トヨタ・カローラ アクシオ1.5G(FF/CVT)【試乗記】
伝統は守られた 2012.09.12 試乗記 トヨタ・カローラ アクシオ1.5G(FF/CVT)……210万923円
かつてほどの勢いはなくとも、やはり「カローラ」は日本車文化のひとつの軸。新型ではプラットフォームが一クラス下のものに“合理化”されたが、カローラらしさは受け継がれていた。
「あ、カローラみたい」
11代目にあたる新型「カローラ」、「大人4人ないし5人が安全、快適に長距離をストレスなく移動できる最小のクルマ」(チーフエンジニアの藤田博也さん談)がコンセプトだそうである。実に直球ど真ん中。実用車の永遠のテーマといってもいい。ホントのホントにそのコンセプトどおりのものになっていたら、今度のカローラはグローバル級に強力な説得力をもつクルマになっているはずで、だとしたらドメスティック商品にしておくのはすごくもったいない。ゼヒとも宮城からドシドシ海外へ輸出して外貨を稼いでいただきたい。
しかしながらというか、実際に運転席に座って、目の前を見渡した際の印象は「あ、カローラみたい」。ニッポンのカローラ。ダッシュボードごしにエンジンフードが見えたかどうかはイマイチ記憶にないけれど(でもたぶん見えていた)、デカく高いダッシュボードや傾斜のキツいAピラーがジャマくさくて出来損ないのミニバンみたいで「こんなのカローラじゃねえ!!」だった9代目とはハッキリ違う。ナンか戻ってる? そうか俺、10年かもっとぶりにカローラを運転するのね。
戻ってるといえば、このステアリングホイール。センターパッドの外周近くをグルリとステッチが。ただし、ホンモノの糸や縫い目ではなく樹脂の成形でそれを再現してある。30年かもっと昔の日本車にはよくあった。ループタイを締めてるオジサン、なんてのを思わず連想。なお、せっかくついてるテレスコピック調整(「1.5G」と「1.5LUXEL」と「1.3X」の“G EDITION”に標準装備)は、その調整幅がホンのちょびっと。あと、シートベルトのスルーアンカーに高さ調整機構はついていない(全車)。
さらっと19.2km/リッターを記録
その昔は、カローラときたら「まるで空気のような……」だったもので。空気のように、とにかくどこにもひっかかりのない運転感覚。良くも悪くも。そういうことでいうと、ステアリング系の手応えはちょっといただけない。真ん中というか真っすぐ状態のところにミョーな重さがつけてあって「ン!?」。気持ち的にもひっかかる。ここは、ソーメンの喉越しみたいにツルッといってほしい(タイヤが横力を出してない状況での手応え、という意味でもそのほうが正しい)。
車重1.1トン弱に対してエンジン排気量は1.5リッター(もある、といまの感覚では言いたくもなる)。ということで、エンジンの燃費のメダマ(1ps×1時間あたりの燃料消費量がもっとも少ない領域)近くを使いたがりまくるCVTの仕事もそんなにわずらわしくは感じられず。ただし、高速道路の下り坂でどんどんスピードが上がっちゃう等の傾向はこのクルマにもある。正確な速度維持が容易でないのは、THS(トヨタハイブリッドシステム)モノにかぎらず最近の日本車の多くに共通する難点。
横浜の大黒パーキングを出発するときに燃費計とトリップカウンターをリセットしてみた。で、首都高→第三京浜で東京へ。24分間で29kmほど走って環八手前の料金所を出たところで20.5km/リッター。さらにそのまま、環八→中原街道で自宅まで。合計、40分間で約38km走って19.2km/リッター。エンジンのバルブスプリングのレートを低くしたり、同じくバルブ駆動用チェーンのフリクションを減らしたりしたことの成果……ということでしょうか。CVTのベルトが接触面をカジってアウトになっちゃわないギリギリまでバリエーターにかける油圧を低く抑えて……なんてのもふくめてこのテの燃費低減策、俺的には黒ヒゲ危機一髪ゲームが連想されたりしますが。
後席環境にさらなるツメを
新型カローラ、結論としてはけっこうカローラでした。乗る前のこちらの期待値と実際のモノのデキとの関係というのももちろんカンケーありますが、例えば「ヴィッツ」と比べたら、ヴィッツとカローラぐらい違っていたので。あるいはもっとずっと。(最近のトヨタの小型車にしてはオッと思うほど)静かだし。乗り心地はマイルドだし。フラフラフラフラしないで一応真っすぐ走ったし。で、少なくとも、腹が立ったり慌てたりということは特になかったので。それなり丁寧には作られてるっぽいので。
「今度のカローラ、プラットフォームはヴィッツとかと同じなんでしょ?」とガッカリ感を表明したい人。アナタはゼヒ、新型カローラをお試しになるといいでしょう。きっと、「これがあの……?」ってなりますよ。昔ながらのカローラっぽい取り回しの気安さもあるし。
でも、最後にちょっと、残念だったところに関して。ひとつには、「大人4人ないし5人が……」の大上段なコンセプトのわりには後席環境のツメがアマい。上半身の肩甲骨から上の部分をもうちょっと起こした角度で支えてあげたら(クッションの盛りかたでできるはず)、天井の一番高いところ(わざわざへこませてあるところ)の真下に頭がきて、クリアランス的にも姿勢的にも快適なのに。ヘッドレストの位置や形状の見直しもふくめて、マイチェンでヨロシク。
(文=森慶太/写真=小林俊樹)
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