ボルボV60 T6 AWD R-DESIGN(4WD/6AT)
熟成されたスポーツモデル 2015.07.13 試乗記 もうすぐラインナップから姿を消すことになる、ボルボの直列6気筒エンジン搭載車。あらためて乗ってみると、このパワーユニットならではの味わいや魅力が伝わってきた。今しか選べないエンジン
ボルボは現在販売中の……すなわち2015イヤーモデルで、直列6気筒はやめちゃうのだそうだ(厳密には、この6月1日に予約開始となった限定モデル「S60/V60ポールスター」が本当の最後とか)。
ボルボはすでに、自社開発の新世代エンジンをすべて4気筒で統一することを公言している。つまり、ボルボは“直6”どころか、そもそも6気筒エンジン自体から手を引く。先ごろデビューした新フラッグシップの「XC90」も、6気筒の搭載を想定しないパッケージだという。
ご承知のように、罰則をともなうメーカー別CO2排出規制が本格化したEUでは、過給によるエンジン小排気量化の波が急である。小型車中心の欧州メーカーでは、すでに4気筒以下のエンジンしか持たなくなった例も少なくない。
ボルボはどちらかというと“高級”を売りとしていて、大排気量好きの北米市場への依存度も高いが、もとから少数精鋭ラインナップで勝負してきた小規模ブランドでもある。以前のようにフォード傘下にあれば市場ごとにリソースを使い分けることもできようが、現在のボルボは中国車メーカーの吉利(ジーリー)傘下。フィナンシャル上の資本は潤沢だとしても、エンジニアリング資産は自給自足でまかなわなければならない部分が多い。こうした社会情勢や現状を考えれば、彼らの選択はまったく当然のことといえるだろう。
今回はそんな「直6ファイナル!」をうたう「60シリーズ」を題材に開かれたメディア試乗会のご報告である。
ボルボの6気筒に歴史あり
その試乗会では、ボルボの6気筒史をふりかえるプレゼンもおこなわれた。
ボルボ初の市販6気筒は1929年デビューの「PV651」。当時の6気筒といえば直列が普通なので、ボルボ初の6気筒も当然直6だった。70年代末になると、ボルボの6気筒もいったんは現代的なV型になる。プジョーやルノーと協業で開発された“PRVエンジン”といえば思い出すマニア筋も多いだろう。
ボルボが直6に回帰したのは1992年の「960」からだ。「ポルシェ設計」といわれた完全新開発エンジンである。90年代初頭のボルボといえば、ルノーと「合併を念頭に置いた提携」を推進していた時期(この提携プロジェクトは結局93年に破たんするが)であり、この直6の開発もルノーとの協業である。
V6から直6へ……という流れは今の目では奇異に映るかもしれない。しかし、このエンジンは4/5/6気筒のモジュラー設計であり、当時の960はエンジン縦置きのFR。これは縦置き用の6気筒はまだまだ直6のほうが多かった時代のハナシである。
その細長い直6を強引に横置きしてFF化する……という現在にいたるアクロバット技術を初披露したのは、98年に登場した初代「S80」だ。ボルボの乗用車部門がフォードに分離売却されるのが翌99年だから、意地悪にいえば「これしかやりようがなかった」というのが、当時の真相だろう。しかも、ボルボはその後にV8を積んだりもするわけだが、ボルボは「直列エンジンの横置きこそ、最大限のクラッシャブルゾーンを確保できるベストの安全パッケージ」といってのけた。
こういう“いったもん勝ち”はボルボ伝統の十八番(おはこ)でもある。その昔、ボルボがまだFRだったころ、同じスウェーデンでFFを売りにするサーブと比較されて「北欧のような厳寒地ではFFのほうが有利では?」とツッコミを入れられても、ボルボは「ステアリングと駆動を分担して、タイヤの能力を最大限に引き出せるFRこそ、凍結路や雪道でも一番強い!」と平然と公言していたくらいである(笑)。
いや、誤解してほしくないが、これは批判ではない。こうした強気でしたたかなPR戦略こそ、ボルボのような小規模メーカーが生きる知恵である。実際、サーブは事実上消滅したが、ボルボは生き残った。そして、各国の衝突安全試験でも明らかなように、エンジンがなんだろうが、クルマの安全に対するボルボの情念は掛け値なし、文句のつけようのない本物だからだ。
特別感が伝わってくる
おっと、今回の本題は60シリーズである。われわれにあてがわれた試乗車は、「さよなら直6」と2015年7月末までの期間限定で販売される「Tuned by Polestar(チューンド バイ ポールスター)」という特別仕様車である。「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」という本来は20万円超もするディーラーオプションを含めたオプションを装備したうえで、買い得価格で提供される。
ポールスター・パフォーマンス・パッケージとは、おなじみポールスター開発のエンジンソフトウエアで、およそ20psのパワーアップと快活なレスポンスを実現するオプションだそうである。
