クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック
【スペック】全長×全幅×全高=5080×1900×1475mm/ホイールベース=3070mm/車重=2100kg/駆動方式=FR/3リッター直6DOHC24バルブターボ(320ps/5800rpm、45.9kgm/1300-4500rpm)/燃費=14.2km/リッター(JC08モード)/価格=1198万円(テスト車=1308万1000円)

BMWアクティブハイブリッド7 Mスポーツ(FR/8AT)【試乗記】

静寂がもたらす新世界 2012.12.07 試乗記 大谷 達也 BMWアクティブハイブリッド7 Mスポーツ(FR/8AT)
……1308万1000円

「7シリーズ」のマイナーチェンジを機に、「アクティブハイブリッド7」が大きく進化した。1モーター2クラッチ方式のフルハイブリッドカーとなった新型の走りはいかに。
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

1モーター2クラッチ方式に集約

BMWのハイブリッド戦略は、ちょっとわかりづらかった。
最初に登場したのは「アクティブハイブリッド7」(以下、「AH7」と表記)で2009年10月の受注開始。これはメルセデスと共同開発したマイルドハイブリッドを採用しており、最高出力20psのモーター1基を積んでいた。続いてリリースされたのが「アクティブハイブリッドX6」。こちらは91psと86psという2基のモーターを搭載する2モード・アクティブトランスミッションを採用していたが、その開発はBMWとメルセデス、そしてGMの3社共同で行われた。

BMWのハイブリッド第3弾は、2011年の東京モーターショーでワールドプレミアとなった「アクティブハイブリッド5」(以下、「AH5」と表記)で、こちらは55psのモーターを搭載する1モーター2クラッチのパラレル方式を採用。つまり、前述のAH7やアクティブハイブリッドX6とは別物の、BMWとして3番目のハイブリッド方式が登場したのである。

去る9月26日に発表された新型AH7は、このAH5のパワートレインをそっくりそのまま移植している。さらに付け加えれば、「アクティブハイブリッド3」(以下、「AH3」と表記)のパワートレインも同じ。いっぽう、初代AH7が新型に置き換わったことで、マイルドハイブリッドはすでに消滅。残る2モード・アクティブトランスミッションについては、BMW本社のクラウス・ドレーガー副社長が「機械損失が大きく、効率が高いとはいえない」と語っているので、こちらも消滅の運命にあると見ていい。つまり、これまでわかりにくかったBMWのハイブリッド戦略は、ここにきて1モーター2クラッチのパラレル方式に集約されつつあるのだ。

ちなみに、このハイブリッドシステムは8段ATともどもギアボックスメーカーのZFから供給される。ZFは、BMWやアウディなどで幅広く採用されている8段ATと同じ寸法のユニットにハイブリッドのメカニズム一式を収めた“ハイブリッドお手軽キット”を開発。BMWのAH3、AH5、そしてAH7に加え、「アウディA6ハイブリッド」などが、このZF製ハイブリッドシステムを採用している。

マイルドハイブリッドからフルハイブリッドへ。最長4kmを、最高60km/hでモーター走行できるようになった。
マイルドハイブリッドからフルハイブリッドへ。最長4kmを、最高60km/hでモーター走行できるようになった。 拡大
LEDヘッドライトはマイナーチェンジの目玉装備のひとつ。ライトリングもLEDで、ロービームとして機能する。
LEDヘッドライトはマイナーチェンジの目玉装備のひとつ。ライトリングもLEDで、ロービームとして機能する。 拡大
エンジンは従来の4.4リッターV8ターボ(エンジン単体出力は449ps)から3リッター直6ターボ(同320ps)に改められ、燃費が14.2km/リッター(JC08モード)に向上した。
エンジンは従来の4.4リッターV8ターボ(エンジン単体出力は449ps)から3リッター直6ターボ(同320ps)に改められ、燃費が14.2km/リッター(JC08モード)に向上した。 拡大
BMW アクティブハイブリッド7 の中古車webCG中古車検索

燃費を大幅に改善

このようにいくつかの変遷をたどってきたBMWのハイブリッドカーだが、ひとつだけ首尾一貫していることがある。アクティブハイブリッドの名が示すとおり、ハイブリッドシステムをただ省燃費の道具として使うのではなく、パフォーマンス向上の手だてとして活用していることだ。このため、BMWの歴代ハイブリッドモデルは、ライバル車と比較しても大排気量、ハイパワーなエンジンを搭載していた。
例えば、初代AH7が4.4リッターV8エンジンを積んでいたのに対し、そのライバルであるメルセデス・ベンツの「Sクラス ハイブリッド」は3.5リッターV6だったし、3リッター直6ターボエンジンを積むAH5に対してA6ハイブリッドは2リッター直4ターボ。ライバルと比較すると、どちらもBMWらしい胸のすくような加速感を味わうことができた。

