【F1 2016 続報】第17戦日本GP「ロズベルグ、3度目の正直」
2016.10.09 自動車ニュース![]() |
2016年10月9日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたF1世界選手権第17戦日本GP。鈴鹿で2年連続ポールポジションを獲得しながらルイス・ハミルトンに連敗を喫していたニコ・ロズベルグが、今年、3度目の正直でポール・トゥ・ウィンを達成、同じメルセデスでタイトルを争うルイス・ハミルトンはコースの内外で帳尻を合わせられず3位に終わった。
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■残り5戦の頂上対決
トップを快走していたルイス・ハミルトンのメルセデスが突如炎と白煙をあげストップ――前戦マレーシアGPでのショッキングな出来事が記憶に新しいまま、GPはF1初開催から30年目を迎えた鈴鹿サーキットにやってきた。
もしセパンでハミルトンがあのまま勝利し、タイトルを争うニコ・ロズベルグが4位でゴールしていたら、チャンピオンシップでは再びハミルトンが首位に立ち、ランキングで2位に落ちたロズベルグを5点突き放し、残り5レースに向かえたはずだった。しかしあのトラブル、あのノーポイントで、マレーシアで3位表彰台をものにしたロズベルグに23点ものリードを許すことになってしまい、いよいよハミルトンには余裕がなくなってきた。
メルセデスのパワーユニットを搭載するマシンはカスタマーチームを含め計8台もあるというのに、なぜハミルトンのパワーユニットに限りトラブルが起こるのか。既に中国GPとロシアGPでマシンの不調に足を引っ張られていただけに、ハミルトンの心にあったチームへの疑念が、その口を突いて出てきた。マレーシアでのリタイア直後、「自分にはどうすることもできないところで、何かがおかしくなっている」とコメント。誰か(何か)が故意に自分の邪魔をしているのではないかという考えをハミルトンが匂わせると、メディアは色めきだった。その後、ハミルトン、メルセデスとも両者の信頼関係を再確認する発言を繰り返し火消しにまわっていたが、少なくともハミルトンのフラストレーションの高まりを感じさせる出来事ではあった。
ハミルトンの戦いをメルセデスが邪魔するということは、いくらなんでも考えにくい。巨大自動車メーカーが最も避けたいのは、技術的な失敗であるメカニカルトラブルを衆目にさらすことなのだ。あるドライバーにトラブルが集中する事例は過去にも多くあり、ロズベルグもまた、タイトル決定戦となった2014年最終戦でパワーダウンに見舞われ涙をのんだことがあった。
メルセデスはマレーシアでのエンジンブローがエンジンのクランクシャフトのベアリング故障に起因していることを突きとめたが、抜本的な対策をするにはあまりにも時間が短すぎたため、カスタマーチームを含めパラメーターやオイルの変更で何とか乗り切ることにした。
残り5戦で得られるのは125点満点。ハミルトンは、1勝分に近い23点差をはね返さなければならず、鈴鹿での勝利が何としても欲しかった。しかし、ロズベルグとてそれをやすやすと許すわけにはいかなかった。
3年目のメルセデス頂上対決は、ワールドクラスのドライバーたちがこぞって世界最高との評価を与える鈴鹿サーキットで、いよいよ佳境に入っていった。
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■ロズベルグ、0.013秒差で3年連続ポール
鈴鹿での過去2年の戦績は、ロズベルグが2年連続でポールポジションから2位、ハミルトンは予選2位から2連勝と、メルセデスの圧勝は変わらないものの、予選と決勝で2人の明暗がはっきりと分かれていた。
一発の速さについては実証済みのロズベルグは、3回のフリー走行すべてで最速タイムを記録し、順調な仕上がりのまま予選へと突入。トップ10グリッドを決めるQ3は上位6台が0.6秒の中にひしめき合う接戦となったが、しっかりと一周をまとめあげたロズベルグが今季8度目、通算30回目となるポール奪取に成功した。ハミルトンは0.013秒、距離にして82cmの差で2番グリッド。この並び順は3年連続となる。
