日産 スカイライン250GT【特集/大川悠】
夢見る頃をすぎても-時代の夢を背負うスカイライン- 2002.01.06 試乗記 スカイライン250GT(4AT) ……325.0万円 「V6」「ロングホイールベース」「大型化」のニューモデルは、「スカイラインじゃない!」のか? スカイラインは終わったのか? 『webCG』エグゼクティブディレクターが、過去にさかのぼって、今回の抜本的モデルチェンジの意味を考える。■When I Grow too Old to Dream
今回の新しいスカイラインに初めて接した少なからぬ人が「これはスカイラインじゃない!」という言葉を発した。
それは理解できる。年齢世代の違いこそあれ、クルマ好きの人たちの多くは、スカイラインのなかに夢を見てきた。ある人にとっては、スカイラインといえば、鈴鹿の第二回日本グランプリで、一時ポルシェ904を従えたスカイラインGT(後のS54B)の姿であり、別の世代の人には、ツーリングカーレースを連覇したGC10(通称ハコスカ)の勇姿である。また最近の若者だけでなく、イギリスのファンにとっては、「R32」のGT-Rこそが、正真正銘のスカイラインなのだ。皆それぞれ勝手にスカイラインに夢を託しているともいえる。
夢を託されるクルマを持っているということは、日産にとってはすばらしい資産であり、誇りでもある。世界のメーカーのなかでも、こういう夢を託されたモデルを、歴史の中で保ち得たところが、結局は「ヘリテッジ=血統」を育てられる。
でも、この資産は、別の見方によれば、メーカーにとっては一種の足かせでもある。自己限定にもなる。客の夢が強ければ強いほど、つくる側は過去に縛られてきて、最後は自ら一種の陥穽に陥ることになる。
同床異夢という言葉があるけれど、お客の見る夢と、つくる側の見る夢は、必ずしも同じではない。
それが「これはスカイラインじゃない!」という言葉に表われたのだ。
■I'll Have You to Remember
「S54B」に見た夢は何だったのだろうか? ひとつは、高度成長期の日本における「海外に追いつけ、追い越せ」の夢だった。だからまばゆく見えた「舶来」のクルマを、一瞬なりとも追い抜いた日本車に、人々は成長を実感した。
「GC10」が与えたのは機械神話の夢である。日本車がどんどん進化するにつれて、機械神話が育っていく。ソフトよりも、何よりもハードがすべての社会で最優先した時代である。その機械技術によって、日本は世界の先進国になっていくのだから。見方によれば、あの時期はヨーロッパの1920年代のような、速度信仰、機械信仰に満ちた未来派の時代に似ていたとも思える。
そして「R32」は、ハイテクとバブルの象徴である。「テクノロジーが人間の原始的本能を励起させる」という建築家 磯崎新の言葉に象徴されるように、日本中が技術と消費の戦争になったバブル時期、あるいはポストモダン期における夢がR32のGT-Rにあった。
それぞれの過去の歴史のなかで、時代の夢を担っていたのがスカイラインだったのだ。
■Your Love is Living in my Heart
そして現代のスカイラインを語ることになるが、ひとつだけはっきりしておきたい。今回登場した「GH-V35」系のスカイラインは、GT-Rではなく、ノーマル版スカイラインの後継だということ。つまりはいつもなんとなくGTBやGT-Rの栄光の裏にあって、実際は市場を支えていた「ノーマルスカイライン」ということだ。たぶん、GT-Rの後継は、来年でもニューZと共用の、より短いホイールベース上の2ドア4WDモデルとして登場すると思われる。だからいまのスカイラインだけを見て、「スカイラインは終わった」と思ってほしくない。
それはともかく、それでも35系スカイラインは、やはり時代の夢を背負っていると、1日試乗し、開発した多くの方と話して確信した。35は新しい時代の夢を見ている。そしてそれを新しい形でユーザーと共感したがっている、ということだ。
ボディが多少大きなスカイラインはスカイラインじゃない、ストレート6じゃないスカイラインはスカイラインじゃない、そういう議論はもうやめよう。ましてや丸形テイルランプじゃないスカイラインはスカイラインじゃないなどという幼稚な論議もやめよう。そうメーカーは訴えている。そして何がスカイラインたらしめている本質なのかを徹底的に追及している。
単純にいえば、やはり時代を背負っているということだ。クルマが大きな変革期を迎えているいま、古典的な意味でのクルマの本質をきちんとみすえ、新しいクルマへの夢を喚起させるために、あえて従来とは違う道をたどった。
でも、時代の夢を見せたいという基本的な思想は変わっていない。
パワーやハンドリングや他人との比較で夢を見る時代は終わった。
いまは世界中のすべての人が、新しい時代に向けて新しい夢を見ようとしなければならない。古い概念を捨てて、新しいものを見ようとしつつも、やはり古いもののなかにある骨太な本質をきちん理解しておかねばならない。
現代のスカイラインは、その問題に堂々と対峙していると思う。
だから、夢見る頃をすぎても、クルマへの愛は、私たちの間で、きちんと生きている。新型スカイラインはそれを証明している。
(文=大川 悠/写真=初沢克利、清水健太(クルマ、インパネ)/2001年7月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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