トヨタ・プリウスAプレミアム“ツーリングセレクション”(FF/CVT)
着実な進化を感じる 2016.02.27 試乗記 2015年12月の発売以来、好調な販売が伝えられる新型こと4代目「トヨタ・プリウス」。最上級グレード「Aプレミアム“ツーリングセレクション”」の試乗を通し、従来モデルからの進化のほどを確かめた。外観デザインに見る今日のトヨタの強み
発表から2カ月ちょっとだというのに、もう街中でちょいちょいと見かけるようになってきた。新型プリウスの話である。月2万台超のペースで登録は進んでいるが、受注残は軽く10万台オーバー。最新の情報では一番人気のグレード、「Aプレミアム」系での納期は7~8カ月になるという。
これほどのペースで数が増えていけば、日本の津々浦々で見かけるようになるのにそう時間は掛からないだろう。ということになるとなおのこと、気になるのはそのデザインだ。クルマ好きの間では賛否両論が渦巻いていることは、SNSなどを通じて感じていた。僕の周りでいえば、どちらかといえば否の方が多いようにうかがえる。
その多くがいぶかしがるのは顔と尻。つまり強烈な前後のグラフィックだ。トヨタデザインのグローバルキーワードであるキーンルックがことさら強調された格好だが、それは新しいものにあふれた東京の路上でも前衛的に映るほどだ。それゆえ、保守的な嗜好(しこう)でみれば相当な違和感を抱くのはよくわかる。
今のトヨタの強さは、賛否が必至であろう選択肢に進んで臨んでいることだ。「アルファード」しかり、「シエンタ」しかり。変化を拒むものに未来はないとばかりに吹っ切れた姿勢の向こうには、数的趨勢(すうせい)をもって目慣れさせることも織り込まれているのかもしれない。いずれにせよ、国内シェア50%のメーカーが繰り出す中核車種でのパワープレーは、他メーカーにとって相当厄介だろう。
中も外も、芯の部分は変わっていない
とはいえ個人的には、新型プリウスのデザインの芯にはそれほどの変化を感じてはいない。基本的なプロポーションは20系こと2代目以降、同じ路線を踏襲しており、サイドビューは今回も一目瞭然でプリウスである。それは4.5m程度の全長で0.25付近のCd値を得るための最適解であり、「シボレー・ボルト」や「ヒュンダイ・アイオニック」が「似ている」と言われたのは、効率を選択するにそれ以上の答えがないからだろう。
その実、新型プリウスは骨格そのものを完全刷新している。トヨタの新しいプラットフォームである「TNGA」は、車体剛性やサスペンションの取り回しはもとより、衝突安全性能を確保しながら重心高の大幅な低下を実現した。それが象徴的に表れているのがフロントカウル部で、先代に対して実に62mm低く採られたそれは、前方視界を大きく広げただけでなく、車体の胴回りをすっきりさせることにも貢献している。先述の空力的理由から、リアデッキの高いプリウスはどうしても後端に向けてベルトラインがキックアップするグラフィックを採らざるを得ず、それが斜め後方の視界を悪化させてはいるが、今後このアーキテクチャーを用いて作られる他のトヨタ車は、天地に均整のとれたスリークなプロポーションをかなえられるかもしれない。
エクステリアのインパクトに対すればインテリアの造形は既定路線で、センターコンソールの造形などは先代に対してむしろ保守的になった感がある。スイッチ類もすっきりと整理されており、ドライビングポジションやインターフェイスなどもより自然になった反面、プリウスに望まれる未来の表現という点では若干後退したかなというのが率直な印象だ。汎用(はんよう)性や交換コストなどで有利なDINサイズのインフォテインメントシステムも、デザイン的な足かせになっているのかもしれない。湾曲型の液晶パネルや高精細なHUD(ヘッドアップディスプレイ)など、車両情報の表現能力や配置自由度は徐々にあがりつつあるが、それらがプリウスのデザインに反映できるようになるのは次の世代だろうか。
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飛躍的に改善された走りの質
先代に対して新型プリウスが最も大きく進化したと思われるのは動的な質感だ。それは東京の路上を普通に走ってみても十分に感じることができる。タウンスピードでの乗り心地、特にロール方向の微小な左右動が抑えられたことで感じられるしなやかなライド感は、リアダブルウイッシュボーンの四輪独立うんぬんというサス形式以前に、四肢が微速域から素直にしなやかに動いていることの証しともいえるだろう。そして高速域になると、目地段差や連続的な凹凸で盛大に発生していたピッチングが劇的に減り、上屋がフラットに保たれていることに驚かされる。
従来はパッケージや生産性が優先され、スプリングやダンパーの動きを規制しない理想的なアームレイアウトが採りにくかった、それがTNGAの開発にあたって大きく改められたというのは、プリウスのサス設計の担当者から聞いた話。ボンディングやレーザースクリューウェルディングといったボディー接合もしかりだが、車両開発に関して強大な権限を持つ生産技術部門のマインドセットが大きく変わったことが、このところのトヨタ車のドライバビリティーを大きく変貌させた理由であることは間違いない。
そしてパワートレインの進化は、日本の法定速度域内において大きな利をもたらしている。走行時にエンジンが稼働する際の音や振動というシグナルは、もはやほとんど感じられないほどに小さい。60~90km/h付近からの常識的な加速では、モーター使用領域の拡大によってエンジンの“無駄ぼえ”が大きく抑えられ、アクセルの踏み込みに応じてリニアな加速が得られるようになった。フロア下からのロードノイズもしっかり抑えられているから、車室内に入り込む雑音で最も大きいのは今やピラー周りからの風切り音かもしれない。100km/h以下の速度域で走らせるぶんには、「クラウン」並みに静かな車内環境といえるだろう。
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進化を支える自動車技術の成熟
ちなみに、法定速度を超える領域についても、以前クローズドコースにおける試乗でテストしたが、アウトバーンの推奨速度である130km/h以内であれば、その加速感にさしたる不満は抱かなかった。ただしエンジンの稼働域が増していくにつれ、音と加速感が一致しないCVT的な悪癖が徐々に印象の多くを支配するようになってくる。とはいえ、これを改善すべくエンジンの出力を高めるのはプリウスの趣旨に反するところだ。そういう意味でも、この動力性能は日本のトラフィックによく見合っている。
新型プリウス、試乗時の燃費はおおむね23km/リッター前後というところだった。街中で普通に乗っても20km/リッター、高速巡航なら25km/リッターを上回る燃費を期待できる。1997年型の初代プリウスを所有していた時の“実感値”に照らせば、ざっと3割以上は低燃費になった。一方で、動力性能は体感的に5割近く上がっているだろうか。1997年にはインターネットも電話経由だったIT技術に比べれば、その進化は大したものには見えないかもしれないが、130年という自動車史の中で積み上げてきた成熟がバックボーンにあってのことと思うと、それはやはりご立派なことである。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
トヨタ・プリウスAプレミアム“ツーリングセレクション”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1760×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98ps(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)/3600rpm
モーター最高出力:72ps(53kW)
モーター最大トルク:16.6kgm(163Nm)
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(トーヨー・ナノエナジーR41)
燃費:37.2km/リッター(JC08モード)
価格:319万9745円/テスト車=361万2845円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッド>(5万4000円)/ITS Connect(2万7000円)/ナビレディセット<バックカメラ+ステアリングスイッチ>(3万2400円)/プリウス専用T-Connectナビ 9インチモデル DCMパッケージ(29万9700円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2116km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(4)/山岳路(0)
テスト距離:243.0km
使用燃料:10.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:23.8km/リッター(満タン法)/20.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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