく、ダッシュボードやドアのトリムにまで使われている。分厚くて、なのにソフトで、肌触りがよくて、ぜいたくなレザーである。
ゆいいつ、後席の乗り降りには気をつける必要がある。最低地上高が185mmあって、リアのドアのところのサイドシルが深いため、足を引っかけやすい。これは「シトロエンC5 X」にも共通する。慣れの問題だとしても用心するにこしたことはない。
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フランス的なオシャレブランド
“小さな高級車”というのは、魅力的なジャンルのひとつである。過去の例としてすぐに思い浮かぶのは、「ADO16」の内装をロールス・ロイスもかくやのウオールナットとレザーで仕立てた「ヴァンデンプラ・プリンセス」(1963年~1974年)である。ニッポンでも1990年前後に人気を博したし、そういえば、私、1989年に発表された「Mini」の30周年記念モデルを持っていた。シート表皮はハーフレザーで、高級車と呼ぶには、ま、Miniですからね、遠くおよばないけれど、それでも大満足だった。その頃の私はイギリス車に憧れていたからだ。ただ、なんとなく。
DSブランドというのは、テクノロジーもさることながら、アートやファッションで世界をリードする自国フランスの文化を前面に押し出している点で、なんというか、極めてフランス的、あまりにフランス的なオシャレブランドである。フランスに憧れているようなひとにとって、イギリス車に憧れていた筆者にはちょっと想像がつかないほどに、とってもオシャレで魅力的に見えているにちがいない。言わずもがなだけれど、オシャレなクルマである。オシャレに乗りたい。
それともうひとつ。このセグメントは、今秋の「レクサスLBX」の発売によって、必ずや注目を集めるだろう。DS 3はそのとき、フランス文化を背景にしているという異色さにおいて、再発見されることになる。
(文=今尾直樹/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
DS 3オペラBlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4120×1790×1575mm
ホイールベース:2560mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:21.0km/リッター(WLTCモード)
価格:509万7000円/テスト車=520万7215円
オプション装備:3層ペイント<ルージュディーバ>(10万円) ※以下、販売店オプション ETCユニット(1万7215円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:953km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:214.0km
使用燃料:11.8リッター(軽油)
参考燃費:18.1km/リッター(満タン法)/16.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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