第101回:狂気は衰えず――常軌を逸したマシンが爆走する!
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
2015.06.19
読んでますカー、観てますカー
30年の時を経て作られた新作
「『マッドマックス』の新作が公開されるよ!」と興奮気味に話しても、はかばかしい反応が返ってこない。いぶかしく思ったが、相手は30代だったから当然のことだった。3作目の『マッドマックス/サンダードーム』が公開された1985年からもう30年の時が流れた。リアルタイムにあの狂気に触れたのは、今では40代後半以上の世代なのだ。
第1作の『マッドマックス』は1979年に公開されている。低予算で作られたオーストラリア映画で、主演は無名の新人である。表情にまだ幼さを残すメル・ギブソンだ。彼が後に大スターになり、さらにはスキャンダルを連発してハリウッド一番の嫌われ者になるなんて誰も想像していなかった。
監督は、映画好きの医学生だったジョージ・ミラー。経験は浅く素人同然で、この作品を作った後は医者になるはずだった。しかし、第1作がカルトな人気を得て、映画監督の道を進むことになる。3部作の後に続編のうわさが何度も浮上したが、実際には作られなかった。ミラーはずっとブタやペンギンを主人公にしたファミリー映画を撮っていて、もう『マッドマックス』の新作が世にでることはないと思われていた。
しかし、70歳のミラーがとんでもない映画を作り上げた。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、監督自身のセルフオマージュともセルフリメイクともいえる作品である。世界観は何も変わっていない。スピードと暴力が主役であり、ストーリーは単純明快だ。すさまじい迫力のカーチェイスと非情なバイオレンスが、スクリーンに満ちている。
拡大 |
|
勝手に道路を封鎖してゲリラ撮影
第1作の舞台は、数年後のオーストラリアという設定だった。公開が1979年だから、1980年代なかばということになる。治安が崩壊して暴走族が悪行の限りをつくしており、最後の希望となっていたのが司法庁直轄の特殊警察MFPでパトカーに乗るスゴ腕警官のマックス・ロカタンスキーだった。プロテクター付きの革スーツに身を包むメル・ギブソンは、いま見てもゾクゾクするほどカッコいい。
彼はリーダーのトーカッターが率いる暴走族に同僚を殺され、妻子までもが狙われる。復讐(ふくしゅう)を誓う彼の、強力な武器となったのが、インターセプターだ。オーストラリア・フォード製の「ファルコン」で、V8エンジンにスーパーチャージャーを装着して600馬力を絞り出したモンスターマシンである。暴走族が乗る「カワサキZ1000」や「ホンダCB750」などと死闘を繰り広げるのだが、撮影にはすべて本物のクルマとバイクが使われている。予算はないし、当時はCGなんて便利なものはなかったのだ。
あまりにリアルなクラッシュシーンが描かれたので、スタントマンが何人か死んだといわれていた。配給会社が宣伝のためにわざとうわさを流したという説もある。実際にはけが人はたくさん出たものの、死者はいなかったようだ。ただ、この頃のオーストラリア映画は激しいバイオレンス描写が売りで、本当に死人が出た映画も存在する。『マッドマックス』も運がよかっただけで、何が起きてもおかしくない野蛮な撮影現場だった。勝手に道路を封鎖して撮影していたというから、今ではとても考えられない無法ぶりだ。日本でも1972年の『ヘアピン・サーカス』では東京のど真ん中で危険なゲリラ撮影をしていたから、そういう時代だったのだろう。
過激な撮影がもたらした斬新な映像が世界に衝撃を与えて大ヒットし、1981年に『マッドマックス2』が公開された。舞台は前作から数年後で、文明は完全に失われている。荒野ではモヒカン頭の荒くれ男たちが走り回り、枯渇したガソリンを手に入れるために抗争に明け暮れていた。マックスはインターセプターに乗って荒野をさまよい、石油精製所で共同生活する人々と武装集団との争いに巻き込まれる。
いきなりインターセプターが横転
新作は、『マッドマックス2』を継ぐ物語である。『2』では最後にインターセプターが爆発してしまい、3作目の『サンダードーム』には登場しない。『デス・ロード』には冒頭からあのモンスターマシンが爆走する。マックスは双頭のトカゲを踏みつぶして生でバリバリ食べてしまうから、世界はそうとうひどいことになっているらしい。59歳になったメル・ギブソンはシリーズを卒業し、マックス役はトム・ハーディが務める。以前に紹介した『イタリアは呼んでいる』の中では滑舌の悪さがさんざんこき下ろされていたが、この映画では問題ない。ほとんどしゃべらないからだ。
トカゲを食べたあとすぐにマックスは装甲バギー軍団に追いかけられ、インターセプターは横転してしまう。彼もとらわれの身になってしまうのだ。襲ってきたのはウォーボーイズと呼ばれる集団で、坊主頭に白塗りという姿だ。暗黒舞踏っぽいイメージもあるが、映画『呪怨』シリーズの俊雄クンにも似ている。彼らが崇拝しているのが、イモータン・ジョーと呼ばれる老人だ。衰えた肉体に筋肉めいたヨロイをまとい、ドクロっぽいガスマスクをつけている。
『2』ではホッケーマスクを付けたヒューマンガスが悪の親玉だったが、イモータン・ジョーはもっと凶悪な姿である。演じているのはヒュー・キース・バーンで、第1作でトーカッター役だった俳優なのだ。あの時は生気のみなぎった屈強なならず者だったが、今度は威厳を備えた悪のカリスマだ。彼は水と食料を支配し、独裁者として君臨している。ウォーボーイズにとっては、イモータン・ジョーのために戦って死ぬことが最高の名誉なのだ。
副官として絶大な信頼を得ているのが女戦士フュリオサだ。シャーリーズ・セロンが坊主頭に黒いオイルを塗って熱演している。戦いの中で傷ついたらしく、左腕は義手だ。それでも戦闘力は高い。重大な使命を託された彼女がイモータン・ジョーを裏切り、ウォータンクで逃亡を企てたことで壮絶な戦いが始まる。
2段重ねのキャデラック?
