BMWアクティブハイブリッド7 Mスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
静寂がもたらす新世界 2012.12.07 試乗記 BMWアクティブハイブリッド7 Mスポーツ(FR/8AT)……1308万1000円
「7シリーズ」のマイナーチェンジを機に、「アクティブハイブリッド7」が大きく進化した。1モーター2クラッチ方式のフルハイブリッドカーとなった新型の走りはいかに。
1モーター2クラッチ方式に集約
BMWのハイブリッド戦略は、ちょっとわかりづらかった。
最初に登場したのは「アクティブハイブリッド7」(以下、「AH7」と表記)で2009年10月の受注開始。これはメルセデスと共同開発したマイルドハイブリッドを採用しており、最高出力20psのモーター1基を積んでいた。続いてリリースされたのが「アクティブハイブリッドX6」。こちらは91psと86psという2基のモーターを搭載する2モード・アクティブトランスミッションを採用していたが、その開発はBMWとメルセデス、そしてGMの3社共同で行われた。
BMWのハイブリッド第3弾は、2011年の東京モーターショーでワールドプレミアとなった「アクティブハイブリッド5」(以下、「AH5」と表記)で、こちらは55psのモーターを搭載する1モーター2クラッチのパラレル方式を採用。つまり、前述のAH7やアクティブハイブリッドX6とは別物の、BMWとして3番目のハイブリッド方式が登場したのである。
去る9月26日に発表された新型AH7は、このAH5のパワートレインをそっくりそのまま移植している。さらに付け加えれば、「アクティブハイブリッド3」(以下、「AH3」と表記)のパワートレインも同じ。いっぽう、初代AH7が新型に置き換わったことで、マイルドハイブリッドはすでに消滅。残る2モード・アクティブトランスミッションについては、BMW本社のクラウス・ドレーガー副社長が「機械損失が大きく、効率が高いとはいえない」と語っているので、こちらも消滅の運命にあると見ていい。つまり、これまでわかりにくかったBMWのハイブリッド戦略は、ここにきて1モーター2クラッチのパラレル方式に集約されつつあるのだ。
ちなみに、このハイブリッドシステムは8段ATともどもギアボックスメーカーのZFから供給される。ZFは、BMWやアウディなどで幅広く採用されている8段ATと同じ寸法のユニットにハイブリッドのメカニズム一式を収めた“ハイブリッドお手軽キット”を開発。BMWのAH3、AH5、そしてAH7に加え、「アウディA6ハイブリッド」などが、このZF製ハイブリッドシステムを採用している。
燃費を大幅に改善
このようにいくつかの変遷をたどってきたBMWのハイブリッドカーだが、ひとつだけ首尾一貫していることがある。アクティブハイブリッドの名が示すとおり、ハイブリッドシステムをただ省燃費の道具として使うのではなく、パフォーマンス向上の手だてとして活用していることだ。このため、BMWの歴代ハイブリッドモデルは、ライバル車と比較しても大排気量、ハイパワーなエンジンを搭載していた。
例えば、初代AH7が4.4リッターV8エンジンを積んでいたのに対し、そのライバルであるメルセデス・ベンツの「Sクラス ハイブリッド」は3.5リッターV6だったし、3リッター直6ターボエンジンを積むAH5に対してA6ハイブリッドは2リッター直4ターボ。ライバルと比較すると、どちらもBMWらしい胸のすくような加速感を味わうことができた。
では、AH3やAH5であれば十分にパワフルに感じられた3リッター直6ターボエンジンを「7シリーズ」に積むとどうなるのか? AH7の記事を読んでいる読者諸氏であれば、この点が一番気になるだろう。その答えを先に述べるならば、7シリーズの威厳を保つのに十分な動力性能を得ていたとなるが、それとともに、ハイブリッド化に伴ってプレミアムサルーンとしての魅力が一層際立ったようにも感じられた。
その理由は後述するとして、まずはAH7の概要を紹介しよう。BMWのフラッグシップモデルである7シリーズがフルモデルチェンジしたのは2009年。今回は、現行型に切り替わって初のマイナーチェンジを受けたことになる。その最大のポイントは、より高効率な最新パワートレインに切り替わったこと。
例えば、「740i」の3リッター直6エンジンは、ツインスクロールターボ、高精度ダイレクトインジェクション、バルブトロニックを装備したツインパワーターボエンジンにアップグレード。最高出力こそ326psから320psへと微減したが、JC08モード燃費は従来比+48%の12.1km/リッターを記録する。いっぽう、「750i」に積まれる4.4リッターV8エンジンもバルブトロニックを新採用。パワーで+10%、燃費で+39%の向上を果たしている。
