第9回:新型「XC60」のPHEV、その実力に迫る
大人のグランドツアラー 2018.01.23 徹底検証! ボルボXC60 「ボルボXC60」のPHEV、「T8 Twin Engine AWDインスクリプション」で京都へ。高速道路から昔ながらの狭い路地まで、往復1000kmを走ってわかった真の実力とは? 全方位的な進化を遂げたという新型の、デザイン、快適性、乗り味にいたるまでチェックした。XC60のフラッグシップ
21世紀になってボルボは大きく変貌を遂げた。スウェーデン生まれのボルボは、安全思想を第一に掲げ、質実剛健なクルマづくりを売りにしている。最近のボルボは、先進の安全装備に加え、走りの実力も大きくレベルアップした。また、伝統の味わいを醸し出す良質なスカンジナビアンデザインには洗練されたファッション感覚を盛り込んでいる。だからクルマを知り尽くしたベテランだけでなく、若い人がステアリングを握っても似合うクルマになった。
2017年10月に上陸した、ボルボの主力モデルがXC60だ。クロスオーバーSUVの新境地を切り開いた先代は世界中でヒットし、人気者となっている。このXC60が8年ぶりにモデルチェンジされた。兄貴分の「XC90」と同じようにプレミアム感とともに走りの質感も高めている。自慢の安全装備と運転支援機能にも磨きをかけた。その真の実力を知るために、1000kmのロングドライブにトライした。パートナーに選んだのは、フラッグシップのT8 Twin Engine AWDインスクリプションだ。
ボルボは「Drive-E」というモジュール化コンセプトのパワートレイン戦略をとっている。基本となるのは2リッター直列4気筒DOHCエンジンで、これにターボなどを組み合わせてパワーアップを行う。T8が搭載するのは、ターボとスーパーチャージャーを併用した高性能エンジンだ。パフォーマンスは最高出力318ps/最大トルク400Nmで、これに同46ps/同160Nmのフロントモーター、同87ps/同240Nmを発生するリアモーターが加わる。パワフルなだけでなく優れた環境性能も実現した。
「T8」は、分かりやすく言うとプラグインハイブリッド車である。容量10.4kWhのリチウムイオンバッテリーを積み、一充電でEV走行できる航続距離はカタログ値で45.4kmだ。「Pure」モードをチョイスすれば、電動モーターだけで走行する、CO2を排出しない地球にやさしいゼロエミッションカーになる。駆動方式はAWD(オールホイールドライブ)のグレード名から分かるように全輪駆動だ。エンジンを使って前輪を、電気モーターを使って後輪を駆動し、これを状況によって上手に使い分ける。
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北欧生まれの快適インテリア
ボルボは、XC90からインテリアのデザインテイストを大きく変えた。インストゥルメントパネルは水平基調のシンプルなデザインだ。すっきりとしたまとまりで、心地よい。フル液晶のメーターディスプレイや流木をイメージしたウッドパネル、クリスタルのシフトノブなどが新鮮である。
センターに配置した9インチの縦長タッチスクリーン式ディスプレイも見やすい。USBポートにiPhoneを接続するとアップルのCarPlay経由でセンターディスプレイから操作できるのも親切だ。もうひとつ便利だと感じたのは、フロントウィンドウに映し出されるヘッドアップディスプレイである。
フロントシートは大ぶりで、シートポジションも調整しやすかった。先代より全高は低くなっているが、ガラスサンルーフ仕様でも頭上には十分な空間が残されている。後席も満足できる広さだ。先代よりホイールベースを延ばしているため、足元は広い。造りのいいシートに快適なシートヒーターの組み合わせだから気持ちよく座れる。今回は3人でのドライブだったが、後席でもリラックスできるから会話が弾んだ。また、この手のクルマとしては乗降性も悪くない。
ラゲッジルームも満足できる広さを確保している。後席に人が乗った状態でも荷室は1m近い奥行きがあり、横方向はそれ以上の寸法だ。フロア形状がいいし、地面からの高さも60cmほどだから荷物を積むのもラクだった。USBポートを2つ備えているのも親切である。リアゲートは、小柄な人だとちょっと高く感じる。これが惜しいところだ。
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モード切り替えで思い通りの走りに
最近のボルボ車は、スタータースイッチをセンターコンソールに設置し、操作性を向上させた。左手でシフトレバーの四角いスタータースイッチを右にひねり、システムを立ち上げる。パワーと効率が最適になるようにエンジンと電気モーターを最適にコントロールする「Hybrid」モードを使うのが一般的だ。が、満充電に近かったので、高速道路までの一般道は、モーターのみで駆動する「Pure」モードで走行してみた。
