BMW i8 プロトタイプ(4WD/6AT)
唯一無二のスポーツカー 2013.08.26 試乗記 誕生の時が迫る、プラグインハイブリッド・スポーツカー「i8」。未来を担う新ブランド「i」のフラッグシップは、どんなクルマなのか? どんな走りを見せるのか? プロトタイプ試乗会からのリポート。乗る前から個性的
南仏はプロヴァンス地方。マルセイユ空港からほど近いミラマという街の外れに、BMWグループの広大なプルービンググラウンドがある。そこで、われわれ日本からの取材陣を待ち受けていたのは、合計4台の生産型「i8」(プロトタイプ)だった。
いずれもまるで唐草模様のように見えるカムフラージュフィルムでその全身を覆われていたけれども、コンセプトカーで知った、あの特徴的なフォルムだけは、隠し遂(おお)せない。近寄って見た全体の印象は、「いかにもBMWのクーペらしいフォルム」である。「6シリーズ」をぐっとスリムにした感じだ。コンセプトカーの時よりも、居住性を考えたのだろう、背が高く、全体的に大きく見える。実際に車幅はかなり広がっていて、参考資料のスリーサイズを確認してみれば、なるほど、「メルセデス・ベンツSLS AMG」並みの大きさだ。ミドシップスポーツカー同士で比較してみれば、「フェラーリ458イタリア」を少し延ばして高くした、というサイズ感である。
低く抑えられたノーズの先端には、平べったくつぶされたキドニーグリルが収まっている。その下方は指一本分ほど開けられていた。送風口になっているようだ。さらにその下、バンパースポイラーのグリルもふさがれている。こちらは自動調節式のフラップで、必要に応じて開閉され、前輪用のブレーキを冷やす。
ドアは、ちょうど昆虫の羽のように開くスイングアップタイプである。“跳ね上がるドア”が生産型でも守られて、スーパーカーファンとしてはひとまず、ホッ。外側のパネルはアルミニウム製で内側がCFRP製(炭素繊維強化プラスチック)となっており、とても軽い。ダンパーの力を頼りにする既存のスーパーカーのそれよりも、数段、軽い開閉フィールである。
やり過ぎなくらいでちょうどいい
リアセクションの造形は、生産型i8のハイライトのひとつ。コンセプトカーの特徴がそのまま生かされている。9割方、つまり、常識的な車高と減らされたガラスエリア以外は、コンセプトカーそのままのカタチ、と言ってよさそう。
これはチョットやり過ぎじゃないの? という声も聞こえてきそうだ。けれども、“i”はBMWの既存ラインナップに連なるシリーズではない。これくらいの挑戦はむしろ当然だろう。
小さなダックテールの前にはガラス製のハッチゲートがあり、開けると154リッターの荷室が用意されている。ちょっと狭いように思えるが、機内持ち込みサイズのトランクケースくらいなら問題なさそう。
ちなみに、キャビンとエンジンルームを遮るリアの小さなガラス窓は、「ゴリラガラス」といって、スマホ用のケミカルガラスと同じもの。非常に強く、軽い素材である。今後、ノーマルBMWのラインナップにも順次採用されていくという。
撮影用車両のインテリアには、クロスの覆いが掛けられており、みなさんへのお披露目はフランクフルトショー以降ということになりそう。けれども、実際目にした車両は当然、オールヌードだったから、見た目の印象をこっそり教えておくと……。
拍子抜けしてしまうほど、“まんまイマドキのビーエム”だった。コックピットまわりのデザインは、6シリーズや「Z4」あたりと同じ方向性のテイスト。
個人的には、インテリアにも、エクステリアに見合う、“挑戦”や“未来”や“色気”があってもよかったんじゃないか、と思う。iブランドなのだから、まったく違うテイストを、とまでは言わないにしても、せめてこのi8を皮切りに、BMW次世代のコックピットデザインを見せてやるゾ! という意気込みくらい欲しかった気がするのだが……。
ちなみに、リアシートは「便利な荷物スペース」レベル。座れないこともない、けれども、頭上はかなり狭い。身長170cmの筆者でも、首を曲げていなければならない。子供も嫌がる広さ、である。
1粒で2種類のおいしさ
跳ね上げドア系のスーパーカーに乗るときのように、少し高めのサイドシルの上でオシリを滑らせて、コックピットに収まった。軽く背を伸ばして、ドアのインナーノブを握る。とても軽いため、閉めるのもラクだ。軽い割には閉めた“感じ”も悪くなく、ピラーレスドアクーペのように窓が自動で上がって、車内がきっちり密閉された。
スターターボタンを押す。爽やかなチャイムが鳴った。
i8もまた「i3」と同様、上下(ヒト用の空間=ライフモジュールと、メカ用の場所=ドライブモジュール)に分割された車体構造を持つ。ライフモジュールは、RTM(レジントランスファーモールディング)成形のCFRP製である。