では、AH3やAH5であれば十分にパワフルに感じられた3リッター直6ターボエンジンを「7シリーズ」に積むとどうなるのか? AH7の記事を読んでいる読者諸氏であれば、この点が一番気になるだろう。その答えを先に述べるならば、7シリーズの威厳を保つのに十分な動力性能を得ていたとなるが、それとともに、ハイブリッド化に伴ってプレミアムサルーンとしての魅力が一層際立ったようにも感じられた。

その理由は後述するとして、まずはAH7の概要を紹介しよう。BMWのフラッグシップモデルである7シリーズがフルモデルチェンジしたのは2009年。今回は、現行型に切り替わって初のマイナーチェンジを受けたことになる。その最大のポイントは、より高効率な最新パワートレインに切り替わったこと。
例えば、「740i」の3リッター直6エンジンは、ツインスクロールターボ、高精度ダイレクトインジェクション、バルブトロニックを装備したツインパワーターボエンジンにアップグレード。最高出力こそ326psから320psへと微減したが、JC08モード燃費は従来比+48%の12.1km/リッターを記録する。いっぽう、「750i」に積まれる4.4リッターV8エンジンもバルブトロニックを新採用。パワーで+10%、燃費で+39%の向上を果たしている。

同様にAH7も大幅にパワーアップ……と言いたいところだが、前述のようにエンジンが4.4リッターV8から3リッター直6にダウングレードされたため、システム全体の最高出力は465psから354ps、最大トルクは71.4kgmから51.0kgmへと後退。その代わりといっては何だが、JC08モード燃費は14.2km/リッターを誇り、このためBMWは「プレミアムラグジュアリーセダン・セグメントNo.1」を豪語する。
ちなみに、日本が誇る「レクサスLS600h」は最高出力が394psでAH7を上回っているものの、JC08モード燃費は意外にも11.6km/リッターにとどまる。旧型AH7にいたっては、JC08モードより条件が緩い10・15モードでさえ10.0km/リッターだった。新型AH7の省燃費性能が光る。

もうひとつ、新型AH7の魅力といえるのがコストパフォーマンスの高さだ。標準ボディー同士で比較すると、740iの1022万円に対してAH7の価格は1198万円となるが、後者はセーフティーデバイスのドライビングアシストやLEDヘッドライトなどを標準装備しているので、それらを勘案すると実質的な価格差は20万円程度まで縮まるという。もちろん燃費は14.2km/リッターのAH7が12.1km/リッターの740iを凌(しの)ぐ。しかも、新型AH7では新たに右ハンドルも選べるようになった。このためBMWジャパンでは、AH7が販売面でも7シリーズの中核モデルになることを期待しているようだ。

試乗車はスタンダードホイールベースの「Mスポーツパッケージ」仕様車。やや小径にデザインされた、シフトパドル付きの「マルチファンクションMスポーツレザーステアリングホイール」が装着される。
試乗車はスタンダードホイールベースの「Mスポーツパッケージ」仕様車。やや小径にデザインされた、シフトパドル付きの「マルチファンクションMスポーツレザーステアリングホイール」が装着される。 拡大
フロントシートは、バックレスト上部の角度などが調整できる「フロントコンフォートシート」(オプション)。
フロントシートは、バックレスト上部の角度などが調整できる「フロントコンフォートシート」(オプション)。 拡大
試乗車のシートカラーはブラックで、素材は「ダコタレザー」。「エクスクルーシブナッパレザー」と呼ばれる上級素材をオプション選択することも可能。
試乗車のシートカラーはブラックで、素材は「ダコタレザー」。「エクスクルーシブナッパレザー」と呼ばれる上級素材をオプション選択することも可能。 拡大
リチウムイオンバッテリーはマイルドハイブリッド時代と同様にトランクの奥に搭載される。トランク容量は従来の460リッターから360リッターへ減少している。
リチウムイオンバッテリーはマイルドハイブリッド時代と同様にトランクの奥に搭載される。トランク容量は従来の460リッターから360リッターへ減少している。 拡大

無振動と無音が奏でる高級感

試乗を始めてすぐに気付いたのは、スロットルペダルを軽くもどしただけでもすぐにエンジンを停止させるハイブリッドシステムのプログラミングだった。少しでも余計にエンジンの火を消して燃料消費を抑える。そんな強い意気込みがヒシヒシと伝わってくるセッティングだ。同じパワープラントを積むAH3やAH5とは、この点が大きく異なっている。

いっぽう、フルスロットルで加速していくと、3500rpmくらいから電動アシストが威力を発揮し始め、6気筒らしい澄み切ったエキゾーストサウンドとともに7000rpmオーバーの領域まで力強く加速していく。正直、このクラスのV8モデルにはやや後れをとるかもしれないが、それでも十分に速い。分別のあるオトナであれば、むしろこのくらいのパフォーマンスのほうが好ましいのではないか?

