マツダ・ロードスターRS(FR/6MT)
スリリングな走りに異議あり 2015.11.18 試乗記 「マツダ・ロードスター」に、走りを追求した上級グレード「RS」が登場。ビルシュタイン製ダンパーやフロントサスタワーバーなどでチューニングされたその“アシ”の実力を、ワインディングロードで試した。キモは足まわりとシャシーのチューニング
スポーツカーフリークだけでなく、全てのクルマ好きから愛される国民的オープン2シーター、マツダ・ロードスターに、走りのグレード、RSが登場した。筆者の注目点は、その4つのサスペンションのロールバランスが、以前『webCG』でリポートした「S/Sスペシャルパッケージ/Sレザーパッケージ」とどう変わっているかだ。
というのも筆者はマツダが長年掲げる「人馬一体」というコンセプトが、言葉だけ一人歩きしているような気がしてならないからだ。少し辛辣(しんらつ)な物言いに聞こえるかもしれないが、どうせみんなはロードスターを褒めるのだから、ひとりぐらいは小言を言わせてほしい。モータージャーナリストである以上、本当に愛すべき存在には、本気の言葉で語りかけなければならない。というわけで今回も、真剣勝負で書かせていただく。
その前にまずこの「RS」グレードの特徴を説明しておこう。
核となるのは足まわりおよびシャシーの変更だ。ベースはリアスタビライザーを装備したSスペシャルパッケージ。これにビルシュタイン製ダンパーを装着し、16インチホイールの中には前後とも直径280mmに拡大されたブレーキローターを収めた。キャリパーとブレーキパッドは変更されないため、ローター厚は22mmのままだ。そしてエンジンルームには、バルクヘッドに向かってメンバーが伸びるフロントサスタワーバーを用意した。これは横方向のみならず、ねじり方向および引っ張られる方向の入力に対応でき、なおかつ中空構造にできる現代のトレンドである。
進化ではなく成熟
マツダがビルシュタインを選んだ理由は、内蔵されるピストン径の大きさと、オイルが通り抜けるポートの精度、そして抵抗を作り出すシムの細かさといった、セッティング幅の緻密さ、そしてビルシュタイン側の技術者のマツダに対する理解度の深さからだという。とはいえその他のグレードに採用されるダンパーも、レスポンスを重視してビルシュタインと同じモノチューブ構造を採用している。
ちなみにスプリングはSスペシャルパッケージのものと変わっていないから、コーナリングに関して言えば、今回は純粋にロールスピードだけを制御したことになる。その理由は、このRSがいたずらに限界性能を上げるのではなく、ドライバーがクルマとのコミュニケーションを深めることに主眼を置いたから。開発陣の言葉を借りれば「進化モデルではなく、熟成モデルである」からだという。もっともそれ以上のモデルが欲しければ、この上にはナンバー付きレース車両である「NR-A」が控えている、という事情もある。
果たしてその走りはどうだった?
ここに筆者はふたつの顔を見いだした。まずいわゆるワインディングロードを気持ち良く走る領域では、「よくここまで乗り心地を損なわずにスタビリティーを上げたな!」と感心した。無理やりロール感を演出するような挙動はなりを潜め、ステアリングを切ると穏やかにロールが始まり、そこから自然に旋回状態に移る。パワー&トルクが131ps&15.3kgmということもあるが、コーナーの中盤では外側の前後輪に高い安心感があり、いち早くアクセルを開けてゆくことができる。タイヤなんぞ滑らなくても、そのたわみ感とコーナリングスピードの速さだけで十分に楽しめる。なによりオープンだし!
しかしこの爽快さに高揚してペースを上げていくと、様子が変わってくる。
サスペンションの前後バランスに物申す
コーナー手前でしっかりとブレーキを掛け、ブレーキをリリースしながらステアリングを切り込むのだが、フロントタイヤの接地感が高まらないのだ。ダンピングレートは上がっているから以前のようにフロントサスペンションが“クタッ”と腰砕けになってしまうことはないのだが、肝心なステアリングインフォメーションが伝わってこない。結果ドライバーの感覚としては、リアタイヤだけで走っているような気分になる。
フロントタイヤのグリップ力を確認できず、当てずっぽうでコーナーに入っていかねばならないのは危険だし、自信を持ってアプローチできない走りにはフラストレーションがたまる。とても人馬一体とは言い難い。
ただしコーナリングスピードは速い。シャシーの軽さに対する「ヨコハマ・アドバンスポーツV105」のグリップ力の高さが、気がつくと空恐ろしいスピードを紡ぎ出している。
この原因のひとつは、やはり前後減衰バランスのちぐはぐさにあると思う。かなり良くなったとはいえ、高い荷重領域ではまだリアの伸び側減衰力が強い。もしこれを整えるなら、乗り心地を犠牲にしてでもリアと同じくらいフロントのバンプ側圧力を強めるか、フロントと同じくらいリアのリバウンド側を緩めるかしかない。
ただマツダとしては、RSと名が付く以上限界は低めたくないだろう。とはいえリアがジワジワとスライドするような走りを提供する勇気はない。そのジレンマが、FRなのにFRらしくない走りを生んだ。
筆者としては、まず電動パワーステアリングの精度をもっと高めてほしいと思う。それでフロントのインフォメーションが高まれば、小難しい話はしなくて済むかもしれないからだ。
そして、より根源的な意見としては、勇気を持ってタイヤのグリップレベルを下げてほしい。もっと低い速度域で、滑りながらも高い接地感が得られるような、幅広いスリップアングルを保てるような走りができる、過渡特性の穏やかなタイヤを付けてほしい。「NA」こと初代ロードスターは、クルマ側の能力が低くてオーバーステアを出したが、4代目の「ND」は質感高くオーバーステアを楽しめるクルマにしてほしい。ましてやRSグレードともなれば……。
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“軽さ”と釣り合うタイヤがほしい
今のままでは、例えばコーナー途中で緊急回避のブレーキを踏むような場面だと、ズバッとリアが出る。過剰にリアの限界を上げた結果、それに応じて旋回速度が高まり、ちょっとした荷重変動で挙動がピーキーになってしまうのだ。そしてグリップがすぐに回復し、カウンターステアを当てているとオツリを食らう可能性が高くなる。
スタビリティーコントロールの利き方も唐突。コーナリングでスポーツを語りたいのなら、もっと制御を緻密にしなければいけない。それができれば、リアダンパーの伸びを素直に伸ばすこともできるはずだ。
これらのネガティブは全て、実はロードスターの軽さが原因である。現代のマスプロダクトとしては異例なほど軽い車重のスポーツカーに、高いグリップのタイヤを履かせたせいで、全てのツジツマが合わなくなった。荷重変動に過敏になったのだ。
いまよりグリップレベルを落としても、ロードスターは安全に走ることができる。
やっかいなのは、現状の走りが楽しくないのかといえば、やっぱり楽しいことだ。欲しいか? と問われれば、うーん……とうなりながら「欲しい!」と答えてしまう自分がいる。この走りを克服したいと心が騒ぐ。ただ、そこには“スリリングな”という、ロードスターが本来求めるものとは違う形容詞が付いてしまう。
RSというグレードと触れ合って、人馬一体という言葉を見つめ直すことができた。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
マツダ・ロードスターRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1040kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:18.8km/リッター(JC08モード)
価格:319万6800円/テスト車=328万3200円
オプション装備:i-ELOOP<アイ・イーループ>+i-stop<アイ・ストップ>(8万6400円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3361km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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