イモータン・ジョーは、子孫を残すために女たちを“子産み女”として監禁していた。フュリオサは、彼女たちを連れて安全な水と食料のある場所に行くつもりなのだ。『2』で石油精製所の人々を最後の楽園サンシャイン・コーストに連れていこうとした構成を、忠実に繰り返している。イモータン・ジョーとウォーボーイズは全力で彼女たちを追いかけ、フュリオサはマックスと協力して凶暴な男たちに反撃するのだ。
要するに、『2』と同じである。しかし、映像が格段に進化している。予算と技術が圧倒的に違うのだ。ミラー監督が当時やりたくてもできなかったことが、今回はパワーアップした形で実現している。改造車軍団はとんでもないことになっている。イモータン・ジョーが乗るのはでかいテールフィンの1959年型「キャデラック」を2段重ねにし、キャビンとフロントグリルを切り離してV8を2基突っ込んでいる。
「メルセデス・ベンツW123」をトレーラーヘッドに仕立てたマシンも登場する。「フォードF-150」や「ダットサン240Z」も、邪悪な改造を施されていた。「プリムス・ヴァリアント」に至っては、キャタピラを装着して高速戦車に生まれ変わってしまった。マックスのファルコンも勝手に改造され、4WD仕様に。武器を装着してマッチョになった姿も、それなりにカッコいい。
明らかに常軌を逸しているのが、ドゥーフ・ワゴンである。後方には巨大な4つの太鼓が据え付けられ、前は全面がスピーカーセットだ。ギタリストがハードなサウンドを奏で、大音量とともにダブルネックギターの先端からは火炎が放射される。戦闘の役には立たないが、ウォーボーイズの戦意を高揚させる。彼らにとっては、自動車が宗教なのだ。V8エンジンがご神体であり、ステアリングホイールには神聖な霊が宿っている。
ミラー監督はやりきった気持ちが強いのかと思ったら、今回も3部作になるらしい。これ以上、一体何をやろうというのか。たぶん、もっとハチャメチャなマシンのアイデアを思いついてしまったのだろう。年齢など関係ない。監督の頭の中では、若いころの夢が今も暴走を続けている。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第289回:最強の格闘家は破壊されるクルマに自分を重ねた
『スマッシング・マシーン』 2026.5.14 ドウェイン・ジョンソンが映画化を熱望した伝説の格闘家マーク・ケアーの栄光と没落の人生を描く。東京ドームで行われた総合格闘技イベント、PRIDEグランプリ2000を完全再現! -
第288回:自称詩人は中古車で自由を表現する?
『自然は君に何を語るのか』 2026.3.20 「月刊ホン・サンス」第5弾は『自然は君に何を語るのか』。恋人の両親に初めて会う自称詩人は、気まずい空気の中で次第に感情を抑制できなくなっていく。「キア・プライド」が小道具としていい味! -
第287回:宝石を盗んで西海岸のハイウェイを駆け抜けろ!
『クライム101』 2026.2.12 ハイウェイ101で発生する宝石盗難事件はいつも迷宮入り。「ダッジ・チャレンジャー」で素早く逃走する犯人の犯罪心得は、殺さず、傷つけず、証拠を残さないこと。泥棒、刑事、保険ブローカーが華麗なる頭脳戦を繰り広げる! -
第286回:才人監督が描くディストピアのデスゲーム
『ランニング・マン』 2026.1.29 「アルピーヌA290」で追っ手のハンターから逃げ延びろ! スティーブン・キングが50年前に予見した未来は、まさに現在の状況そのもの。分断とフェイクが支配する現実を鋭くえぐった最新型デスゲーム映画。 -
第285回:愛のためにフルヴィアクーペで突っ走れ!
『トリツカレ男』 2025.11.6 夢中になるとわれを忘れるトリツカレ男がロシアからやってきた少女にトリツカレた。アーティスティックな色彩で描かれるピュアなラブストーリーは、「ランチア・フルヴィアクーペ」が激走するクライマックスへ!
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。