マツダ スピリット レーシング・ロードスター(FR/6MT)
バランスのストリート系 2026.06.10 試乗記 マツダ スピリット レーシングを象徴するハードコアモデル「ロードスター12R」と同時に発表された、台数限定2200台の「ロードスター」に試乗。12Rとの比較を交えながら、最高出力184PSの2リッター直4エンジンがもたらす走りの印象を報告する。すっぴんの美しさを邪魔していない
ここ最近、現行のND型「マツダ・ロードスター」を見るたびに思い返すのが、『CG NEO CLASSIC Vol.7』というムック本の「Designed by ピニンファリーナ」という特集だ。特集記事のなかで、自動車デザイナーの中村史郎さんはピニンファリーナが手がけたフェラーリのデザインをこんなふうに解説している。
1960年代の後半に、ピニンファリーナのデザインがモダンになった。「ディーノ206GT/246GT」や「フェラーリ275GTB」あたりまでは、フェンダーとボディーが一体化した1947年の「チシタリア202クーペ」の流れを引き継いでいて、その名残がフェンダーに見られる。ところが「フェラーリ365GTB/4」(通称デイトナ)は、フロントフェンダーの盛り上がりがなくなり、フードの断面が真っ平らになっている。
ディーノ206GTが1967年でデイトナが1968年だからたった1年の違いではあるけれど、2台を見比べると、確かに10年分くらい進化した形になっているように感じる。以降、1970年代から1980年代にかけて、「BB」「308GTB」と、フェラーリとピニンファリーナがモダン路線を加速させるのはご存じのとおり。
で、なぜNDを見てこの記事を思い出すのかというと、現行のロードスターがピニンファリーナのクラシック期とモダン期のあわいに位置するように思えるからだ。サイズ感がちょっと違うけれど、ディーノとデイトナの間にNDを置くと、しっくりくる(ように思える)。類人猿が二足歩行の人類に進化する過程の図が完成するというか。NDをデザインした方は、この時期のピニンファリーナ(とレオナルド・フィオラヴァンティ)がお好きなのではないかと推察する。
もしかすると、この愚説はまったくの的外れかもしれない。デザイナーの方は、腹を抱えて笑っているかもしれない。でも、こんな妄想でご飯がおかわりできるくらい、ND型ロードスターのプロポーションはずぬけてきれいなのだ。そして、スーパー耐久シリーズ参戦で得た知見をもとに装備したというエアロパーツが、すっぴんの美しさを邪魔していないことにホッとする。
紹介が遅れましたが、今回試乗したのは、2200台限定のマツダ スピリット レーシング・ロードスターだ。
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吸い込まれるようにシフトが決まる
ドライバーズシートに腰掛けると、ステアリングホイール、パーキングブレーキのレバー、シフトレバー、そしてダッシュボードの一部がアルカンターラに覆われていて、大昔にNA型の初代「ユーノス・ロードスター」と暮らしていた身としては、随分と立派になったと感心する。実際に操作すると、見た目が立派になっただけでなく、各部の手ざわりが上質になっていることがうれしい。
ソフトトップを採用する国内仕様のマツダ・ロードスターに初めて搭載される2リッター直4エンジンは、さすがにベースモデルの1.5リッター直4に比べて圧倒的にトルキーだ。ヒルローンチアシストの助けもあって、坂道発進も楽ちんだし、信号待ちでのストップ&ゴーも苦にならない。かといって安楽というだけでなく、3000rpm、3500rpmと回転を上げるにつれてエンジンが活気を増す、いわゆる「カムに乗る」感触も味わえるから、気持ちが高ぶる。
「ロードスターRF」だけでなくソフトトップのロードスターでも2リッターを選べるようにしてもよいのではないか……、というのは自動車ライターとしての冷静な意見で、いつの日かもう一度ロードスターに乗ろうと狙っている立場だと、創意工夫で1.5リッターの限られたパワーを最大限に発揮して乗りこなすほうがロードスターっぽいかも、てなことを考える。
三つ子の魂百までも、というか、1.6リッター直4の「ロータス・ヨーロッパ」で2.7リッター水平対向6気筒の「ポルシェ911カレラRS」を追いつめた漫画『サーキットの狼』世代としては、“柔よく剛を制す”の姿勢がかっこいいと思えるのだ。
という個人的な思い出はどうでもいいとして、吸い込まれるようにシフトが決まる抜群のフィーリングが味わえる6段MTを駆使し活気にあふれるエンジンを回していると、ちょっとだけ体温が上がって、気分も上がって、身体も元気になるような気がする。やっぱりスポーツカーはいいものだ。
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電光石火の俊敏な反応
幸運にも、この日は200台限定の「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」(参照)とかわりばんこに試乗することができた。「コアモデル」と呼ばれる2200台限定のマツダ スピリット レーシング・ロードスターとマツダ スピリット レーシング・ロードスター12Rのエンジンの違いは、大きく3点。音、(微妙な)レスポンス、そして6000rpmより上の領域での伸びやかさとパンチ力だ。
まず音に関しては、コアモデルが快音だとすると12Rが美爆音。コアモデルも抜けのよい健康的な排気音で、乾いた音質も耳に心地よい。
