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いよいよシーズン到来!
最新スタッドレスタイヤのトレンドは?

2017.10.13 デイリーコラム 河村 康彦
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ミクロレベルで働くタイヤ

北国からは、早くも初降雪のニュースがちらほら。となると気になるのが「クルマの冬支度」。ひと昔前のように冷却水の不凍液濃度を気にする必要はほとんどなくなった一方で、今も気にしなければならないのが冬用タイヤへの履き替えだ。

年配の人の中には、「何だか最近の冬用タイヤは見た目が頼りないな」と感じる人もいるはず。そう、いまどきの冬タイヤのトレッドパターンは、昔に比べると“ゴツさ”が影を潜めている。その違いこそ、冬用タイヤが「スノータイヤ」から「スタッドレスタイヤ」になったことによる変化だ。スノータイヤのトレッド面に打ち込まれた金属製のびょう(スパイク)が氷に食い込んで物理的なグリップ力を発生させていた1980年代までのスパイクタイヤに対し、日本では1982年に登場したスタッドレスタイヤは、特に氷上でのグリップ力の発生原理がまったく異なっているのである。

実は、歩けば靴の跡がハッキリ残るような新雪上では、グリップ力を発揮するためにトレッドパターンが決め手になるのは変わらない。昔よりおとなしくなったとはいえ、夏用タイヤと比べればゴツいパターンを採用しているのは、見比べればすぐに分かるだろう。

ちなみにそんな新雪状態に限れば、夏用タイヤでも意外に走れてしまったりする。けれども、その上をクルマが1台通っただけでも、路面は硬く締まった文字通りの圧雪状態へと変化するし、直射日光で溶けだした雪も夜になればたちまちアイスバーンと化す。こうなると、夏用タイヤでは手も足も出ない。降雪の中を「まだ走れるから」と出掛けるのは極めて危険だし、愚の骨頂の行為なのだ。

その点、スタッドレスタイヤの考え方は、「凍った路面上でのグリップ力は、低温でも硬くならないゴムを使って、氷の上面の目に見えないほど細かな“ミクロの凹凸”を包み込むことで発生させる」というものだ。

冬季、雪や氷に覆われた道で活躍するスタッドレスタイヤ。写真は2017年9月に発売された、横浜ゴムの新製品「アイスガードiG60」。
冬季、雪や氷に覆われた道で活躍するスタッドレスタイヤ。写真は2017年9月に発売された、横浜ゴムの新製品「アイスガードiG60」。拡大
スタッドレスタイヤの多くは、左右非対称なトレッドパターンが採用されている。イン側は氷上でのグリップ力を高め、アウト側は雪上でのトラクション性能を確保するなど、部分的に特性が異なる。
スタッドレスタイヤの多くは、左右非対称なトレッドパターンが採用されている。イン側は氷上でのグリップ力を高め、アウト側は雪上でのトラクション性能を確保するなど、部分的に特性が異なる。拡大

「普通のタイヤ」としても優秀

滑りの原因は、路面を踏み込んだことで溶けだし、路面とゴムの間に生み出される“ミクロの水膜”。冷蔵庫の製氷皿から取り出したばかりの氷はつかめても、時間がたって溶けだした氷はどうにもつかみづらい……というあの現象が起きているのだ。

その対策として、トレッドパターンに「サイプ」と呼ばれる極めて細かな溝がビッシリと刻まれているのが、スタッドレスタイヤならではの特徴。これは前述の水膜から水分を一時的に取り去り、ゴムを直接路面に触れさせるための「ミクロの貯水槽」でもある。タイヤが路面に触れた瞬間に吸水し、1回転して次に接地するまでの間にそれを排水する――スタッドレスタイヤで氷上を走ると、そんな事が目にも止まらぬ速さで行われているのである!

こうして、スタッドレスタイヤが氷上でグリップ力を生み出す原理が、「金属製のびょうを氷上に打ち込む」というかつてのスパイクタイヤの理屈とは全く異なることがお分かりいただけるはず。ちなみに、まだスパイクタイヤの使用が許された氷上ラリーなどで極端に細いサイズを用いるのは、面圧を高めてスパイクをしっかり打ち込むため。一方、スタッドレスタイヤの場合、氷上でより大きなグリップ力を得るためにはできるだけ多くの面積を路面に触れさせることが重要。同一のサイズ表記でも実際のトレッド幅をより大きく採るため、夏用タイヤに比べてはるかに角ばったプロポーションになることが多いのもそんな理由からだ。

というわけで、各社から発売されるスタッドレスタイヤがまず競い合っているのが、「ミクロの吸水性能を高め、低温下でも硬くならないグリップに優れたゴムを、いかに氷上に直接タッチさせるか」という最もハードルの高い技術なのである。

同時に最近のトレンドは、舗装路面での操縦安定性や静粛性、さらには燃費性能や耐摩耗性など、「普通のタイヤ」としても高い性能を実現させること。これは昨今、東京都心など通常は非降雪の地帯でも冬季になると履き替え需要が高まりつつあることを鑑みての対応だ。かくして最近のスタッドレスタイヤは舗装路上を走行しても、ノイズはさして気にならず、かつての製品のようにフラフラと落ち着かない挙動を示すことも減りつつある。

雪が降ったら絶対乗らない! と決め、終始夏タイヤのまま過ごすというのも、もちろんひとつの方策。けれども、これまで「自分には関係ない」と思っていた人も一考して良さそうなほど、バランスの取れた性能を持ちつつあるのが、最新世代のスタッドレスタイヤなのだ。

(文=河村康彦/写真=横浜ゴム、ブリヂストン/編集=関 顕也)
 

こちらは、「ブリヂストンVRX2」。昨シーズンまでの従来製品に比べ、特に氷上性能と静粛性、摩耗ライフが向上したとアピールされる。
こちらは、「ブリヂストンVRX2」。昨シーズンまでの従来製品に比べ、特に氷上性能と静粛性、摩耗ライフが向上したとアピールされる。拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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