走行しているときのエンジンのカットオフならびに再始動は、40km/h以上であればほとんど感じられないが、歩くような速度に近づくと、エンジンがかかった瞬間にゴロゴロゴロという軽い振動が感じられる。もちろん、そのレベルはAH3やAH5に比べれば圧倒的に小さいものの、基本的な静粛性が高い「7シリーズ」のキャビンではそれがかえって目立つ傾向も否めず、エンジンがかかった瞬間に、「ああ、普通のクルマに戻ってしまったなあ」と少しガッカリしてしまう。

先ほど「ハイブリッド化に伴ってプレミアムサルーンとしての魅力が一層際立った」と記したが、この電動モーターによる滑らかな走行感覚こそ、AH7の高級感を引き立てる大きな魅力だと思う。
例えば、「ロールス・ロイス ファントム」は、動き出す瞬間に“ヌメリ”とした感触を伴ってスムーズに発進するが、それと似たような高級感をAH7でも味わうことができるのだ。そしてモーターによって無振動、無音の状態で走っているときこそ、AH7本来の姿であるかのような意識が心のなかにどんどん広がっていくのである。エンジンがかかったときに軽く落胆してしまうのは、そのためだ。

実は、このエンジンが停止する頻度は、エンジンやギアボックスを統合的に制御するドライビング・パフォーマンス・コントロールでECO PROモードを選ぶと、さらに高まる。本来、ECO PROモードは燃費を向上させるのが目的だが、エレクトリックドライブの機会が増やすことで、結果的に高級感が高まったかのような印象を与える効果があると感じた。

乗り心地は、どこか軽やかさを感じさせるもの。車体はもちろんフラットに保たれるのだが、強力な減衰力で強引にボディーを押さえつけているという感覚は薄い。ハンドリングは、標準ボディーで2080kg、ロングボディーでは2140kgといずれも2トンオーバーのため、さすがに機敏とはいかないけれど、コーナーを攻めていったとき徐々にアンダーステアを増やしていくセッティングはドライバーに限界が近づいたことを知らせるシグナルとして有効で、長年ドライバーズカーを作り続けてきたBMWらしい味付けといえる。

パフォーマンスと環境性能の両立を目指して最新のハイブリッドシステムを搭載したAH7。そこで実現されたものが高級車としても新しい世界だったところに、私は深い感動を覚えた。

(文=大谷達也/写真=高橋信宏)

「アクティブハイブリッド7」を含め、マイナーチェンジを受けた「7シリーズ」は安全装備も強化されている。ミリ波レーダーとカメラで前方を監視する「ドライビング・アシスト・プラス」は、「衝突回避・被害軽減ブレーキ」「車線逸脱警告」「アクティブクルーズコントロール」「前車接近警告」の4機能で構成される。
「アクティブハイブリッド7」を含め、マイナーチェンジを受けた「7シリーズ」は安全装備も強化されている。ミリ波レーダーとカメラで前方を監視する「ドライビング・アシスト・プラス」は、「衝突回避・被害軽減ブレーキ」「車線逸脱警告」「アクティブクルーズコントロール」「前車接近警告」の4機能で構成される。 拡大
10.25インチの液晶パネルを用いてメーターを表現する「マルチディスプレイ・メーターパネル」は今回の目玉装備のひとつ。しかし、「アクティブハイブリッド7」シリーズへの採用は見送られた。
10.25インチの液晶パネルを用いてメーターを表現する「マルチディスプレイ・メーターパネル」は今回の目玉装備のひとつ。しかし、「アクティブハイブリッド7」シリーズへの採用は見送られた。 拡大
インパネ中央部のモニターが、ゼロエミッション走行中であることを示している(「eDRIVE」と表示される)。80km/h以上で走行中にエンジンを停止させるコースティング機能も備わる。
インパネ中央部のモニターが、ゼロエミッション走行中であることを示している(「eDRIVE」と表示される)。80km/h以上で走行中にエンジンを停止させるコースティング機能も備わる。 拡大
【テスト車のオプション装備】M Sportパッケージ=39万円/クライメートコンフォートガラス=18万9000円/電動ガラスサンルーフ=19万5000円/フロント・コンフォートシート=22万円/パーキングアシスト=7万3000円/BMW Apps=3万4000円
【テスト車のオプション装備】M Sportパッケージ=39万円/クライメートコンフォートガラス=18万9000円/電動ガラスサンルーフ=19万5000円/フロント・コンフォートシート=22万円/パーキングアシスト=7万3000円/BMW Apps=3万4000円 拡大
大谷 達也

大谷 達也

自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。

試乗記の新着記事
  • スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
  • ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
  • スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
  • トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
  • BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
試乗記の記事をもっとみる
BMW アクティブハイブリッド7 の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。