キャデラックATSクーペ(FR/6AT)
正しいクーペ像 2015.03.23 試乗記 キャデラックのエントリーモデル「ATS」にクーペが加わった。ライバルとなる「BMW 4シリーズ」や「アウディA5」とはどう戦うのか、その実力を確かめた。ドイツ御三家と真っ向勝負
キャデラックの日本仕様は、昨年12月に発表された2015年モデルで大きく変わった点がいくつもある。主力となる2リッター4気筒ターボの性能アップをはじめとして、「CTS」に4WD登場、スマホを核とした車内情報システムの進化・強化、全車速レーダークルーズコントロールや自動ブレーキの全面展開などのなかに、末っ子モデルのATSにクーペの追加も含まれる。
というわけで、今回の主題はATSクーペなのだが、その前に、キャデラックの最新セダン/クーペのラインナップをおさらいしておく。
現在のキャデラックは、いわゆるドイツ高級車ブランド御三家に正面から競合するマーケティング戦略を採る。セダンは3種類。下からATS、CTS、そして「XTS」で、これらはBMWでいうと「3シリーズ」「5シリーズ」「7シリーズ」に相当する。ドイツ御三家でいう「CLA」や「A3 セダン」にあたる小型のCセグメント4ドアについては、キャデラックにはまだタマはない。
20世紀終盤にFF化を推し進めたキャデラックだが、国際競争力が見込まれるATSとCTSは後輪駆動(とそれをベースにした4WD)に回帰しており、GMジャパンが正規輸入するセダンもこの2機種である。
ちなみに最上級のXTSだけは現在もFFレイアウトを維持。XTSも内外装デザインモチーフは最新キャデラックのそれであり、2リッターのダウンサイジングターボも積むほどの最新鋭商品。しかし、GMのグローバルマーケティング構想からは外れているようで、正式に売られているのは北米と中国のみ。まあ、じつはXTSも日本で入手可能なのだが、それはヤナセ系が独自に受注輸入するセミ正規モデル(?)である。
キャデラックのクーペは現在ATSとCTSのみ(小型プラグインハイブリッドクーペの「ELR」は休止中)に用意されており、こうして、日本にはまずATSクーペから上陸。CTSクーペは少なくとも今年の導入はないようだ。
大人のステアリングフィール
キャデラックのクーペといえば、歴代「エルドラド」に代表されるような巨大なクルマを想起するマニア筋の方々も多いと思う。しかし、現在のキャデラックではもっとも大きなXTSのクーペ版は用意されないのに、より小さいATS(やCTS)のクーペが売り出された。時代も変わったものだ。
ATSクーペの車体外板は、フロントセクションはセダンと共通で、ルーフより後がクーペ専用となる。日本で用意されるグレードは、セダンで最上級となる「プレミアム」の一択。2リッター直列4気筒ターボは最大トルクが40.8kgmとなるハイチューン仕様となり、18インチのランフラットサマータイヤに電子制御可変ダンパー(マグネティックライドコントロール)が標準装備……といった基本構成はセダンのプレミアムと同じだ。
セダンに対してよりワイドトレッドになるクーペだが、ご想像のとおり、乗り味はATSセダンに酷似している。人間工学にも各部の味つけにも、かつてのような車なまりは皆無。かといって、一時期のキャデラックがおちいっていたように、パワステが奇妙なほど重く、ステアリングレスポンスだけを突出させた(悪い意味での)欧州コンプレックスの気配もない。
適度にロールして接地感もたっぷり。ターンインから脱出加速にいたる旋回姿勢も理想的。4気筒ターボは欧州の同等エンジンと比較してもパワフルな部類に入るが、リアタイヤは路面に根が生えたように吸いついて離れない。
それでいて、ある程度の上下動を許容するダンピング加減とか、適度にリラックスできる軽さとダルさを残したパワステには、そこはかとないアメ車感もあり、いやホント、これぞプロの味。ステアリングフィールなどにちょっと演出過剰の気もなくはない最近のBMWやアウディと比較すると、キャデラックのほうがずっと大人である。
ちょうどいい存在
最新のATSクーペの美点は、クーペといってもことさらにスポーツ仕立てにしていないところである。
今回のATSクーペは、日本上陸したてホヤホヤの約2年前に試乗したATSセダンのプレミアムより、なんとなれば路面のアタリは柔らかで、ワンダリングもより軽微になっていて、普段のリラックス感はさらに向上している。これはATSシリーズそのものが、当時より細かく熟成されてきたこともあるだろう。しかし、セダンよりワイドなトレッドを、低次元のコーナリングに特化させることなく、全体のバランス向上に使っているところがキャデラックのうまいところ。
そもそもクーペとスポーツカーとは別物であり、しかもクーペ本来の成り立ちやポジショニングからいえば、セダンよりクーペのほうが快適かつ優雅であるべき存在である。その意味では、ATSクーペのデキは歴史的にも正しいクーペ像といっていい。
このATSクーペを含むキャデラック2015年モデルはインパネ中央の収納ボックス(フタの開閉も電動だ)にスマホを放り込むだけで接続&充電が可能になる。この情報エンターテインメント系の進化にためらいも余念もないところは、さすが“永遠のIT先進国?”のアメリカである。また、レーダー技術を使った事前察知安全性でも今のキャデラックは掛け値なしのトップクラスといってよく、しかもそれで危険を察知したときのキャデラック独自の警告方法が“シート部分を振動させる”という点も、なんともIT先進国っぽいスマートかつ直感的なアイデアである。
「キャデラックのこういうところは、スマホを手放せない若いオネーチャンを助手席に乗せたときに、ウケそうだなあ……」と、勝手に妄想してニンマリしてしまう私は、ATSクーペの典型的な潜在顧客でしょうか?
前記にもあるように、ATSクーペは国際市場でBMWの「4シリーズ」や「アウディA5」、あるいはメルセデスの「Cクラスクーペ」を仮想敵に開発されたクルマである。しかし、若かりし頃にキャデラックやリンカーンの巨大クーペに憧れていたシニア層が、いま乗るべきクルマとしては、なんとも扱いやすく、ちょうどいい存在である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
キャデラックATSクーペ プレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1845×1400mm
ホイールベース:2775mm
車重:1580kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:276ps(203kW)/5500rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/3000-4600rpm
タイヤ:(前)225/40RF18 88W/(後)255/35RF18 90W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:約12.1km/リッター(欧州複合モード)
価格:509万円/テスト車=544万円
オプション装備:CUE統合制御ナビゲーションシステム(35万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1423km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(3)/山岳路(1)
テスト距離:214.4km
使用燃料:27.6リッター
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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