プジョー208GTi(FF/6MT)
温故知新のホットハッチ 2013.09.03 試乗記 「205GTi」のデビューから30年。21世紀のホットハッチはどのような進化を遂げたのか? その走りを確かめた。動き始めからトルクもりもり
いいクルマは年々増えているが、楽しいクルマは年々減っている。
でも、まったくなくなったわけではなかった。また、高価なゾーンにしかないわけでもなかった。「プジョー208GTi」があった。車両本体価格299万円。ギリギリ300万円以内だ。9975円のETC車載器をつけてもまだギリギリ300万円以内。カーナビ(17万8500円)をつけるとちょっと超えるが、それでも、この価格帯で最も楽しいクルマの一台だと断言したい。例のスポーツカーがあるじゃないかって? こっちのほうがクルマとしては相当に上だと思う。
端的に言えば、208GTiはホットハッチだ。全長3960mm、全幅1740mm、全高1470mmとコンパクトな車体に、プジョーのスペシャリティークーペ「RCZ」にも積まれるハイチューンな1.6リッター直4ターボを横置きし、前輪を駆動する。車重1200kgは十分に軽い。トランスミッションは古典的な3ペダルの6MTだけが設定される。
まずはエンジンについて。おなじみの、プジョーがBMWと共同開発した1.6リッター直噴直4ターボ。さまざまなチューニングによって多くのモデルに搭載されるこのエンジンは、官能的というより実直に仕事をするタイプだが、208GTi向けは最高出力200ps/6000rpm、最大トルク28.0kgm/1700rpmと、なかなか色っぽいスペックとなっている。
ハイチューンといっても、現代のクルマは高回転を封じられているので、過給でパワーを稼ぐタイプだ。ホットハッチのそれとは思えないほどに軽いクラッチペダルを踏んで、1速に入れ、ゆっくりクラッチをつなぐ。クルマが進み始めると同時にアクセルペダルをじわりと踏み込むと、すでにトルクもりもりという感じ。1200kgの車重に対しては十分以上で、ギアアップを繰り返すと車体はかっ飛んでいく。実際も相当に速いと思うが、控えめながらも“普通の”208とは明らかに異なるエンジン音、排気音に調律されていて、“音も”速い。
どんな操作も受容するシャシー
コーナリングはこのクルマが最も得意とする芸だ。楕円(だえん)で小さく、クイックなステアリングホイールを回せば、どこまでもグイグイ曲がっていく。僕がベストポジションに合わせると、わりと腕を投げ出す姿勢となるので、ステアリング操作は必要に応じて手を持ち替えるほうがうまくいくのだが、そうなるとDシェイプのステアリングホイールはちょっと気になる。
トラクション能力が高いほか、横方向のグリップもしっかりあって、コーナー途中での切り足しにも応じてくれる。トラクションを抜いても嫌なタックインはない。どんな操作でも受け入れてくれる。ホットハッチが全盛だったエイティーズのFF車には望むべくもなかったタイヤおよびシャシー性能だ。
表皮がレザーとファブリックのコンビとなるシートは、深いバケット形状のため、どんなに揺らされても体がズレたり滑ったりということはない。シートは大事で、エンジンが速くても横サポートが悪いと飛ばす気になれない。
あ、そうそう、右ハンドルの小さなフランス車のMTはペダルレイアウトが窮屈というのが相場だったが、このクルマはそれぞれのペダルを小さくすることで、フットレストを含め、きちんとレイアウトされている。
昔ながらの楽しさがある
パワーアップに対応すべく足まわりは引き締められている。「MINI」の「ジョンクーパーワークス」や「ルノー・メガーヌ ルノースポール」ほどではないが、悪路ではそれなりに胃腸を揺する。けれど、ドライバーは同時にグッドハンドリングも体感するから、その乗り心地を自然に受け入れられる。いわゆるリーズナブルというやつだ。
デュアルクラッチ式かどうかは別にして、スポーティーな走りにも対応するATも設定されていたほうが数は売れるはずだが、MTをうまくコントロールできないと楽しめないという間口の狭さは、オーナーの自尊心をくすぐる。そもそも、このクルマはまあまあ伝統の名前「GTi」を冠するクルマだ。誰にでもは薦められない。単にパワーを上げただけだったり、エアロパーツがついているだけなのに「GT」とか「RS」といった大事な名前を安売りするメーカーもあるが、そういうのとこのクルマは素性が異なる。
一方で、MTさえ操作できれば、このクルマはコンパクトカーとして見ても、3ドアながらそれなりの前後居住性とそれなりの荷室スペースを確保しており、燃費も13.8km/リッター(JC08モード)と及第点に達するなど、十分実用に足る。苦労して純正ディスプレイに組み込んだカーナビは、多少操作しにくい点もあるが、メーカー/インポーター自らがダッシュボードに別のモニターを設置してお茶を濁すよりもずっといい。
プジョー208GTiには、無音でスルスルと発進するとか、室内のカラクリがすごいとか、自動的に止まるとか、スマホとの連携が見事といった新しい魅力はない。操作に対してビビッドに反応し、速く、ハンドリングがよいという、ものすごく昔ながらの楽しませ方で僕らを喜ばせる。MINIジョンクーパーワークスとか「アバルト」と同様「ホットハッチ保存会」のコアメンバーだ。今後は軽々しく「楽しいクルマがない」とか言わないように気をつけたい。
(文=塩見 智/写真=田村弥)
テスト車のデータ
プジョー208GTi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3960×1740×1470mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:200ps(147kW)/6000rpm
最大トルク:28.0kgm(275Nm)/1700rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ミシュラン・パイロット エグザルトPE2)
燃費:13.8km/リッター(JC08モード)
価格:299万円/テスト車=299万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1743km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:136.8km
使用燃料:17.9リッター
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)、8.7km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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