フォード・マスタングV8 GT パフォーマンス パッケージ(FR/6MT)【試乗記】
オーバルもこなす駿馬 2011.12.22 試乗記 フォード・マスタングV8 GT パフォーマンス パッケージ(FR/6MT)……530万円
5リッターのV8ユニットを「スティック」(MT)で手なづける特別な「マスタング」が限定で登場。アメリカンレーシングの大舞台、ツインリンクもてぎのオーバルコースで418psを解き放つ。
わずか30台の「やる気」仕様
2011年10月、ラスベガスでレース中の多重クラッシュに巻き込まれ、その場で命を落としたIRL(インディ・レーシング・リーグ)のスタードライバー、ダン・ウェルドンは、インディ通算出走回数97回で15勝を挙げた。このうち自身の初優勝を含む2勝が日本の「ツインリンクもてぎ」でのもの。
先日、フォード・ジャパンがもてぎのスーパースピードウェイ(オーバルコース)で「マスタング」スペシャルモデルの試乗会を開いてくれたおかげで、図らずもダンが得意としたコースで追悼走行をすることができた。このページを借りて、あらためて合掌。
さて、今回マスタングに設定されたスペシャルモデルは「V8 GT パフォーマンス パッケージ」。マスタング全体の一部改良を機に、6段マニュアルトランスミッションとブレンボ製ブレーキを採用した日本限定30台の特別仕様車で、2012年1月のデリバリーを前に現在予約を受付中だ。
5リッターV8DOHCエンジンを積む「V8 GTクーペ」をベースに、MT化をはじめ、サイズアップしたピレリP ZERO(255/40ZR19)と専用デザインのアルミホイール、専用の4ピストンディスクブレーキ(フロントのみ)を採用することで、ラインナップ中最もスポーティーな仕様となった。
AT仕様より明らかにシャープ
インディカーが平均時速205マイル(約330km/h)前後でほぼ全区間を全開走行する、もてぎの1周1.5マイル(2.4km)オーバル。気分はすっかり2004年にここで初優勝したダンだが、実際の腕は当然ながら僕自身のままなので、慎重にマスタングで乗り入れた。広いコースのどこを走ればよいのかわからず、最初の数周は戸惑った。が、ストレートで外へ膨らみ、ターンでインに張りつく自分なりのレコードライン(!)を見つけたところでアクセルペダルを床まで踏む。
数周走っていると、5リッターV8のパワフルさよりも、MTならではのピックアップのよさが目立つようになる。われわれはついマスタングをおおらかで、ゆるゆると走るべきプロムナードカーと思い込みがちだが、こうしてサーキットで走らせてみると、スポーツカーとしての素性が垣間見える。またサーキットで体にGを浴びせかけるとシートのホールド性が丸裸になるのだが、この点でもマスタングのバケットシートはちゃんと走って設計しているなという印象。
2本のストレートで210〜220km/hに達し(すぐにターンが迫ってくるためじっくりメーターに目をやる余裕がない)、Rの大きな1〜2ターンを180km/h、小さな3〜4ターンを160km/h前後で延々と回る。ターン3手前で4速に落としたり、5速のまま走ったりしてみるうちに、明らかにノーマルのマスタングよりパワフルに思えてくる。けれど最高出力418ps/6500rpm、最大トルク53.9kgm/4250rpmというスペックはベースモデルのままのはず。クルマを降りてから確認すると、ファイナルが3.15から3.73へと低められていた。
凹凸やうねりのないサーキットでは、固められたスプリングや強化されたストラットの乗り心地がいかほどのものかわからなかったが、ピレリのハイグリップなサマータイヤ(ベースモデルはオールシーズンタイヤを採用)も含めた足まわりは、高速からのターンインで安定感があり、心強い。
“ほどほど感”が心地よいコンバーチブル
ベースのマスタングは、昔から好きな音楽と野太い排気音を楽しみつつ、右手でステアリングホイールを握り、左肘をドアに置いて、ドロドロ言わせながらゆったり走るのが最高だ。その点、V8 GT パフォーマンス パッケージは、本国で設定される「Boss302」や「GT500」といったエンジンにまで手を入れたホットモデルほどとは言わないが、万人向けのベースモデルのオブラートをはがし、“走れるマスタング”に戻したようなモデルだ。ちょっと手を加えて素性のよさを浮き彫りにした、ベースモデルのオーナーまでをも喜ばせるスペシャルモデルなんじゃないだろうか。
この日はサーキット外周路でカタログモデルの「V8 GT コンバーチブル プレミアム」にも試乗した。フォードはコンバーチブル化に際し、流行のリトラクタブルハードトップなどに見向きもせず、初代からの伝統を守ってソフトトップを採用した。現行型は空前のヒットとなった初代のイメージを強く引き継ぐレトロスペクティブなデザインのため、コンバーチブルも初代同様のソフトトップで正解だろう。
比較的立ったAピラーのおかげでトップを降ろすと「これぞオープン!」と言いたくなるほどの開放感を味わえる。ただしボディーの立て付けはそれなりで、段差を越えればギシッと音がするし、荒れた路面ではスカットルシェイクも感じる。もちろん、フォードに巌(いわお)のような剛性のオープンカーが作れないわけではなく、あえて必要十分にとどめているのだろう。クルマ全体を通じて感じるその“ほどほど感”が、このクルマの肩肘張らない印象を強めている。その意味ではコンバーチブルにこそ、比較的安価なV6モデルを望みたいところだが、現状ではV8しか用意されない。
とにかくマスタングの、とりわけコンバーチブルの開発陣はドイツ車でもなくイタリア車でもなく、アメリカ車を望む人たちのために力を入れるべき部分、抜くべき部分をよく理解している。あとはアイドリングストップを備える意外性でも見せてくれれば、さらに魅力は増すだろう。
(文=塩見智/写真=高橋信宏)
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塩見 智
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