いっぽう12Rは、フジツボと共同開発したチタン製マフラーのソリッドな音質と、音圧という表現を使いたくなるほどの迫力ある音量が特徴だ。こちらは深夜の住宅街では慎重に扱う必要があるくらいのボリューム。しかし、単純に音がデカいだけではない。回転の変化とともに表情が変化する繊細なチューニングが真の魅力だ。「ちっくしょう、うらやましいぜ」と思われた方には、この排気系だけマツダの販売店で購入できることをお伝えしたい。
アクセル操作に対するレスポンスは、コアモデル単体で乗ればまったく不足を感じないというか、むしろ電光石火の俊敏な反応を見せる。けれども12Rと同条件で直接乗り比べると、多少の違いがある。12Rはレスポンスが速いというより、エンジンの手ざわりにパンと張りがあって、寄らば斬るという雰囲気がムンムンしている。このあたりは、クラフツマンによる手作業のたまものか。
ヒール&トウなど、シフトダウン時の中ブカシ(ブリッピング)で12Rのほうがエンジン回転の上昇が速いと感じるのは、コアモデルのフライホイールがデュアルマスであるのに対して、12Rがシングルマスを採用しているからだろう。
もうひとつ、12Rは6000〜6500〜7200rpmのレブリミットにかけて、2段ロケットと書くと大げさだけど、もうひと伸びがある。同時に、最後にグイッと絞り出すようにパンチを繰り出す。ただし比較するとそういう違いがあるものの、コアモデルもレブリミットまでストレスなくきちんと回るスポーツカーらしいエンジンを積んでいることは強調しておきたい。
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バランスよくまとまっている
せっかくなので、コアモデルと12Rの乗り心地とハンドリングの違いについてもふれておく。
両車とも、剛性感のあるしっかりとしたライドフィールでありながら、決してピョコタンすることのない、落ち着いた乗り心地であることは共通している。固いは固いけれど、スマートな固さで、乗り心地については甲乙つけがたい。
ハンドリングに関しては、しゃらりしゃらり、ひらりひらりと舞うようにコーナーをクリアしていくコアモデルのほうがロードスターらしさは色濃い。12Rはもっと速度域が高くて高負荷のGがかかるサーキット走行を想定しているようで、ワインディングロードで多少頑張るくらいの走り方だと、ガッチリしているしよく曲がるけれど、限界がみえない。コアモデルがブリヂストンの「ポテンザS001」を装着していたのに対して、12Rがヨコハマの「アドバン ネオバAD09」というサーキット走行を視野に入れたタイヤを履いていたという違いもあるかもしれない。
エンジンも足まわりも、コアモデルは街乗りからワインディングロードまでバランスよくまとまっているいっぽうで、12Rはサーキットに重心を置いたとがった仕上がりになっている、というのが結論だ。
あとひとつ、コアモデルには12Rに設定されない9スピーカーのボーズのサウンドシステムが備わることは記しておきたい。特に屋根を開けて走るとオーディオの音質の違いは歴然で、ま、12Rは音楽ではなくマツダミュージックを聴けということなのかもしれない。
というわけで、12Rが魅力的であるのはもちろんではあるけれど、コアモデルも感心するほどの仕上がりだった。
「いつかは(再び)ロードスター」の筆者としては、以前に設定された「990S」に代表される、素の仕様が好ましいと感じていた。けれども初代NAの面影を追いかけるのではなく、マツダ スピリット レーシング・ロードスターのような進化版を選ぶのも前向きでよいのではないかと思えてきた。あくまでプライスタグを見なければ、という前提はありますが。いずれにせよ、釣りが鮒(ふな)に始まり鮒で終わるように、ロードスターでクルマ趣味をまっとうするのは幸せなことだと感じながら試乗を終えた。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=マツダ)
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テスト車のデータ
マツダ スピリット レーシング・ロードスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1245mm
ホイールベース:2310mm
車重:1070kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:184PS(135kW)/7000rpm
最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:15.2km/リッター(WLTCモード)
価格:490万0500円/テスト車=526万5700円
オプション装備:特別付属品MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER KIT<フロントアンダースカート、リアスポイラー、サイドアンダースカート、リアアンダースカート[ブリリアントブラック]、フロアマット、ホイールナットセット[ブラック]>(36万5200円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:4596km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:208.6km
使用燃料:12.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.4km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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