トヨタ・カローラ アクシオ1.5LUXEL(FF/CVT)【試乗記】
ほのかに「昭和の香り」 2012.07.12 試乗記 トヨタ・カローラ アクシオ1.5LUXEL(FF/CVT)……238万743円
2012年5月にフルモデルチェンジした「トヨタ・カローラ」に、本命の1.5リッターモデルが1カ月遅れで追加された。日本のモータリゼーションを担った大衆車の最新型は、ドライバーに何を語りかけてくるのか。セダン「アクシオ」のトップグレードに試乗した。
初めてなのに懐かしい
新型「カローラ アクシオ」の運転席に乗り込んだ途端、何となく懐かしい感覚に襲われた。室内をぐるりと見回してみても、わざとレトロを狙ったようなデザインは見当たらない。上に向けて角度を付けたセンターパネルや、ダッシュボードの左右に配された円形のエアコン吹き出し口の造形はむしろ現代的だし、エンジン始動だってプッシュボタン式である。にもかかわらず、運転席に座って目に入ってくる風景に、筆者はどういうわけか「昭和の香り」を感じたのだ。
一体なぜだろう。齢(よわい)40代半ばのオッサンである筆者にとって、カローラは“親父(おやじ)世代”のクルマというイメージが強い。筆者の親父は6年前に他界してしまったが、生前に所有していた最後のクルマは6代目カローラ(E90型)の中古車だった。とはいえ、親父のカローラの記憶はほとんど残っていないから、新型カローラの比較対象として自分の頭に思い浮かぶのは、やはり平成の時代に入ってファミリーカーの主流に躍り出たミニバンやコンパクトカーである。
平成のミニバンやコンパクトカーでは、広い室内空間の演出と空力の向上を目的に、Aピラーを前方に移動させてフロントウィンドウを寝かせた「キャビンフォワード」のシルエットが流行している。だが、衝突安全性確保のため運転席は前方に寄せられないので、ドライバーから見るとフロントウィンドウが遠くなり、車両の先端の位置がつかみづらい。メーカーはドライバーとフロントウィンドウの間の空間が間延びした印象にならないよう、ダッシュボードの造形を立体的にしたり、メーター類の配置に奥行きを持たせたり工夫を重ねている。しかし下手をするとゴチャゴチャしたデザインになりがちだし、メーターの視認性向上に役立っているのかも疑問だ。
そんななか、新型カローラはAピラーの付け根を先代より100mmほど後退させ、フロントウィンドウを再びドライバーに近づけた。身長172cmの筆者の場合、運転席からボンネットが見えるので車両感覚がつかみやすい。ステアリングのすぐ裏側に置かれたメーターパネルは、奥行きが浅くやや平板なデザイン。しかし中央に配置された大型スピードメーターと相まって、視認性は申し分ない。平成生まれのファミリーカーに慣れ切っていた身にとって、こうした特徴が記憶のかなたにある「昭和の香り」を呼び起こしたようだ。
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表面からは見えないこだわり
製品企画本部の中村寛主査によれば、新型カローラは「大人4人が快適に移動できる最小サイズで、安全かつ扱いやすいクルマ」を目標に掲げたという。1966年の初代デビュー以来、モデルチェンジのたびに少しずつ大型化を重ねてきたが、今回初めてその流れを断ち切った。新型のボディーサイズは全長×全幅×全高=4360×1695×1460mmと、先代より長さが50mm短くなり、幅と高さは据え置き。ホイールベース(2600mm)とフロントトレッド(1480mm)も同一で、リアトレッド(1470mm)だけが先代より10mm広い。
これらの数値を見て、車台は先代のキャリーオーバーかと思ったら、実はさにあらず。先代よりも一回り小さい「Bプラットフォーム」に変更されていたのだ。新型の最小回転半径は4.9mと先代より0.2m縮小したが、これは全長短縮とプラットフォーム変更の効果だろう。Bプラットフォームはもともと「ヴィッツ」など数の出るコンパクトカー向けに開発された車台で、部品共通化によるコストダウン効果も大きい。普通のドライバーがプラットフォームの違いを意識することはまずないから、車体のディメンションを変えずに取り回しを向上させた点は、新型カローラの売り物の一つと言える。
Aピラーの付け根を大きく後退させたのは、ドライバーの視界を良くして安全性を高めるのが狙い。しかし単純にAピラーを後退させると、フロントウィンドウの角度が立ち、古くさいイメージになる。空力面でも不利だ。そこで、フロントウィンドウ中央の位置は動かさず、左右に行くほどガラスを湾曲させることで、Aピラーの後退を実現するという凝った手法をとった。ピラーそのものも、強度を確保しながら先代より細くしている。ドアミラーは新規に型を起こし、取り付け位置も少し後ろにずらすことで斜め前方の死角を減少させた。セダンの地味なたたずまいからは想像しにくいが、新型カローラには表面からは見えない新しいアイデアや工夫が随所に仕込まれているのだ。
代々受け継がれた美点
中村主査によれば、カローラ アクシオの販売の6割を占める個人オーナーは平均年齢が64〜65歳に達しているそうだ。残りの4割は営業車やレンタカーなどの法人ユース。個人オーナーの中には歴代カローラを乗り継いできた忠実なファンが多いが、年齢とともに動体視力などが低下し、「ボディーをこれ以上大きくしないでほしい」という声も少なくなかったという。一方、営業車では免許取り立ての新入社員がハンドルを握り、大事な顧客を後席に乗せて運転するケースも珍しくない。個人と法人の両方のニーズを満たすため、開発チームは「運転しやすく、事故を起こしにくい」クルマ作りに徹底的にこだわった。
運転席からの視界を広げ、車体の取り回しを改善した恩恵は、走りだせばすぐに実感できる。初めて運転するドライバーでも、違和感なく短時間で慣れてしまうだろう。1.5リッターモデルのパワートレインは、先代にも搭載されていた「1NZ-FE型」を大幅改良して燃費を向上させたエンジンに、新開発のCVTを組み合わせたもの。燃費はJC08モードで20.0km/リッター(オプションのアイドリングストップ機構装着車は21.4 km/リッター)と、ハイブリッド車には及ばないものの1.5リッター級ではトップクラスだ。
今回の試乗は、写真撮影を含めて1時間ほどの駆け足取材。コーナリングを試すような走りはできなかったが、カローラを駆って山道を攻めたいと考えるドライバーはほとんどいないはずだ。パワートレインは燃費重視で、背中を押し出すようなトルク感は期待できないし、アクセルの踏み込み具合と加速感が一致しないCVT特有のクセもある。しかしカローラの場合、それらを気にするオーナーはやはり少ないのではないか。
それよりも、一般道を50〜60km/hで巡航していると、エンジンは静かで乗り心地もフラット。一回り大きいクルマに乗っているようで、実に快適だ。こういう日常域での上質感こそ、カローラが代々守ってきた美点であり、新型もそれをしっかり受け継いでいる。筆者の親父がもし生きていたら、「次もカローラにすれば」と薦めていたかもしれない。
(文=岩村宏水/写真=高橋信宏)
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岩村 宏水
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