電気自動車のデザインの自由度は本当に高いのか?

2026.01.06 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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電気自動車(EV)はエンジンを搭載しないがゆえに、内燃機関車よりもデザインの自由度が高いといいます。しかし、現実の製品を見るに、EVのデザインはさほど変わっているとも思えません。この点について多田さんはどう考えますか。

パッケージングの自由度が高いEVはたしかに、内燃機関車よりも自由にデザインできるといえます。なのに、あまり目新しさがないように思えるのはなぜか? その理由は、「急に形を変えるとユーザーが困る」という点にあります。

ごく初期に登場したEVは、既存の内燃機関車と共通の車体で開発したいという思いがあったため、“どっちつかず”なデザインになってしまうことが多かった。しかし、今はもうEVの開発も2周目、3周目に入っています。プラットフォームそのものがEV専用になっているものも多く、内燃機関車との関連性を考える必要はありません。

だったら大胆なデザインにすればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、本当に、いきなり“未来カー”みたいな形にしたら売れるのかというと、これはまた話が別で、難しい。

クルマって、意外とコンサバ(conservative:保守的)な商品なんです。スマホみたいに「ものすごい機能が備わったら、大評判になって引っ張りだこ」というのとは違います。クルマはかなりの高額商品であり、日々使うもので、人からも見られる。家の中で独り楽しむモノとは違います。いろんな要素が絡んでいて、他人の目も無意識に意識して買う製品。そうしたクルマの側面が、大きく変わったデザインの流行を阻みます。

もうひとつ、クルマのエクステリアというのは、ドライバー側からの要求でも決まってくるのです。運転しやすいデザインというのは、大前提として、車体の四隅が自然に認識できるもの。そのため、前方のボンネットの見え方についてさえ一定の基準があるんです。

クルマというのは、そういうことを踏まえてデザインされているので、もし“これまで見たこともないような形”になったなら、うまく運転できるようになるにもけっこう時間がかかってしまう。

つまり、あまりにも突然カタチが変わってしまうと、お客さまから「運転しにくい」というクレームが殺到することになりますし、そういうことも考慮しながら少しずつ変えているというのが、今の状況かと思います。

充電口にしたって、従来の(内燃機関車の)給油口を思えば、それがクルマの鼻先にあるなんて、昔のユーザーは考えられないわけです。でも、EVと暮らしてみるとそのほうが便利だし、EVだからそれができる。

決して、デザイナーに新しい発想がないわけではないのです。クルマの形はエンジニアリングとも表裏一体。エンジニアも、EVになって前提条件が大きく変わったことはわかっています。タイヤが4つである必要はないのだし、デザインの自由度を上げて、ユーザーのよろこぶパッケージングを考えて……ということは、皆が常に考えていると思います。ジャパンモビリティショー2025で披露されたレクサスの6輪ミニバン(関連記事)なんて、そのいい例といえるでしょう。

いいエンジニアって、デザイン画を描くのもすごく上手ですよ。ヘタなデザイナーよりもうまくクルマのイメージを描く人はいっぱいいます。そうして、次のパッケージングやデザインを常に考えている。今のEVにしても、私は、なんだかんだで初期に比べるとずいぶん変わったと思っていますよ。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。