アルテガGT(MR/6AT)【試乗記】
育てて楽しむ良馬 2012.04.22 試乗記 アルテガGT(MR/6AT)……1251万9100円
手作りで少量生産される、ドイツのスポーツカー「アルテガGT」に試乗。果たして、その走りは? クルマとしての完成度は?
4年越しの日本上陸
アルテガは2006年、ドイツのヴェストファーレン州デルブリュックという町で生まれる。エンブレムに使われている紋章は、伝統ある町の紋章でもある。その黒い犬は“守り神”を意味し、ローズヒップの実が10個なのは、デルブリュックが10地区からなることを示している。
会社を創設したのは、自動車用の電子システムサプライヤー「パラゴン」の会長クラウス・ディーター・フルーレスで、現在はポルシェやBMWで新型車の開発に携わってきたペーター・ミューラーが社長を務めている。
この「アルテガGT」は、2007年のフランクフルトモーターショーで発表されたもので、2011年3月のジュネーブモーターショーでは動力を電気モーターに換えた「アルテガSE」も追加。2011年6月には、アルテガジャパンを通じて、日本市場で「GT」が発売されることになった。ショールームは、東京の東麻布にある。
クルマは独自のアルミニウム製スペースフレームを持ち、ボディーはポリウレタン素材をカーボンファイバーで補強。新素材やハイテク満載の“新企画スポーツカー”である。
心臓部は、フォルクスワーゲンのDOHC狭角V6を直噴としたもので、3.6リッターの排気量から300psと350Nm(35.7kgm)を発生。同じくフォルクスワーゲン製の6段DSGが組み合わされ、ミドにマウントされる。
公表されている性能値は、最高速度=270km/h、0-100km/h加速タイム=4.8秒となっている。写真など手元の資料からも、つまりは“ドイツ製ロータス”のようなものと想像できる。
肌で感じられる高性能
既存のスポーツカーに極力似ないことを心掛けたというデザインは、BMWの「Z8」やアストン・マーティンの「DB9」「V8ヴァンテージ」を手掛けたヘンリック・フィスカーの手に成るもの。
乾燥重量1132kgの車重に対してエンジンの最大トルクは35.7kgmであるから、走りだしは拍子抜けするくらい軽やかだ。DSGは高回転まで無用に“引っ張る”ことなく、負荷に応じて1000rpmから2000rpmくらいでシフトアップしていくから、静かで経済的なドライブが可能。60km/hでも6速トップギアに送り込むことができ、エンジンはアイドリング+αの回転域でユルユルと回る。極端な言い方をすれば、まるでエコカーのようにさえ感じられる。
これもまた、アルテガGTというクルマのもつ表情である。スポーツカーのように性能を追求したクルマが、結果として効率に優れるのは当然だ。そしてどのギアポジションであれ、スロットルを開けるとたちどころに目の覚めるような加速に移る。
今回は公道における試乗であるから、極限的な高回転域は経験していないが、低いギアでは無負荷でエンジンを回す感覚になる反面、ギアポジションが高くなるほど減速比は小さくなり、かえって加速がいいようにも感じられる。それだけの低速トルクを有しており、身軽な速さを実現しているのだ。
また、直進性の良さも印象的だ。40km/hから60km/h程度の速度域でも感じられる“特別に作りこまれた感触”が、速度を上げてゆくにつれて、ドライバーにとっての頼もしさへとつながる。
緻密であっても、きゃしゃではない
このクルマについて経験から言えるのは、正しいアライメントを持ち、タイヤの接地感が確保されているだけではなく、サスペンション全体の剛性が素晴らしく高いこと、そして作りが精緻であるということだ。
この感触は、誤解を恐れずに言えば、同様にノーズにエンジンを持たないポルシェよりもしっかりとした、直進時の安定感をもたらす。微舵角(だかく)を与えてもすぐに直進に戻ろうとする復元性が得られているのはもちろん、サスペンションのアーム長などもしっかり取られており、左右輪でアライメント変化の少ない素直な動きが感じられる。
今回は経験できなかったが、おそらく、路面のうねったタイトコーナーなどでは、「ポルシェ911」に比べてバンプステアが少ないと思う。路面の凸凹によるステアリングの乱れがほとんど無いのだ。
とはいえ、車検証上の車両重量=1290kgの前後配分は、530kg:760kg。これに対してフロントタイヤは235/35R19と決して細くはないから、面圧の高さで、特別有利なわけでもない。
