ホンダ・フィットハイブリッドRS(FF/CVT)【試乗記】
トッピングは走り 2012.07.19 試乗記 ホンダ・フィットハイブリッドRS(FF/CVT)……226万2500円
ホンダの「フィット」シリーズに、ハイブリッドスポーツ「CR-Z」と共通のパワーユニットを持つ新グレードが誕生。その走りを、CVTモデルで試した。
フィットの中で最高峰
「かおりムシューダ」という不思議な商品がある。「ムシューダ」は“無臭だ”をもじったダジャレ型ネーミングで、ナフタリン臭くないことが売りの防虫剤だ。せっかく苦労して無臭にしたのに、わざわざせっけんや花の香りをつけた。二度手間かけて、ひと回りしたことになる。これが大ヒットした。
「フィットハイブリッドRS」という名前を聞いて、これを思い出してしまったのだ。燃費とエコを看板にしたハイブリッドに、スポーティーモデルであることを示す“RS”の名を付与している。一つの名前の中にホコタテ両方が入ってしまったようにも思えて、違和感が拭えない。いったいどちらを向いているのか。
2012年5月に行われたマイナーチェンジで、このモデルが追加された。ハイブリッドでは、RS以外にも「XH」と「She's」が加わっている。XHはゴージャス版だ。内外装で高級感を演出し、防音材をおごることで静粛性も向上させているそうだ。She'sは女性の開発陣が女性のためにプロデュースしたオシャレ仕様という触れ込みである。そして、RSは「上質・洗練・先進×操る歓び」がコンセプトになっている。196万円という価格はシリーズ中最高で、フィットの中で一番上のグレードという位置づけになる。
フィットの中でハイブリッドモデルの販売比率が増えていることで、バリエーションを増やす必要があったのだ。RSは女性仕様モデルと同様の理由で追加されたわけで、よく考えればこれは自然な商品戦略なのである。
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CR-Zと同じパワートレイン
ベースモデルのエンジンが1.3リッターで88psのパワーなのに対し、RSは1.5リッターで114psだ。26psのアドバンテージが余裕となり、スポーティーな走りの源となる。モーターは14psで、どちらも変わらない。1.5リッターエンジンとこのモーターの組み合わせは、すでに前例がある。「CR-Z」が同じパワートレインを搭載していた。
トランスミッションはCVTと6MTが用意されていて、今回乗ったのはCVTモデルだった。「SPORT」「NORMAL」「ECON」と3つのボタンがあり、走行モードを切り替えることができる。これもCR-Zと同じだが、フィットはボタンの位置が右下の奥まったところにあり、操作がしづらかった。メーターパネルのすぐ右横にあったCR-Zのほうが、理にかなっている。
デフォルトではNORMALモードが選択されるようになっている。試乗の際は、ストレスを感じない限りECONモードに設定して走ることにした。このモードでは、エンジンはトルクを抑えて燃費優先にし、トランスミッションは早めにシフトアップしていくように制御される。このモードでアクセルを踏むと、とても重く感じる。入力に対して反応が緩慢なので、そう感じてしまうのだ。流れに乗って走っている分にはあまり気にならないが、加減速を繰り返す場面では少々ストレスが生ずる。
極力電気を消費しないように動作するので、エアコンも省エネ態勢になる。停止時にアイドリングストップするのはもちろんだが、エアコンも止まってしまう場合が増えるのだ。夏場の猛暑の中ではツラいかもしれない。
あまり無理をせず、信号からの発進ではNORMALに切り替えておけばいい。ある程度のスピードに達したら、ECONモードにしてゆったりと運転する。主に房総半島の一般道を走り、信号でストップすることが少なかったので、この方法がうまく適合した。東京都内の混雑の中では、事情が変わってくるだろう。
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劇的に性格が変わる
CR-Zに比べると、乗り心地はマイルドに感じた。ファミリーカーがベースとなっているのだから、性格付けは明確に異なる。外観はエアロパーツやLED発光のフロントグリルなどでドレスアップされているが、CR-Zのようにすごみを強調してはいない。内装もステアリングホイールやコンソールパネルに専用パーツが用いられているものの、基本はベースモデルと同じ意匠だ。
ハイブリッドモデルはメーターでエネルギーの消費状況をグラフィカルに表すのが習いだが、このモデルでは表示が控えめだ。見慣れてきたことだし、これ見よがしに強調する必要もないのだろう。ただ、SPORTモードを選んだ時はメーターが激しく自己主張する。ブルーとグリーンだった照明が、突如真っ赤に染まってドライバーを鼓舞するのだ。
視覚的なアオリがなくても、性格をガラリと変えたパワートレインにドライバーはすぐさま反応してしまう。まずは、音だ。ブゥブゥとくぐもった声を発していたエンジンが、いきなり威勢のよいサウンドを奏ではじめる。重低音の響きが心地よく、アクセルを踏む右足に力が入るのだ。すると間髪を入れずトルクが盛り上がるのを感じ、力強い加速が始まる。CR-Zと同様に、1台の中に2台のクルマを共存させている。
400km弱を走って、満タン法での燃費は19.7km/リッターだった。以前CR-Zで似たようなコースを走ったときは16.2km/リッターだったから、同じシステムでもフィットのほうがかなり優秀な成績だ。ただし、MTモデルだったCR-Zは少々不利ではある。ちなみに、ノーマル版のフィットハイブリッドに乗ったときは、17.4km/リッターという数字だった。走行条件が違うから厳密な比較ではないものの、RSを名乗っているにしては驚異的な燃費性能と言っていい。
走りを重視したからといって、ハイブリッドの身上である燃費をおろそかにしたわけではなかった。そして、CR-Zよりも50万円以上も価格は低い。ここに魅力を感じる人は必ずいるはずだ。ムシューダに香りをつけると魅力が増したように、ハイブリッドに走りをトッピングすることにも大きな意味がある。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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