フロントアクスルには、2段変速のモーターライズドパワートレイン(131hp、25.5kgm)が置かれている。システム的にはi3と同じ成り立ちだと思っていい。
一方、i8のリアアクスル前には新開発の直噴3気筒1.5リッターツインパワーターボ(231hp、32.6kgm)+6段AT+小モーターという構成のパワートレインが積まれた。ターボチャージャーはコンチネンタル製で、最大2barの過給圧をもたらす。エンジンとつながれた小モーターは、もちろんスターターとしても機能しているが、加えて、前輪のモーター駆動に“追いつく”ためのブースター機能も果たす。
また、コックピットセンターの下には、まるでバックボーンフレームのようにボッシュ&サムスンのリチウムイオンバッテリーが収まっている。i3のそれに比べても容量はかなり少なく、パワーの出し入れを重視したキャラクターとした。
要するにi8は、前後2種類のパワートレインを効率的かつ効果的に協調運用することで、「EVのFFシティーコミューター」と「0-100km/h加速4.5秒以内を誇る、ミドシップ4WDの韋駄天(いだてん)スポーツカー」とを両立するという、都会派のスポーツカー乗りには夢のようなコンセプトを持つクルマ、というわけなのだ。
システム総出力は、2つのパワーソースを足し合わせた数字、すなわち362hp、58.1kgm)だ。
スーパースポーツとは違うキャラ
まずはEVモードで走りだしてみた。ペダルを半分程度まで踏み込んだときのトルクの出方は力強く、速い! 強く踏み込み過ぎるとエンジンがかかってしまうけれども、右足をうまくコントロールすれば、120km/hまで、EV走行が可能だ。フル充電からの航続レンジはおよそ35kmというから、ガレージから市街地を抜けるまでは静かにドライブできる。
EV領域を離れると、ハイブリッドモード(コンフォート)に変わる。そこからは、エンジンを効果的に使って、駆動と充電に充てているというわけだ。
真骨頂は、もちろん、スポーツモードだ。前後の両パワーソースを最大限に使っての加速は、ユニークかつ申し分のないもの。ドン、とモーターで力を得て、すぐさまドーンとターボでさらに加速。分厚いモータートルクと強力なターボチャージャーの組み合わせは、2段ロケットタイプの加速で、他の何物とも似ていない。
加えて、エンジン自慢のスポーツカーと比べると、上等とは言えないけれど、想像以上に力強いサウンドがキャビンを満たす。スピーカーからもエンジン音が聞こえてきた!
車体の軽さと低重心が効いているのだろう。ややフロントサスペンションが突っ張っているように感じられるものの、50:50の重量配分の恩恵か、ハンドリングのレベルは上々で、確かにBMWであり、スポーツカーであった。
試作車完成後、まだ半年というレベル。フロントモーターとリアのエンジン+モーターとの協調制御や、フロントシャシーのセッティング、サウンドの演出などなど、まだまだ煮詰めの足りないところも散見された。けれども、エンジニアたちはもちろん、全ての課題を把握しており、市販までに残された半年で、磨きをかけてくれるハズ……。
新時代の到来を告げる唯一無二のスポーツカーがいよいよ登場する。スーパースポーツでは決してない。価格は10万ユーロ以上、20万ユーロ以下に収まる、と開発責任者は断言した。要するに“ライバルは「ポルシェ911」”なのだ。
(文=西川淳/写真=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW i8 プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4689×1942×1293mm
ホイールベース:2800mm
車重:1490kg以下
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブターボ
モーター:--
トランスミッション:6AT
エンジン最高出力:231hp(170kW)/--rpm
エンジン最大トルク:32.6kgm(320Nm)/--rpm
モーター最高出力:131ps(96kW)
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)
タイヤ:(前)195/50R20/(後)215/45R20
燃費:40.0km/リッター以上(EUサイクル)
価格:--
オプション装備:--
(※テスト車はプロトタイプ)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:テストコース
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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