DS 3パフォーマンス ブラックスペシャル(FF/6MT)
その“意味”は山道でわかる 2016.11.04 試乗記 「DS 3」史上最強の1.6リッターターボエンジンを搭載する限定車「DS 3パフォーマンス」に試乗。ビジュアル系にして体育会系でもあるスペシャルDS 3が“意味するところ”、それは山道でわかるだろう。208psのテンロクターボ搭載
シトロエンのスピンオフブランド、DSオートモビルズが放つ最新モデルが、DS 3パフォーマンスである。
シトロエンに対するDSの最大の売りは“ビジュアル系”だと思うが、このニューDS 3はWRC連覇を記念して2011年に限定販売された「DS 3レーシング」に次ぐ体育会系だ。
直噴1.6リッター4気筒ターボのパワーは、レーシングとほぼ同じ208psだが、最大トルクは28.0kgmから30.6kgmに向上し、レーシングにはなかったトルセンLSDを装備する。というスペックを知って、デジャブに襲われた。要は、昨年秋に国内発売された「プジョー208GTi by Peugeot Sport」(以下、208GTiスポール)と同じパワートレインを搭載したDS 3が、パフォーマンスである。
欧州ではレギュラーモデルだが、日本ではレーシング同様、限定販売で、お取り寄せされるのは全40台。今回試乗したのは、そのうち10台という狭き門の「ブラックスペシャル」。マットブラックのボディーに、ゴールドの屋根という凝った塗装を採用する。他30台(白か赤)は369万円と、プジョー208GTiスポール(368万6600円)とはまるで双子車のような値付けだが、虎の子のブラックスペシャルは30万円高になる。
バンカラなスポーツハッチ
景色の映り込みを許さないつや消しブラックのボディーに、ゴールデンルーフ。このクルマ、ひと目をひくことにかけてはピカイチのコンパクトハッチである。しかも、ビジュアルショックは車内でも繰り返される。なかに入ると、ダッシュボードもゴールド。長年、いろいろなクルマに試乗してきたが、目の前が金色というのは初めてかもしれない。
シートはレザーとアルカンターラの混成。サイズはたっぷりしているが、両サイドの“峰“が高く、ホールド感が強い。豪華バケットシートという感じだ。
タッチのいい6MTのシフトレバーをローに入れて走りだすと、DS 3パフォーマンスは、かなりバンカラなスポーツハッチである。
まず、乗り心地が硬い。プラットフォームを共用するプジョー208GTiスポールより歴然と硬い。もともとDS 3は、165psの「スポーツシック」でもかなり硬いが、18インチにインチアップされたパフォーマンスの足まわりはさらに数段締め上げられた印象を与える。スピードを上げると快適になるというタイプでもなく、高速道路ではけっこう揺すられる。デートカーにはぎりぎりセーフかアウトか、というところだ。見方を変えると、よくぞここまでプジョーとのキャラ分けをしたものだと思う。
車重(1210kg)は208GTiスポールより10kg重いが、しかしこの足まわりのおかげか、同じ208psでも加速のパンチ力はプジョーを上回る。ドーンと一丸で速い感じがするのだ。「いかにもホットハッチって感じですね」。撮影ポイントまで助手席にチョイ乗りしたKカメラマンがそう言った。
想像上のラリーカーに近い
DS 3パフォーマンスが、その真骨頂を見せてくれたのは、ワインディングロードである。
スポーツシックより15mmローダウンしたパフォーマンスは、実際、重心感覚がDS 3としては最も低い。高速道路ではドシッとした直進安定を感じさせるのに、カーブが連続するセクションへ踏み込むと、がぜん、喜んで曲がる。ノーズも軽い。そのへんはトルセンLSDの恩恵だろう。ここで楽しくなきゃどうするという、ターマックのスペシャルステージで額面通りのパフォーマンスを発揮するのだ。
テンロクターボはトップエンドまで気持ちよく回り、低回転での柔軟性も申し分ない。クラッチペダルは重くない。シフトは軽く、確実だ。といっても、かるく100km/h以上まで伸びる2速が万能ギアである。半年前に試乗した208GTiスポールを思い出すと、こちらのほうが骨太かつ豪快で、想像上のラリーカーに近い。山道を走ったら、留飲が下がった。というか、このクルマの“意味”がわかった。
約280kmを走って、燃費は12.0km/リッターをマークする。オーバー200馬力カーとしてはワルくないと思う。こう見えて、アイドリングストップ機構も付いている。BMWと共同開発したこの直噴1.6リッター4気筒ターボは、チューンを上げても、基本、好燃費である。
これがファイナルバージョンか
金黒という配色だけでもひと目を引くのに、黒はつや消し。横から見ると、エッジラインから上の複雑な模様のデカールも目立つ。信号待ちをしていると、歩道で目をまるくしている人を何人か見た。
最近、欧州車に増えてきたマット塗装は208GTiスポールにもある。こういうの、お手入れはどうなんでしょうと思って、DS 3のトリセツを読むと、推奨しているのは手洗いと高圧スプレーガンによる洗車のみ。自動洗車機はダメ。カラ拭きもダメ。やはり普通のペイントよりはるかに神経を使う。わずかなスクラッチでも、台無し感が発生しそうだから、ワタシのような貧乏性が買った日には、塗装が傷むので乗らんとこう、なんてことになるかもしれない。
ワックスがけや、つや出し剤などを使用すると、「回復不能の色むら、しみ、部分的な光沢が発生する原因になります」と記してある。知り合いのボディーコーティング業者に聞くと、たとえ依頼があっても、絶対に受けないそうだ。仮にコーティング処理をしたら、塗装でいう「半ツヤ」になって、マットの意味がなくなるはずだという。
以上は限定10台のブラックスペシャル固有の問題だが、DS 3パフォーマンスは、ビジュアル系にして体育会系でもある両性具有のDS 3である。2016年のWRCを欠席したシトロエンは、来シーズンから新たに「シトロエンC3」ベースのWRカーで戦う。WRカーの威を借りる特製DS 3も、これがファイナルバージョンとなりそうだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
DS 3パフォーマンス ブラックスペシャル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3970×1730×1455mm
ホイールベース:2455mm
車重:1210kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:208ps(153kW)/6000rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)205/40ZR18 86Y(ミシュラン・パイロット スーパースポーツ)
燃費:17.5km/リッター(JC08モード)
価格:399万円/テスト車=399万9500円
オプション装備:ETC(9500円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1681km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:280.9km
使用燃料:23.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/12.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。