さて、そんなV60のT6だが、そのエンジンルームをあらためて眺めると、なんともまあ、見事なまでにピッタリ。ボルボの弁のとおり、前後方向には余裕たっぷりだが、車体右側でエンジン本体が、そして左側で変速機が、それぞれ水も漏らさぬ……という感じで、ホイールハウスに密着して見える。
それもそのはず。ボルボのファイナル直6は、2006年に初登場したコンパクト設計の第2世代だが、その後に登場した現行60シリーズのエンジンルームはこのエンジンを積むために最適化された設計と考えていい。左右にスキ間があったら、逆に「なにをムダな!」といわれてしまうだろう。
久々にして、そして最後の機会となるかもしれない、V60のT6との手合わせは、なるほどエンジンの存在感が濃く、その身のこなしはいかにも重厚だった。
60シリーズは5気筒でも、主力の4気筒と比較すると乗り出した瞬間からノーズヘビー感が明らかだが、T6の挙動は良くも悪くも、さらに重い……というか特別感がある。
シャシー性能にも注目
この最後のボルボ直6は、3リッターにターボを組み合わせて304psと44.9kgm(今回のチューンド バイ ポールスターだと329psと48.9kgm)を発生する。60シリーズには必要十分をはるかに超える性能なのは事実だが、オーソドックスな間接噴射であることもあって、冷静に見れば、3リッター過給エンジンとしては驚くほどでもない。このレベルの出力やトルクは、最新の直噴ターボなら、場合によっては2リッターで出してしまう。
ただ、そこがいい。排気量という基本フィジカルによるトルクなので、とにかくレスポンスが電光石火。右足の動きに対してまったくタイムラグを感じさせず、優秀なオンデマンド4WDをもっているのに、スキあらば……とフロントグリップを失わせようとする。今どきめずらしいほどの暴れ馬感がただよう。
回転フィールはさすが直6。レッドゾーンは6500rpmだが、6ATは最高でも6000rpm強でシフトアップする。直6らしいカン高く、憂いのある“わななき”を味わうには少なくともあと500rpmは欲しいところだが、回転上昇とともにトルクとレスポンスをリニアに積み上げていく回しがいは、そりなりにしっかりと残っている。高回転でのスムーズネスはV6とはやはり違う。
ただ、今回それ以上に感銘を受けたのは、V60のシャシーの熟成である。このモデルのデビュー初期は5気筒ですらもてあまし気味で、偏平タイヤをはっきり不得意としていたが、ヘビー級のハイトルクエンジン+19インチ……という今回の試乗車でも、少なくとも単独で乗っているかぎりは、それに起因する悪いクセのようなものはほとんど感じなくなった。
特に19インチでこの乗り心地は素直に素晴らしいと思った。それでも、基本的には高速でズッバーンと飛ばしてこそ輝くタイプだが、箱根のような場所も苦にしない。「クルマはコーナリング命」というマニア筋でなければ、60シリーズで総合的にもっともスポーツモデルらしいのは、やはり、このT6だろう。もう残り少ないけど。
さて、ボルボの撤退によって、日本で一般入手可能な直列6気筒エンジン車は、いよいよ「ストレートシックスと心中する」となかば公言しているBMWだけ……ということになる。まあ、そのBMWですら、直6搭載モデルはどんどん減っているのが現実だ。さみしいね。それも時代といえばそうだけど。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ボルボV60 T6 AWD R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1800kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:329ps(242kW)/5400-6500rpm
最大トルク:48.9kgm(480Nm)/3000-3600rpm
(※「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」装着車)
タイヤ:(前)235/40R19 96W/(後)235/40R19 96W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:8.5km/リッター
価格:665万円/テスト車=639万円
オプション装備:ポールスター・パフォーマンス・パッケージ(20万5715円)
(※2015年7月末までは、販売店扱いの特別仕様車「Tuned by Polestar」として、639万円の価格で販売される)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2760km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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