スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/4AT)/ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)
ドア2枚分のくつろぎ 2026.07.27 試乗記 “ジムニー史上初”となる、5ドアのロングボディーで人気を博す「スズキ・ジムニー ノマド」。快適な後席と広い荷室空間が自慢のファミリーの新顔に、はたして死角はないのか? このクルマの本領であるオフロードも走行し、その実力をつまびらかにした。つくり込まれた後席の居住性
初代の登場は大阪万博と同じ1970年。ということはかれこれ60年近い歴史を刻み続けるジムニーの、その変遷のなかでサイズの異なるバリエーションモデルがなかったわけではない。1980年代あたまの第2世代SJ型には、ホイールベースを340mm伸ばした2座のピックアップトラックという車型が少数ながら日本でも販売された。このベッドに幌(ほろ)やレジントップを被せた貨客両用車が、「ジプシー」の名前で長年インドで親しまれていたことをご存じの方もいらっしゃるかもしれない。
が、純然たるパッセンジャーユースの5ドアとして、スズキが車台も上屋も新規設計したケースは初めてだ。そういう点においてノマドは、新しいジムニーの歴史を飾るモデルでもある。
ノマドの寸法データを見ていてちょっと目にとまるのは、ベースともいえる3ドアモデルに対してホイールベースが340mm延長されていることだ。そこに最適値があるのか、あるいは偶然なのか、前述のSJ型ロングシャシーと数値がほぼ変わらない。この伸ばししろをノマドはすべてキャビンスペース、後席および荷室の拡張に振り分けている。窓が全開閉できて足入れもきちんと考慮したリアドアを配するために、フロントドアも専用につくり直された。
181cmの大男がドラポジをとったうえで、その後席に座ってみると、さすがにヒザまわりに余裕はない。が、後席座面が高く持ち上げられたシアターポジションのおかげもあってか、姿勢的、視界的にはロングドライブでも我慢できそうな環境がもたらされている。そのぶん天井は近くなるが、座高には自信のある筆者でも天張りに頭が触れるほどではなかった。ちなみに、後席まわりにエアコンの吹き出し口やUSB端子などのおもてなしはまるで備わらないが、カー用品などを工夫して快適化するのも、ジムニーに乗る楽しみのひとつだと思う。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
地味だけれど重要な品質へのこだわり
前席まわりの環境や装備については、ベースたる3ドアとほぼ相違はない。厳密にはBピラーの位置がやや前方に移動しているが、これによる視界の差異は無視できるレベルだろう。2025年秋からオプションで採用された9インチのインフォテインメントシステムはノマドにも適用されるが、カメラなどの視界補助はバックモニターのみとなる。
内外装の樹脂部品の質感は、日本生産の「シエラ」と比べても著しい見劣りは感じられない。よくよく見比べればダッシュボードのシボ感やテカリなどがわずかに違うかと思うくらいだが、これも光線の加減によるものか定かではないほどに微細な印象の差だ。唯一気になったのはアルミホイールの塗装輝度やスポークのエッジの違いだが、これもエンジニアによればまったく同じスペックだというから、気にするところではないのだろう。1型の立ち上がりでは塗装品質などで不安定なところもあったと聞くが、現在は湖西や相良工場でのPDI(Pre-Delivery Inspection:納車前検査)において不具合が問題になることはないという。
インド生産となるノマドの、品質にまつわるエピソードのひとつが「におい」だ。部品の接着剤や洗剤などに由来するものはもちろんだが、当然ながら生産地にはおのおのの場の生活に根ざした空気がある。たとえば海外から来日した外国人がまず感じるのはしょうゆのにおいだと聞くが、われわれも海外の空港に降り立てばまず感じるその国のにおい……というのがインドにもあるわけだ。
具体的には、スパイス的なにおいというのが、スズキでもかつて「バレーノ」の輸入時に販売店やユーザーから指摘されたという。そこでノマドの日本仕様の生産にあたっては、製造レベルから無臭にこだわり、念押しのために脱臭効果のある素材も織り込んでにおい消しを徹底しているそうだ。……と、説明されるまで意識が向かないほど、たしかにノマドの車中で違和感を覚えることはなかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
シエラとは明確に異なる乗り味と走り
ノマドのパワー&ドライブトレインやトランスファーに変更はないが、走破性を示すスペックを見てみると、2型ではランプブレークオーバーアングルが2度後退し23度となっている(シエラは27度)。これは車外騒音対策の一環で、トランスファーのギアノイズを抑えるべく消音材を張り込んだカバーを取り付けたためだ。その素材自体は曲げ板を用いていて、地面との接触時にはガード的な役割も果たす強度を確保している。
悪路での試乗でまず気づくシエラとの違いは、乗り心地だ。ロングホイールベース化によるバウンドの柔らかさはもちろん、タイヤが路面にタッチする際のショックも相当優しく感じられる。おそらくは骨格寸法やボディー剛性と足まわりのチューニングが、うまくかみ合っての印象なのだろう。
試乗は時折雨が混じる天候のもとで行われ、路面には一部ぬかるんだところもあったが、ジムニーの走破性は相変わらず強烈で、ノーマルのオールテレインタイヤでもモーグル路をグイグイと苦もなく越えていく。その際の姿勢のフラット感もシエラとは一線を画するところで、ここでも寸法が効いていることを実感させられた。反面、さらに厳しい環境になれば、姿勢を積極的に傾けて脚を路面に圧着していく3ドアの側に確実に歩(ぶ)があるだろうと、そんな印象を抱いたのも事実だ。
さりとて、大人4人が荷物とともに移動しながら、これ以上は無理と思うような狭所難所を苦もなく走り切る能力は備えている。それだけでもノマドは特殊な技能を備えたクルマといえるだろう。一方のオンロードで明確な弱点として感じたのも、やはりホイールベース由来の小回りの利かなさや操舵量の多さだが、それは一芸ありのクルマを乗りこなすクセを克服する楽しみとしておきたい。シエラにも増して動力性能はきっかりポッキリだが、高速移動は賢くなったアダプティブクルーズコントロールにゆるりと委ねて、ピッチングの少ないフラットな乗り味を満喫していれば目的地には快適にたどり着くだろう。現場に行ってからが勝負という3ドアに比べると、前後の道程にもくつろぎが期待できるのがノマドのうま味だと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・ジムニー ノマドFC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3890×1645×1725mm
ホイールベース:2590mm
車重:1200kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:101PS(74kW)/6000rpm