メルセデス最前列の後ろにはフェラーリ勢が続き、キミ・ライコネン3位、セバスチャン・ベッテル4位と健闘したものの、ベッテルはマレーシアでの接触のペナルティーで6番グリッド、ライコネンもギアボックス交換で8番手スタートに落ちた。
3番グリッドに繰り上がったのはレッドブルのマックス・フェルスタッペン、4番グリッドは僚友ダニエル・リカルドが獲得、フォースインディアのセルジオ・ペレスが5番グリッドからスタートすることとなった。難コースで2台そろってQ3進出と大健闘したハースは、ロメ・グロジャン7番手、エステバン・グティエレスは10番手。フォースインディアのニコ・ヒュルケンベルグは9番手スタートとなった。
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■ハミルトン、スタートで8番手に後退
曇り空の決勝。シグナルが消えるや、2番手スタートのハミルトンの加速が鈍く、後続集団にのみ込まれ一気に8番手に後退。トップはロズベルグのまま、2位にフェルスタッペン、3位ペレス、4位にベッテルが上がり、遅いハミルトンに付き合わされた格好でリカルドは5位に落ちた。ハミルトンは「すまない」と無線でチームに伝え、自らのミスをカバーすべく、抜きにくい鈴鹿で巻き返しを図ることになった。
首位を走るロズベルグは数周で2位フェルスタッペンとの間に5秒強のギャップを築き、以降はタイヤマネジメントを怠らず、53周レースをトップからコントロールした。
10周目を境に各車タイヤ交換のタイミングを迎え、ピットが慌ただしくなる。先頭集団が最初のピットストップを終えると、1位ロズベルグ、2位フェルスタッペン、3位ベッテル、ロングラン作戦を採るウィリアムズ勢を間に挟み、後ろからハミルトンが猛チャージを仕掛け6位に上がっていた。
20周を過ぎた時点で、ファステストラップを更新するロズベルグがフェルスタッペンとの差を4秒にまで拡大。フェルスタッペンと3位ベッテルとの間にはさらに2秒半のギャップがあり、ウィリアムズを抜き4位まで挽回していたハミルトンは、表彰台のために10秒以上タイムを縮めなければならない場所にいた。
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■33点ものアドバンテージ
レースも折り返し地点を過ぎた29周目にフェルスタッペンが2度目のタイヤ交換。翌周にはトップのロズベルグもピットへ飛び込み、両車ハードを履いてゴールまで走り切ろうとした。
トップ2が決着したかに見えた一方で、表彰台の最後の一角をかけた争いは白熱。タイヤ交換のタイミングで暫定首位を走っていたベッテルは周回遅れに邪魔され、また自身のペースも振るわず、35周目にタイヤ交換から戻ると、前周でピットに入っていたハミルトンにアンダーカットされ4位に落ちた。今年何度も見られた、フェラーリのポディウムからの脱落である。
3位まで順位を回復してきたハミルトンは、余勢をかって2位フェルスタッペンとの差を縮め、残り10周になるとギャップは1秒以下の接近戦となった。しかしトラクションに優れるレッドブルはストレートに入ってもなかなか隙を見せず、残り1周となった時点でハミルトンがシケインで仕掛けた際にもフェルスタッペンが応戦、そこで時間切れとなった。
ロズベルグは3度目の正直で、日本GPでのポール・トゥ・ウィンを達成。33点もの大きなアドバンテージを持って、アメリカ、メキシコ、ブラジル、アブダビの残り4戦に向かうことになった。仮にハミルトンが最終戦まで4連勝、ロズベルグがすべて2位で終わっても、2人の順位は変わらないほどの大きなポイント差だ。タイトル争いでも「3度目の正直」となるだろうか?
一方のハミルトンにしてみれば、マレーシアで折れた心を癒やす間のないまま迎えた週末だったのかもしれない。スタートでの失敗は今年何度かあったが、コース外でもメディアとの関係がギクシャクするなど、集中しきれていないように見えた。
次戦までは2週間。王者が自信を取り戻すには十分な時間のはずである。テキサスでのアメリカGP決勝は、10月23日に行われる。
(文=bg)