日産シルビア スペックS bパッケージ(4AT)【試乗記】
また逢う日まで 2002.03.09 試乗記 日産シルビア スペックS bパッケージ(4AT) ……211.7万円 日産シルビアが“デートカー”として、ホンダ・プレリュードと覇を争ったのもいまは昔。ライバルはすでに亡く、シルビアも間もなく鬼籍(?)に入る。流麗でしまったボディをもちながら、「人気復活!」とはならなかったイチゴーこと現行モデルに、『webCG』記者が乗った。不完全燃焼のわけ
新車発表会やプレス向け試乗会が開催されるデビュー時に比べ、モデル末期というのは寂しいものである。売れなくなったクルマは華やかだった誕生当時を思い出しながらメーカーのラインナップに名を連ね、やがてひっそりと生産を中止される。だから、「1965年に初代を発売以来、ご愛顧いただいたシルビアは2002年8月をもって生産を終了する」(プレスリリース)とわざわざ告知された日産シルビアは、幸せなモデルといえるかもしれない。2002年8月に、「2000年度排出ガス規制」の生産猶予期限が切れるのだ。
600万円台という高価格ながら最終限定モデル1000台が即日完売、というスカイラインGT-Rのニュースを聞きながら、自動車雑誌『NAVI』の取材のためにシルビアの広報車を借りた。「NA+4AT」の仕様しかないという。「デート仕様じゃないですか!?」と、NAVIのヤマグチ編集部員が笑う。
“デート仕様”と聞いて思い出すのが、1989年に登場した「イチサン(S13)」こと5代目シルビアである。バブルの浮かれた世相に乗って「デートカー」として一世を風靡したが、シルビアも「クルマのキャラクターを維持できない」という日産の悪しき例にもれなかった。次の「イチヨン」はラグジュアリー路線に走って肥大化。販売成績がふるわないと、マイナーチェンジで顔をツリ目にして、峠のFRスポーツ路線にすり寄った。
現行「イチゴー」モデルが初心(?)にかえってシェイプアップ、流麗なボディと6段MT(ターボ車/オーテックバージョン)をひっさげ、99年にスポーツクーペとして売り出されても、時、利あらず。市場は踊らなかった。GT-Rのように、「惜しげもなく最新技術を投入される」というモデルでなかったのも、最後までS15の人気が不完全燃焼をつづけた理由だろう。
伝統的なクーペの範疇
テスト車は、2リッターNAエンジンと4段ATを組み合わせたスペック-S「b」パッケージ。青いアルカンタラ風のドアトリム&シート地(スウェードトリコット)とステアリングホイールの青いステッチで精一杯飾った仕様である。ペタンと低いシートに座ると、キャビンが上下に薄い。黒とラメ入りシルバーのインストゥルメントパネルが視界を横切る。大きく角度のついたフロントスクリーンから四角いボンネットの左右が見える。「やけに古くさい眺めだなァ」と感じて、思い当たった。天井や着座位置が高いミニバンやいわゆるハイトワゴンの影響が、いまや日本のクルマ全般に及んでいるのだ。
イグニッションキーをひねると、ゴロゴロとした音感のツインカム16バルブが目覚める。モータースポーツでの使用を視野に入れて開発された「SRユニット」。最近の、見た目やサウンド、走行中のフィールまで内燃機関であることを隠そうとするエンジンが多いなかで、いかにもシリンダー内で「混合気バクハツしてます!」といった感じが好ましい。「全域でシャープ&トルクフル」とカタログで謳われるほどには、スムーズでも回りたがるエンジンでもないけれど、若干の抵抗をモノともせずにスロットルペダルを踏みこんでグイグイ走るのは、それはそれで楽しいものだ。
コーナーでは、後輪駆動らしくリアを振り出すが、惜しいかな、トランスミッションがオートマチックで、リミテッドスリップデフも、MTモデルのヘリカル式に対し、こちらは日常ユースに重点が置かれたビスカスカプリング(オプション)なので、リアの挙動はすぐに収まってしまう。太いセンタートンネルとシフト周辺のフロアの盛り上がりが視覚的にFR(後輪駆動)モデルであることを主張するけれど、ATモデルに“豪快な走り”は期待しない方がいい。
結局、シルビアは、ついに「“アリモノ”を集めてスタイリッシュなボディを載せる」という伝統的なクーペの範疇から脱することができなかった。ステアリング系に駆動力が干渉しないFRプラットフォームをもちながら、「スポーティ」から「上質」に昇華することができなかった。流行から逃れることができなくて、向かい風に逆らうこと能わなかった。儚いクルマだった。
反面、それだけ世の中の流れに密着しているわけだから、時代の気分によっては、三度「シルビア」の名が復活することもあり得る、と思う。だから、また逢う日まで、さようなら。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2002年3月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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