アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)
円熟味を感じる 2026.05.01 試乗記 英国の名門アストンマーティンのスポーツモデル「ヴァンテージ」が、「ヴァンテージS」に進化。より高出力なエンジンと進化した足まわりを得たことで、その走りはどのように変わったのか? パフォーマンスを存分に解放できる、クローズドコースで確かめた。モータースポーツの知見をフィードバック
アストンマーティンにおいて、「S」のイニシャルはハイパフォーマンスの証しとして代々用いられ続けてきた。その源流は1953年、時の「DB3」を軽量&ショートホイールベース化して戦闘力を高め、活発化し始めた国際レースの舞台で数々の輝かしい戦績を収めた「DB3S」となる。
その後、「ヴァンキッシュ」やヴァンテージ、「ラピード」などに設定されてきたSは、時とともにその意味合いが多様化しているとアストンマーティンは説明する。すなわち、当初はスペシャルやスポーティーを示すものだったかもしれないそれに、ソフィスティケーションやスタイリッシュという要素が加わって今に至るというわけだ。
今回、ヴァンテージ、「DB12」「DBX」と3つのスタンダードモデルがそろい踏みでSへとアップデートされた背景には、新たなユーザー層、とりわけ若いクルマ好きに注目してもらいたいという思いもあるという。なるほど、昨今の映画やF1といったコンテンツからブランドを認知した人々に向けては、よく目立つ赤字のSがアストンマーティンのプロダクトに誘うフックとなるだろう。
車格や価格面ではアストンマーティンのエントリーカーと見られがちなヴァンテージだが、いっぽうでそれは、モータースポーツに一番近いモデルだ。GT3やGT4カテゴリー向けのベースマシンとして、あるいはF1ではセーフティーカーとしても活躍しているのをご存じの方も多いだろう。新しいヴァンテージSは、それらの開発や実戦、運用等で得られた知見を活用しながら、シャシーまわりに大きくリファインを加えたことが大きな特徴となっている。
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エンジンもシャシーもエアロダイナミクスも進化
大きなところでは、リアサブフレームマウントをリジッド化することで横剛性を30%向上、逆にトランスミッションのマウントは10%柔らかくすることでボディー全体のアコースティックを最適化した。加えて、ダンパー制御やリアスプリングなど足まわりのチューニングを見直し、そして世界のサーキットでF1マシンを引っ張って走るセーフティーカーの知見をフィードバックした専用ジオメトリー設定などを加えて、パフォーマンスを最大限に高めている。
エンジンは例によってメルセデスAMGから供給を受ける「M177」系の4リッターV8ツインターボだが、ECUのキャリブレーションにより、直近のヴァンテージに対して最高出力は12PS増しの680PSに。最大トルクは800N・mで変わらずだが、よりエンジン回転数の低い、2000rpmからそれを発生するようになった。0-100km/h加速は0.1秒短縮され3.4秒と、FRのトラクションを鑑みれば限界域に達しつつあるといえそうだ。最高速は325km/hと変わりはないが、それをネガティブに受け止める向きもいないだろう。
エクステリアはボンネットのエアアウトレットに整流や熱抜きを促すブレードが加えられたほか、リップ形状のスポイラーがダックテール感を強調している。あわせて、床下の整流効果も見直されたとのことで、最高速時のダウンフォース量は111kg増加しているという。これみよがしなところはなくとも、しっかり機能向上を果たしているあたりは英国の流儀を感じるところだ。
内装のデザインやパッケージング、インターフェイスなどは2024年のアップデートを受け継いだものだ。346リッターの容量を持つ荷室に加えて、室内側にはシート背後に手荷物を置ける小さなスペースも用意されている。メリハリのあるボディーラインもあって車格的にそうは見えないが、実は「ポルシェ911」より全長が短いなど、こういうものとしては望外に実用性も期待できそうだ。
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ただ速くなっただけではない
試乗はコーンズが運営する会員制ドライビングクラブ「THE MAGARIGAWA CLUB」の核となる、約3.5kmのコースを用いて行われた。レーシングドライバーの駆る先導車を追いながらゆっくりと走り始めると、早くも伝わってきたのは乗り味が一層豊かになったことだ。細かな凹凸の収まりや初期操舵応答のカドの丸さ、後ろ足の弾力を感じさせる踏ん張り感など、前型からさらに円熟味を増している。
この車台になってから間もない頃のヴァンテージ(参照)は、戦意むき出しで額に怒筋(どすじ)が張り出しているようにイキった乗り味だったが、その頃から比べると170PSもパワーが上乗せされ、あわせてタイヤサイズも幅広になっているものの、動きの柔らかさは段違いだ。最もスポーティーな銘柄という位置づけはまったく変わっていないが、動きの質は、ふたまわりは大人になった。
ストレートでは先導車にじりじりと引き離されるが、お相手は全開なら3速でも身をよじらせる835PSの「ヴァンキッシュ」……と思えばスピードの伸びも悪くはない。800mのストレートをあっという間に食い尽くす加速には、高回転域に向けて力感が増していく内燃機らしい伸びのよさも備わっている。低中音域の野性味あふれるサウンドが臨場感を高めてくれるあたりに、いにしえの時代のアストンマーティンとのつながりが重なって見える。
コーナリングではシャシーまわりのリファインの成果をしっかり感じさせてくれた。操舵応答の早さや正確さは手応えとして確実に伝わりつつも、パワーオンでのリア側の粘りが車体姿勢の変化からもしっかり感じ取れる。タイヤ銘柄による特性の変化もあるだろうが、前期型あたりと比べれば、クルマから伝わる情報ががぜん饒舌(じょうぜつ)になっている。この車格にしてこのパワーのFRとなれば、いつなにをやらかすのやらという警戒感が常に表立ってくるが、ヴァンテージSはおのおののスキルやペースやシチュエーションでもきちんと楽しませてくれる、その度量がさらに大きくなった印象だ。
単に速いだけではなく、その速さに色艶はあるのか。自らの背景にある歴史や文化は織り込まれているか。自らのクルマづくりの軸足と断言する、GTらしい余韻は感じられるか。エンジニアたちはそういう問答を重ねながら、このクルマを磨き上げていったのだろう。ヴァンテージSにはそういう円熟味が感じられる。モデルライフ的には恐らく後半戦だと察するが、その稀有(けう)なオリジナリティーにはまったく陰りがない。
(文=渡辺敏史/写真=アストンマーティン、webCG/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アストンマーティン・ヴァンテージS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1980×1275mm
ホイールベース:2705mm
車重:1745kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:680PS(500kW)/6000rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y XL/(後)325/30ZR21 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:12.1リッター/100km(約8.3km/リッター、WLTPモード)
価格:2760万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:263km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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