同様にAH7も大幅にパワーアップ……と言いたいところだが、前述のようにエンジンが4.4リッターV8から3リッター直6にダウングレードされたため、システム全体の最高出力は465psから354ps、最大トルクは71.4kgmから51.0kgmへと後退。その代わりといっては何だが、JC08モード燃費は14.2km/リッターを誇り、このためBMWは「プレミアムラグジュアリーセダン・セグメントNo.1」を豪語する。
ちなみに、日本が誇る「レクサスLS600h」は最高出力が394psでAH7を上回っているものの、JC08モード燃費は意外にも11.6km/リッターにとどまる。旧型AH7にいたっては、JC08モードより条件が緩い10・15モードでさえ10.0km/リッターだった。新型AH7の省燃費性能が光る。
もうひとつ、新型AH7の魅力といえるのがコストパフォーマンスの高さだ。標準ボディー同士で比較すると、740iの1022万円に対してAH7の価格は1198万円となるが、後者はセーフティーデバイスのドライビングアシストやLEDヘッドライトなどを標準装備しているので、それらを勘案すると実質的な価格差は20万円程度まで縮まるという。もちろん燃費は14.2km/リッターのAH7が12.1km/リッターの740iを凌(しの)ぐ。しかも、新型AH7では新たに右ハンドルも選べるようになった。このためBMWジャパンでは、AH7が販売面でも7シリーズの中核モデルになることを期待しているようだ。
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無振動と無音が奏でる高級感
試乗を始めてすぐに気付いたのは、スロットルペダルを軽くもどしただけでもすぐにエンジンを停止させるハイブリッドシステムのプログラミングだった。少しでも余計にエンジンの火を消して燃料消費を抑える。そんな強い意気込みがヒシヒシと伝わってくるセッティングだ。同じパワープラントを積むAH3やAH5とは、この点が大きく異なっている。
いっぽう、フルスロットルで加速していくと、3500rpmくらいから電動アシストが威力を発揮し始め、6気筒らしい澄み切ったエキゾーストサウンドとともに7000rpmオーバーの領域まで力強く加速していく。正直、このクラスのV8モデルにはやや後れをとるかもしれないが、それでも十分に速い。分別のあるオトナであれば、むしろこのくらいのパフォーマンスのほうが好ましいのではないか?
走行しているときのエンジンのカットオフならびに再始動は、40km/h以上であればほとんど感じられないが、歩くような速度に近づくと、エンジンがかかった瞬間にゴロゴロゴロという軽い振動が感じられる。もちろん、そのレベルはAH3やAH5に比べれば圧倒的に小さいものの、基本的な静粛性が高い「7シリーズ」のキャビンではそれがかえって目立つ傾向も否めず、エンジンがかかった瞬間に、「ああ、普通のクルマに戻ってしまったなあ」と少しガッカリしてしまう。
先ほど「ハイブリッド化に伴ってプレミアムサルーンとしての魅力が一層際立った」と記したが、この電動モーターによる滑らかな走行感覚こそ、AH7の高級感を引き立てる大きな魅力だと思う。
例えば、「ロールス・ロイス ファントム」は、動き出す瞬間に“ヌメリ”とした感触を伴ってスムーズに発進するが、それと似たような高級感をAH7でも味わうことができるのだ。そしてモーターによって無振動、無音の状態で走っているときこそ、AH7本来の姿であるかのような意識が心のなかにどんどん広がっていくのである。エンジンがかかったときに軽く落胆してしまうのは、そのためだ。
実は、このエンジンが停止する頻度は、エンジンやギアボックスを統合的に制御するドライビング・パフォーマンス・コントロールでECO PROモードを選ぶと、さらに高まる。本来、ECO PROモードは燃費を向上させるのが目的だが、エレクトリックドライブの機会が増やすことで、結果的に高級感が高まったかのような印象を与える効果があると感じた。
乗り心地は、どこか軽やかさを感じさせるもの。車体はもちろんフラットに保たれるのだが、強力な減衰力で強引にボディーを押さえつけているという感覚は薄い。ハンドリングは、標準ボディーで2080kg、ロングボディーでは2140kgといずれも2トンオーバーのため、さすがに機敏とはいかないけれど、コーナーを攻めていったとき徐々にアンダーステアを増やしていくセッティングはドライバーに限界が近づいたことを知らせるシグナルとして有効で、長年ドライバーズカーを作り続けてきたBMWらしい味付けといえる。
パフォーマンスと環境性能の両立を目指して最新のハイブリッドシステムを搭載したAH7。そこで実現されたものが高級車としても新しい世界だったところに、私は深い感動を覚えた。
(文=大谷達也/写真=高橋信宏)
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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