アウディA1 1.0 TFSI(FF/7AT)
クラス最良の出来栄え 2015.07.20 試乗記 アウディのBセグメントコンパクトモデル「A1」に、マイナーチェンジとともに1リッター直3ターボエンジンを搭載したエントリーグレード「1.0 TFSI」が登場。アウディにとって初となる、3気筒エンジンの実力を試した。古い先入観にとらわれてはいけない
時代は変わったのだなぁ……と、しみじみ思う。古い人間の時代錯誤なのだろうけど、小排気量の3気筒エンジンと聞いて期待感より昔ながらの先入観が膨らんでしまう習性が抜けてなかったのかもしれない。快さにはつながらない振動、ささくれがあるような回転フィール、そしてチカラのなさ。そんなイメージがどうしても先に立ってしまうわけだ。考えてみれば、プジョー/シトロエンの1.2リッターも1.2リッターターボも、「フォード・フィエスタ」の1リッターターボも好感触だったし、私は未体験ではあるが「MINI」のそれも同業の知人たちの間で評判は悪くない。そして今回、アウディ初の3気筒モデルを走らせてみて、もはや根本的に考え方を改める必要がある、と痛感させられた。A1 1.0 TFSI、実に素晴らしかったのだ。
日本ではこの5月にお披露目されたマイナーチェンジ版アウディA1の最大のキモは、その1リッター3気筒エンジン搭載車のラインナップだった。74.5×76.4mmのボア×ストロークを持つ999ccの3気筒エンジンは、「フォルクスワーゲンup!」と基本設計を同じくするが、直噴ターボ化やバランスシャフトの採用などの手が加えられていて、最高出力は95ps/5000-5500rpm、最大トルクは16.3kgm/1500-3000rpm。ボンネットを開けてみるとエンジンルームはスカッとしていて、実にコンパクトだ。おそらく重量の面でも従来型4気筒ユニットよりだいぶ有利で、それは操縦性にもいい影響を与えているのだろうな、という想像が広がっていく。
上品で力強いエンジンフィール
とはいえ、小排気量の3気筒エンジンだものな……という僕の習慣的な思い込みは、スターターボタンを押してエンジンをかけた次の瞬間に雲散し、ゆるやかにスロットルペダルを踏んで走りだした瞬間に霧消した。ちっとも3気筒らしくなかったからだ。サウンドの質は、意識すれば3気筒っぽいと感じられる範疇(はんちゅう)にあるけど気づかない人は気づかないだろうレベルだし、特有といえる振動もない。何より回転のフィールに粗っぽさがないどころかビックリするくらいに滑らかで、走りだしの領域から力強く、高回転域までよどむことなく回っていく。
一般道を流れに乗って走るためには2000rpmほども回していれば十分。巧みにプログラミングされた「Sトロニック」がトントンとシフトアップしてくれて、予想していた以上の快い加速が得られ、キープしていくことができる。そのままスロットルを踏み込んでいくと、2500rpm辺りから少し活発さを増して、5500rpm辺りまでスムーズに気持ちよく回ってくれる。そのときの印象はスポーティーだとかパンチがあるだとか、そういうのとは少々違っていて、とても上品に伸びていく感じ。というと、何やらか弱さや線の細さを想像する人もいるかもしれないけど、決してそういう類いではない。まろやかで角はないけど力強いフィールといえばいいのか。とにかくそれほどエンジンをブンブンとうならせなくても十分な加速は得られるし、どの回転域から加速を試みてもじれったい思いをすることもなく、走っていて何か気がかりになることというのも全くない。アウディというブランドにふさわしい高級感のようなものすら覚えるほどだ。
高速走行でも排気量を全く連想させない余裕がある。100km/h巡航でのエンジン回転数は7速で2200~2300rpm程度。最大トルク発生回転範囲内にあるこの辺りが最もこのエンジンの味わいが気持ちよく感じられる領域で、もちろんそこから上の速度域にも楽に飛び込めるけれど、むしろゆったりした感覚でずっと流して走っていたいような気分になる。
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“安っぽさ”はどこにもない
一方、ワインディングロードのような場所ではどうかというと、そうした全域で力強いキャラクターに加え、やっぱりエンジンそのものの軽さも効いているようだ。従来の1.4リッターモデルより車重そのものが80kgほど軽くなっていることもあるのだろうが、鼻先の入りがとにかく軽やか。際立ってスポーティーだったり速かったりするモデルじゃないのは先述の通りだけれど、コーナーでクルンとターンを決めるその動きがとても小気味よく、ハンドリングは望外に爽快なテイストだ。車速に応じてアシストの加減が変わる新しいパワーステアリングのフィールもなかなか絶妙。曲がるのが楽しいクルマ、といってもいいだろう。といって妙に鋭すぎるようなところもなく、高速コーナーが続くような場所ではしっとりと落ち着いた足さばきを見せ、危なげなくひとつひとつを素直にクリアしていくような包容力を持っていることにも感心させられた。
