フォード・マスタング エコブースト プレミアム コンバーチブル(FR/6AT)/マスタングGTプレミアム ファストバック(FR/6MT)
悲運のギャロッピングホース 2016.02.02 試乗記 フォードの日本市場撤退によって消滅することになった、右ハンドル仕様の「マスタング」の導入計画。その出来栄えはどのようなものだったのか。オーストラリアで2.3リッター直4ターボエンジンを搭載する「コンバーチブル」と5リッターV8の「ファストバック」に試乗した。つゆと消えた日本導入計画
2016年半ばに日本に導入される予定だった右ハンドルのマスタングに乗りに、オーストラリアに向かった。ところが、まさに青天の霹靂(へきれき)で、フォードが日本市場から撤退すると発表したのだ。おかげで右ハンドル仕様の日本導入は中止。ようやく本格的に右ハンドルを手かけようとする矢先というタイミングが、何ともやるせない気持ちにさせてくれる。
期待していたユーザーには実に残念な話だが、それで右ハンドル仕様がなくなるわけではなく、場合によってはオーストラリアやニュージーランドから並行輸入で入ってくる可能性だってゼロではない。ということで、取りあえず試乗を通して確かめたその出来栄えがどうであったかについてお話ししようと思う。
右ハンドル仕様のマスタングは、昨年すでに左ハンドルで導入されていた2.3リッター「エコブースト」4気筒ユニットを搭載したファストバックに加え、そのコンバーチブル仕様、そしてV8ファストバックの計3タイプが用意されることになっていた。
V8エンジンに関しては、基本的に先代が使っていた“コヨーテV8”を改良したもの。最新の直噴でもなければ、ダウンサイジングターボでもなく、いかにもアメリカンな5リッターのキャパシティーを誇る自然吸気だ。とはいえDOHCだし、可変バルブタイミング機構を持つなど、決して旧態化したエンジンではない。最高出力および最大トルクはSAE表示で435hp(442ps)/6500rpm、400lb-ft(55.3kgm)/4250rpmとなる。改良された部分はバルブトレインとシリンダーヘッド。これによってかなり大幅なパワーアップを果たしているという。
外観に見る右ハンドル化の苦労
一方の2.3リッターエコブーストに関しては、すでに多くの情報が出回っているから基本的な部分は端折(はしょ)りたいが、一つだけ新たに仕入れた情報がある。それはこのエンジンだけ「スイッチャブル・エンジンマウント」というシステムを使っていることだ。エンジンの回転をセンサーとして、バキュームによってマウントの硬さを変えるもので、V8やV6では使われていない。直4エンジンが不可避的に持つ2次振動の伝達を和らげるためのものなのだ。
今回のテストドライブのためにアメリカからやってきて、われわれに同行したマスタングのチーフエンジニア、カール・ウィドマン氏によれば、2.3リッターエコブーストはアイドリングから少しだけエンジン回転が上がったところに振動のピークが来るようで、それを消すための方策だと語ってくれた。まあ、こいつが付いているからか否かは不明だが、少なくとも直4ユニットのスムーズさはなかなかのものである。
さて、右ハンドル化されたモデルについて話をしよう。生産は左ハンドル同様、ミシガン州フラットロックで行われる。かつては「マツダ・アテンザ」(マツダ6)が生産されていた工場である。
とにかく右ハンドルのマスタングを作るのにはかなりの苦労があったようで、使用パーツもずいぶん異なっている。外観についても、北米仕様ではV8のボンネットにはルーバーが付いており、2016年モデルではそこにターンシグナルが埋め込まれているのだが、右ハンドル仕様にはそれがなく、ボンネットにはエコブースト仕様と同じものが使われる。なぜルーバー付きでないかについて尋ねたところ、カールは「何だったか忘れたが、何かが干渉してルーバーが付けられなかった」と答えてくれた。
右ハンドル用に操作系のレイアウトを変更
エンジンごとの差異については、フロントグリルは縦方向のステーが両脇に付いたハニカムメッシュがV8用、一見ハニカム風だが、実は波形の模様でステーもないのがエコブースト用である。リアに回ると、中央にポニーエンブレムが付くのがエコブースト、「GT」と書かれるのがV8で、V8仕様はボディーサイドに「5.0」のエンブレムが付くが、エコブーストにはあえてエンジンキャパシティーのエンブレムが付かない。このあたり、右ハンドル仕様はそれがオーストラリア向けだろうがイギリス向けだろうが、外観については基本的にすべて一緒だという。
インテリアでは、ダッシュボードのスイッチ類がすべて左右逆になった。すなわちドライバーに近い側にエンジンのスターターボタンが位置し、走行モード切り替え用のトグルスイッチが一番左側に位置する。さすがにサイドブレーキは位置を変えておらず、センターコンソールをまたいだ反対側だから少々不利な位置になる。果たしてオーストラリアのクルマがすべてそうなのか聞くのを忘れてしまったが、ターンシグナルのレバーはステアリングコラムの右側、すなわち日本車などと同じ位置に付く。フォードはまだこの点が混在していて、「フォーカス」はマスタング同様コラムの右にターンシグナルレバーが付くが、「フィエスタ」では逆の左に付くといった具合。これは多分に生産拠点によるものらしいが、統一してほしいものだ。
今回の試乗は、オーストラリアの南東、ニューサウスウェールズ州ニューカッスル近郊のハンターバレーというところから、クルヌラにあるプライベートサーキットまでの区間と、そこからシドニーまでの2行程に分かれており、前半はエコブーストのコンバーチブル、後半はV8ファストバックをドライブした。そしてクルヌラの「ザ・ファーム」というプライベートサーキットでは、マニュアルミッション車を存分に堪能できた。このサーキット、個人がひとりで作り上げたもので、コース幅が狭くエスケープゾーンもないからまともに攻めるにはリスクがある。とはいえ全長は5.1kmという立派なもので、ストレートもV8マスタングを全開にして4速まで入れられる、かなりのスピードを出せるものだった。
乗りだしは不快な印象だったものの
オーストラリアは特にスピード超過にうるさく、あちこちにスピードカメラや移動カメラが存在すると聞いていた。事実、ニューカッスル空港に降りてすぐに移動カメラカーを発見するほどで、このあたりは日本を出る時にしっかり注意されていた通りだった。一方でニューサウスウェールズの一般道は法定速度が110km/hなうえ、クルヌラまでのワインディングロードは実に気持ちがよい。フォードのペースカーにしても、バンにも関わらず全くスピードを落とすことなくコーナーを走り抜けていくものだから、ワインディングロードでもかなりのハイスピードを堪能することができた。
