ポルシェ924(FR/4MT)/924カレラGT(FR/5MT)/944ターボ(FR/5MT)/928S(FR/5MT)
駆動方式は違えども 2016.06.02 試乗記 ポルシェが「911」に代わる主力車種として、1970年代から1990年代にかけて送り出した一連のFRモデル。最初のモデルである「924」のデビューから40年を迎えた今、トランスアクスルレイアウトにこだわり続けたこれらのモデルの実力を、あらためて試す機会を得た。「911」に代わる主力モデルへの挑戦
「ボクスター」の成功を皮切りに、次々とヒットを飛ばしつつめくるめく変貌を遂げてきたポルシェのビジネス。今や新興市場においては、「カイエン」や「パナメーラ」の方がブランドアイコンとして根付いているところもあるというから、それもまた彼らにとっては痛しかゆしといったところではないだろうか。
しかし、そのボクスターの成功に至るまでが実に長かったことはご存じの通り。中でも、一世一代ともいえるプロジェクトは1970年代、911に代わるまったく新しいモデルラインナップの構築だった。
「924」と「928」。ポルシェはこの2台で911を間に挟み込み、自らのスポーツイメージをそちらへと移行させようと試みた。FRモデルである両車に共通するメカニズムはトランスアクスル、つまりトランスミッションを後軸側に置くことで重量配分の最適化を図ろうというものだ。現在も一部のスーパースポーツ系が採用するそのレイアウトは、コストや生産精度の要求値が大きく、気軽に用いられるものではない。しかしそれは、911の後を担わせるもくろみの両車にとっては必須と判断されたのだろう。
924の登場から40周年を迎えた2016年、それを記念してシュトゥットガルトのポルシェミュージアムでは、10月16日まで「トランスアクスルの時代」と銘打ったマニアックな企画展が催されている。今回、その企画展の取材の一環として、「924」から「968」までの4気筒FRシリーズと928シリーズの試乗機会を得た。
平凡な動力性能、非凡な旋回バランス
「914」に代わる新たなエントリースポーツとして企画された924、つまりそれは当初、フォルクスワーゲン(VW)との共同プロジェクトだった。が、経営状況の悪化やオイルショックなどの要因でVW側が撤退したことによって、途中からはポルシェ単独のプロジェクトとして開発が進められることになる。
1976年のオリジナルモデルは、メーター類やスイッチ類など、室内の端々からもVW側からの部品調達による原価圧縮の面影がうかがえる。搭載するエンジンはアウディのFF用4気筒に手を加えた上で縦置きとし、足まわりもまたVWやアウディのコンポーネンツを随所に用いた混成……と、とにかく使えるものは総動員している。ここまでやる一方でトランスアクスルは譲らないというあたり、ポルシェの絶対的なこだわりだったのだろう。
エンジンのパワーは本国仕様でも125ps。速い遅い的な価値軸でみれば、924の走りは当時の水準をおもんぱかったとしてもまったく凡庸だ。が、コーナリングのバランスは素晴らしい。バネやショックアブソーバーの設定は柔らかめだから姿勢変化は大きいが、ドライバーの実感値が小さいのはロール軸の設定が上側にあるからだろう。グリップレベルが高く感じられるのは接地の面変化が小さく抑えられているからだろうか。特に924はタイヤがきゃしゃなこともあって、ドライブフィールはなんだか往年のフランス車を思い出させるところがある。
国産スポーツがお手本とした走り
実はこのハンドリングキャラクターは、クルマが944になろうが968になろうが、基本的には変わらない。今回はグループ4用のホモロゲーションモデルである「924カレラGT」にも触れることができたが、往年のターボらしいドッカンパワーを支えるシャシーは、拡大したトレッドぶんを差し引いてなお、しなやかで素直で、直進性もピシッとしている。ともあれ全域で接地感は豊富なのに操舵(そうだ)に重苦しさはない。そして舵(だ)の切り始めのゲインはおっとり立ち上がるのに旋回は機敏……と、この924カレラGTで実現した動的な資質が、より洗練されたかたちで後の944にしっかり反映されていた。
中でも「944ターボ」は「日産スカイライン」や「トヨタ・スープラ」「マツダRX-7」など、平成の日本を彩ったスポーツモデルたちが軒並み開発のベンチマークとしたモデルだ。さすがにエンジンのレスポンスに過給の癖は残るも、シャシーの側はこの時期、断片的だった美点が一糸につながり、ひとつの完成をみていたようにうかがえる。そのハンドリングをあえて例えれば、「W124」系や「W201」系のメルセデスのそれにスポーツカーとしての敏しょう性や限界能力を加えた感じ……というのが偽らざる印象だ。
今も昔もポルシェを支えているもの
日本では半ば失敗的な扱いとなっている924~968のシリーズは、累計で20万台を軽く上回る販売を記録している。つまり、立派にポルシェのエントリースポーツとしての役割を果たしていたわけだ。対すれば、928の存在感は車格やスペックの割には薄いと言われても仕方がないものかもしれない。
こと日本においては流通の大半がATだったこともあり、本来のレスポンスがまったく味わえていなかった……ということを知るに至ったのは、1979年型の「928S」をMTで乗ることができたからだ。前期型にあたるそれは4.7リッターのV8を搭載、本国仕様で300psを発生する。928シリーズの中ではごく普通のスペックだが、トルコンを介さないエンジンのピックアップは素晴らしくシャープで、当時は大柄だった車体を飄々(ひょうひょう)と走らせる。そしてシャシーバランスの良さは924からの流れをしっかり受け継いでおり、安心してコーナーに対峙(たいじ)することができる。米国市場でもてはやされるラグジュアリーニーズもくもうとしたがゆえ、当時のライバルといえば「フェラーリ308GTB」からメルセデスのR107系「SL」やBMWの「6シリーズ」と多岐にみられるが、928Sの完成度はそれらのどれと比べても見事なものだ。当時のアベレージを鑑みれば、これは安定感や快適性も同居させたとんでもないスーパースポーツだったはずである。
トランスアクスルの歴史が途絶えたことは、911を唯一無二のアイコンとすることができたポルシェのブランドイメージにとって、結果的に御の字だったのかもしれない。が、FRを手がけたところで、唖然(あぜん)とするほどのシャシーを仕上げる能力を見せつけられると、やはり彼らの芯を支えているのは、技術とセンスであるということをあらためて実感する。
(文=渡辺敏史/写真=ポルシェ)
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テスト車のデータ
ポルシェ924
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:1080kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 SOHC 8バルブ
トランスミッション:4MT
最高出力:125ps(92kW)/5800rpm
最大トルク:16.8kgm(165Nm)/3500rpm
タイヤ:--
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1976年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ポルシェ924カレラGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:1180kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 SOHC 8バルブ ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:210ps(154kW)/6000rpm
最大トルク:28.6kgm(280Nm)/3500rpm
タイヤ:--
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1979年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ポルシェ944ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:1280kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 SOHC 8バルブ ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:220ps(162kW)/5800rpm
最大トルク:33.7kgm(330Nm)/3500rpm
タイヤ:--
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1985年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ポルシェ928S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:1450kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:4.7リッターV8 SOHC 16バルブ
トランスミッション:5MT
最高出力:300ps(221kW)/5900rpm
最大トルク:39.3kgm(385Nm)/4500rpm
タイヤ:--
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:1979年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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