最大トルク:130N・m(13.3kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 96S/(後)195/80R15 96S(ブリヂストン・デューラーH/L 852)
燃費:14.9km/リッター(WLTCモード)
価格:292万6000円/テスト車=318万1640円
オプション装備:ボディーカラー<シフォンアイボリーメタリック2 ブラック2トーンルーフ>(5万5000円)/バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ・スズキコネクト装着車(12万8700円) ※以下、販売店オプション フロアマット<トレー>(1万7600円)/ドライブレコーダー(3万8940円)/ETC車載器(1万5400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:328km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
スズキ・ジムニー ノマドFC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3890×1645×1725mm
ホイールベース:2590mm
車重:1210kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:4段AT
最高出力:101PS(74kW)/6000rpm
最大トルク:130N・m(13.3kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 96S/(後)195/80R15 96S(ブリヂストン・デューラーH/L 852)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:292万6000円/テスト車=312万6640円
オプション装備:ボディーカラー<セレスティアルブルーパールメタリック>(0円)/バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ・スズキコネクト装着車(12万8700円) ※以下、販売店オプション フロアマット<トレー>(1万7600円)/ドライブレコーダー(3万8940円)/ETC車載器(1万5400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:881km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【ニュース】「スズキ・ジムニー」に待望の5ドアモデル「ジムニー ノマド」登場
◆【デイリーコラム】「スズキ・ジムニー ノマド」を徹底解剖! 兄弟車との詳しい違いと誕生の裏側を探る
◆【ニュース】スズキが「ジムニー ノマド」の受注を再開 アダプティブクルーズコントロール搭載などの仕様変更も実施

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
マツダCX-5 L(FF/6AT)【試乗記】 2026.9.8 マツダの最量販SUV「CX-5」の最新モデルに試乗。計画外のフルモデルチェンジによって誕生した3代目は、走りや操作系などに、従来のマツダにはない新しい試みが見られる一台となっていた。失敗の許されない基幹モデルの仕上がりを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.7 「日産エルグランド」が16年ぶりのフルモデルチェンジを敢行。すでにプレミアムミニバンのジャンルは後発のライバルに席巻されている現状だが、日産はそのライバルとは別のアプローチ=走りの楽しさで復権を目指すという。その成否やいかに。
-
ランボルギーニ・レヴエルトSV(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.9.5 ランボルギーニの歴史において「SV」の2文字は特別な意味を持つ。その称号が与えられた、ハイブリッドの最新マシン「レヴエルトSV」の走りやいかに? イタリアのテストコースで試乗した西川 淳がリポートする。 -
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.9.2 BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.9.1 2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。
-
NEW
日産キックスG(FF)【試乗記】
2026.9.9試乗記日産が満を持して投入したコンパクトSUVの新型「キックス」。Cセグメントに迫るサイズとなったこのモデルは、競合ひしめくマーケットで存在感を示せるのか? 上級グレード「G」の試乗を通し、ライバルに対するアドバンテージを探った。 -
NEW
「レガシィ」登場からブーム到来、そして終焉へ 国産ステーションワゴン興亡史(後編)
2026.9.9デイリーコラム国産ステーションワゴン興亡史の後編。国産ワゴンの金字塔「スバル・レガシィ ツーリングワゴン」が1989年にデビューしたものの、やがて市場の人気はミニバンに流れ、退潮傾向が鮮明に。各社とも個性的なモデルの投入で最後の踏ん張りを見せるのだが……。 -
大矢アキオさんのトークイベント開催 連載「マッキナ あらモーダ!」19年の歩みと思い出
2026.9.8From Our Staff約19年にわたり読者にイタリアの風を届け続けてくれたwebCGの名物連載「マッキナ あらモーダ!」。著者の大矢アキオさんをお迎えし、本連載の歴史を振り返るトークイベントを開催します。ふるってご参加ください。 -
クルマの“音関係の開発”はどのように行われている?
2026.9.8あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマのうたい文句として「エンジン音や排気音にこだわった」というフレーズを耳にする。では、遮音・防音を含め、車両の音関係の開発はどのように行われているのだろうか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
マツダCX-5 L(FF/6AT)【試乗記】
2026.9.8試乗記マツダの最量販SUV「CX-5」の最新モデルに試乗。計画外のフルモデルチェンジによって誕生した3代目は、走りや操作系などに、従来のマツダにはない新しい試みが見られる一台となっていた。失敗の許されない基幹モデルの仕上がりを報告する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.9.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、9月15日(火)の夜、19時半から実施します。























