車速感応式の電気モーターアシストによるパワーステアリングの操舵(そうだ)力は、現代の基準で言って、軽い方である。当日は雨で路面もぬれていたが、適度に路面の感触をフィードバックすることも忘れておらず、軽すぎて無感覚ということもない。アシストのないラック&ピニオン式ステアリングに近い。フルロック2.4回転のギア比も速すぎずちょうど良い。
しかし、タイヤが太いがゆえにステアリングの切れ角は少なめで、4m程度の全長のわりには、回転半径は大きい印象だ。
ボディー剛性、そしてサスペンションも、大いに信頼を寄せられるもので、この種のハンドメイドによる少量生産車にありがちな、きゃしゃな印象は皆無だ。それは、しっかりした操作の感触が得られる以上に、仮に実用車として酷使した場合の寿命の点で、相当長持ちするだろうという安心感につながる。
有名ブランドとは異なる魅力
ハンドメイドであることから、場当たり的に改良や変更が実施されそうな箇所も全く無いわけではないが、エンジンを過度なよりどころとすることのない、バランスのよいクルマである。そうしたポイントを強いて探すなら、ボディーや骨格がそれに当たるのだろうが、それらも必要とあらば、いつでも改良の対象となるだろう。
ただアルテガGTには、弱点というべきか、訴求力が希薄に感じられる部分もある。かつてのフェラーリ、ロータス、ポルシェのような個性派に比べて、「一人の作り手の好み」が貫かれているというような、ドライバーに対して強烈に訴えかけるような所がない。そういった意味では“知恵の集合体”的キャラクターであり、必ずしもこのクルマを選ばなければならない、という強い意識をもちにくい。
反面、自分の好みを反映できる余地は大きいわけで、ストックのままでは“無印”でも、自分で育てていくという楽しみはある。それは、有名ブランド品を買って、周囲の目を気にしながら見えに乗せられて楽しむのではなく、多くの人が知らない無名の良い品を最初に発見する喜びにも似ている。
既成のブランド車と違うことは一目瞭然。けれども、見ても走らせても迫力はあるし、1200万円の買い物ともなれば、それなりに所有する満足感も大きいはずだ。
今回は、大して長い距離を乗れなかったが、2日間手元にある間、コンビニの買い物などにも使ってみると、すぐ飽きて嫌になるようなクルマではないことがわかった。乗るほどに新たな発見もあって、長く付き合ってもいいなぁと思えてくるクルマである。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
NEW
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
NEW
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。 -
NEW
新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車
2025.10.8画像・写真いよいよ発表された新型「日産リーフ」。そのラインナップより、スタンダードな「B7 X」グレードや、上質でスポーティーな純正カスタマイズモデル「AUTECH」、そして純正アクセサリーを装着した「B7 G」を写真で紹介する。 -
NEW
新型日産リーフB7 G
2025.10.8画像・写真量産BEVのパイオニアこと「日産リーフ」がいよいよフルモデルチェンジ。航続距離702km、150kWの充電出力に対応……と、当代屈指の性能を持つ新型がデビューした。中身も外見もまったく異なる3代目の詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
第87回:激論! IAAモビリティー(後編) ―もうアイデアは尽き果てた? カーデザイン界を覆う閉塞感の正体―
2025.10.8カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。クルマの未来を指し示す祭典のはずなのに、どのクルマも「……なんか見たことある」と感じてしまうのはなぜか? 各車のデザインに漠然と覚えた閉塞(へいそく)感の正体を、有識者とともに考えた。 -
NEW
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる
2025.10.8デイリーコラム「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。