そう、A1 1.0 TFSI、実は足腰がずいぶんとしなやかなのだ。車体そのものはドイツ車らしくガッチリと堅牢(けんろう)なのだけど、それを支えているサスペンションがしなやかに動いて路面の凹凸を吸収し、フラットな姿勢を保つ。ちょっとばかりフランス車に近いようなフィーリングだ。乗り心地はとても快適で、小さなクルマであることがうそであるかのよう。加速する、減速する、曲がるといった一連の動きの中にも、ステアリングやペダルといった操作をするために触れたり動かしたりする部分にも、クルマから伝わってくるフィーリングの中にも、こと“安っぽさ”のようなものがみじんもない辺り、さすがはアウディ! と称賛せざるを得ない。どこもかしこも手抜かりなく、上質なのだ。出来栄えの良しあしで判断するとしたら、このクルマを凌(しの)ぐモデルは同じクラスには存在しないとすら思う。
決して安価なクルマではないけれど
A1がデビューしたのは2010年の春、日本に導入されたのは翌年の年明け早々。当初導入された「1.4 TFSI」にも全く不満はないどころか、クルマとしての質の高さ、走りの質の高さにも驚かされたものだけど、この新しい1.0 TFSIにはさらに驚かされた。その辺りにばかり目がいってしまい、フェイスリフトが行われたルックスにはここまで全く触れてこなかったが、シングルフレームグリルの幅が少し広がり、よりクリーンなラインを重視したヘッドランプを備えた新しい顔つきは、どちらかといえばこの6月に公開されたばかりの2016年モデルの次期「A4」に近いシャープでクリーンな印象。個人的にはこの新しい顔の方が好きだ。
……と、ここまでホメる言葉ばかりが並んでいるから、読者の皆さんには懐疑的に思われるかもしれない。でも、仕方ない。A1 1.0 TFSI、ホントにいいのだ。そしてそれはディーラーでする試乗の範囲でも、十分に感じとってもらえることと思う。唯一気になるのは、249万円からという価格。「マツダ・デミオ」のディーゼルが199万8000円から、「フォルクスワーゲン・ポロ」の「1.2 TFSI」が228万4000円から、「プジョー208」の3気筒1.2リッターが199万円から、「ルノー・ルーテシア」の3気筒0.9リッターが208万円から、そして「MINI ONE」が226万円から──と、同じBセグメントのライバルたちと比較すると、以前より安いとはいえやはり高価なのだ。しかもダッシュボードに奇麗に収まるナビゲーションシステムが欲しいとなると、マルチメディアシステムを兼ねているとはいえ、36万円のエクストラコストが必要となる。合わせて285万円。それでも価格を上回る価値があることだけは確かだ、と書き添えざるを得ないほど素晴らしいと感じているわけだから、ますます懐疑的に思われてしまうかも。……皆さん、次の休日辺りにディーラーに足を運んで、その疑いをキッチリと晴らしてきてください。
(文=嶋田智之/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
アウディA1 1.0 TFSI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3985×1740×1425mm
ホイールベース:2465mm
車重:1120kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:95ps(70kW)/5000-5500rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:22.9km/リッター(JC08モード)
価格:249万円/テスト車=317万円
オプション装備:ボディーカラー<ユートピアブルー メタリック>(6万円)/コンビニエンスパッケージ<アドバンストキー+アウディパーキングシステム>(15万円)/ボディーカラー同色ドアミラー(1万円)/ナビキセノンプラスパッケージ(36万円)/BOSEサラウンドシステム+LEDインテリアライトパッケージ(10万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1680km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:293.6km
使用燃料:22.5リッター
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)
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嶋田 智之
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