ただし、路面のアンジュレーションはかなりあるし、路肩がすとんと落ちているところもあるので注意が必要。乗りだしではやはりオプションの19インチタイヤを履いていたせいか、バネ下の重さを感じ、まあこんな程度の乗り心地だろう、という思いを抱いた。しかし、ものの10kmも走ると、その乗り心地もステアリングに入力されるちょっと不快な微振動も、まるでアクセプトできるようになってしまった。思いのほか早くに体がクルマのリズムになじみ、後は最高のロケーションと軽快な走りを楽しむことができたのだ。ちなみに日本に導入されるモデルには、この19インチが標準でついてくる予定だった。サイズは255/40R19。V8ファストバックも同じ19インチだが、リアは275サイズが付く。
不用意なアクセルワークは禁物
初めてグローバルカーとして作られたマスタングは、正直、懐の深いクルマである。前述の通り、乗りだしでは「まあこんなもんか」という印象だったが、しばらく走ると今度は軽快さを堪能できるようになった。決してガチガチに高い剛性を持つボディーストラクチャーとはいえないコンバーチブルが、路面のアンジュレーションを右へ左へと軽快に受け流し、極めてスムーズで楽しいドライビングができる。130km/hでも風の巻き込みはほぼ皆無。かぶった帽子が飛びそうになることも、後ろから風に頭をひっぱたかれることもない。フル4シーターだから結構広い空間があいているのだが、ウインドシャッターの類いを一切使わずにこれだからたいしたものである。
一方ザ・ファームではV8ファストバックでタイヤがスキール音をあげるレベルまで攻め込んでみたが、全く不安感なし。これなら十分にサーキット走行も楽しめ、「ノーマル」「コンフォート」「スポーツプラス」「トラック」という4つのモード切り替えが伊達(だて)ではないことを証明してみせた。
実際に、このモード切り替えをESPを生かした状態のスポーツプラスに設定してみた。さすがにきついコーナーが連続する幅の狭いコースだけに、スロットルワークには注意が必要であったことは付け加えておこう。V8でスポーツプラスを選ぶとエンジンレスポンスがかなり鋭くなり、コーナーの立ち上がりでちょっとでも早めにスロットルを開けすぎると、クルマがすぐに横を向こうとする。だから、例えば箱根のワインディングのような場所でも不用意なアクセルワークは禁物だ。日本の速度域だとノーマルもしくはコンフォートのスロットルレスポンスで十分。それを思うと、ステアリングのレスポンスがスロットルの制御に連動しておらず、独自にノーマル、コンフォート、スポーツからその重さをチョイスできるのはありがたいといえるだろう。
返す返すも残念でならない
右ハンドルのマスタングは、左ハンドルのそれとたがわぬ魅力を持ち合わせたいいクルマだった。別の機会に、同じく日本導入秒読み段階にあった「エクスプローラー タイタニアム」にも試乗したのだが、これも人気SUVのハイエンドモデルにふさわしい、実にいいクルマだったのだ。
これらを導入する矢先というタイミングで、フォードが日本からの撤退を決めたことは誠に残念でならない。しかし数の理屈で考えれば、それも仕方のないことなのかもしれない。
フォードは右ハンドルのマスタングについて、イギリスとオーストラリアにそれぞれ4000台を割り振っており、そしてプレオーダーの段階でその数を完売している。これに対し、日本向けはわずかに500台と、ニュージーランド向けの600台より少ない数字だったという。おそらくは、輸入車市場の規模やスポーツカーに対して冷ややかなユーザー特性などを鑑みて算出した、根拠のある数字なのだろうが、肝いりで開発した世界戦略車ですらこの程度の数しか勘定に入れられないのでは、フォードも引かざるを得なかったのだろう。
このような話に触れねばならないのは非常に心苦しいのだが、そうした事情に関わらず、右ハンドルのマスタングはファンの期待にたがわぬクルマであったという結論をもって、この試乗記を締めくくりたい。
(文=中村孝仁/写真=中村孝仁、フォード)
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テスト車のデータ
フォード・マスタング エコブースト プレミアム コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4790×1920×1395mm
ホイールベース:2720mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:2.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:314ps(231kW)/5500rpm
最大トルク:44.3kgm(434Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR19 96Y/(後)255/40ZR19 96Y(ピレリPゼロ)
燃費:25MPG(約10.6km/リッター、EPA複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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フォード・マスタングGTプレミアム ファストバック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4790×1920×1380mm
ホイールベース:2720mm
車重:1740kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:442ps(325kW)/6500rpm
最大トルク:55.3kgm(542Nm)/4250rpm
タイヤ:(前)255/40ZR19 96Y/(後)275/40ZR19 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:19MPG(約8.1km/リッター、EPA複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

中村 孝仁
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