モーター走行は快適だ。パワーとトルクが瞬時に立ち上がり、気持ちいい加速を誰でも引き出すことができる。流れの速い道も苦にならない。しかもアクセルを深く踏み込んでもキャビンは驚くほど静かだ。ゴーストップを繰り返す市街地の走りで、気になる電費は3.4km/kWhを示した。バッテリー容量は10.4kWhだから34kmほどEV走行できる計算になる。
東名高速道路に入ると、バッテリーの残量が少なくなってきた。そこでローラースイッチをフリックしてHybridモードに切り替える。高速道路の走りも快適だ。本線へのランプ進入では瞬発力鋭い加速を披露し、無理なく安全に合流できた。追い越しも余裕でこなす。当日は3人乗車で荷物もたくさん積んでいたが、アクセルを踏み込むとレスポンス鋭く過給機が反応し、冴(さ)えた加速を見せつける。勾配のきつい登坂路もまったく苦にしない。
エンジンは4気筒だが、モーターの後押しもあり、マルチシリンダーのような上質なパワーフィーリングだ。応答レスポンスは鋭いし、滑らかさも際立っている。8段ATも気持ちよく変速し、応答レスポンスも鋭い。静粛性も高級セダンと変わらない実力を秘めていた。遮音対策を徹底していることもあり、後席でも声を高めることなく会話を楽しめる。また、プレミアムサウンドオーディオシステムが奏でる好みの音楽を存分に楽しむこともできた。走行中の不快な振動もうまく封じている。
12.3インチのデジタル液晶ドライバーディスプレイは走行中でも情報が見やすい。高速走行では視点を遠くに置くヘッドアップディスプレイも重宝した。アップライトなドライビング姿勢と相まって視界がいい。ディスプレイの視認性は文句なしだ。上質な味わいのインテリアの魅力はそれだけではない。最新のボルボは、操作系スイッチの配置にも気を配っている。タッチパネルを含め、スイッチ類が操作しやすい。また、使ってみると快適だったのが、マッサージ機能付きのフロントシートだ。
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世界トップレベルの安全装備
XC60は、上級のXC90と同じようにボルボの新世代モジュール機構、「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」を採用し、走りの実力を大きく引き上げている。最上級のT8 Twin Engine AWDインスクリプションは、電子制御式のエアサスペンションが標準装備される。ハンドリングは思いのほかスポーティーで、軽やかな身のこなしを披露した。取り立てて踏ん張り感が強いとは感じなかったが、コーナーではロールを上手に抑え込んでいる。揺れの収まりも速やかだ。
電動パワーステアリングの操舵(そうだ)フィールも自然な感覚で、狙ったラインに乗せやすい。行きも帰りも高速道路は風が強かった。だが、強い横風が吹いても、トンネルの出口でもビシッと直進を保ち、動じない。ボディーサイズは小さいとはいえないが、走りだしてしまえば大きさを感じさせなかった。また、高い位置から見下ろす感覚で、車体の四隅も把握しやすいから、京都の狭い道に入り込んでも車両感覚がつかみやすい。
軽快なハンドリングに加え、しなやかな乗り味も高く評価できるところである。20インチの大径タイヤを上手に履きこなしていた。荒れた路面でもサスペンションにはストローク感があり、動きがいい。ブレーキも安定した制動能力を見せる。だが、乗り始めは踏力の加減が分かりづらく、ペダルのコントロールに気を遣う。
ボルボ自慢の安全装備は世界トップレベルの実力派だ。全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールは説明なしに使いこなせる。車線維持支援機能のパイロットアシストにも何度か助けられた。車線をはみ出しそうになると、ステアリングにわずかな修正を加え、車線の中央を走るように引き戻してくれるのだが、そのさじ加減が絶妙だ。
また、斜め後方の死角にいるクルマを検知し、警告するブラインドスポットインフォメーションシステムには、新たにステアリングアシストが加わった。これもドライバーの不注意による危険なレーンチェンジをさりげなく自動修正してくれる。
先進安全装備が充実していることに加え、トータル性能の高いボルボXC60とのドライブは、驚くほど快適で、楽しかった。1000kmを走っての燃費は、オンボードコンピューターの表示で12.8km/リッター。実際に計算した満タン法では12.6km/リッターとなった。高いパフォーマンスと、AWDであること、そして走行条件を考えると悪くない数値といえるだろう。充電してモーター走行の比率を増やせば、さらに良好な燃費を期待できる。ロングドライブが楽しい、上質な大人のグランドツアラー、それがボルボXC60だ。
(文=片岡英明/写真=尾形和美/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
ボルボXC60 T8 Twin Engine AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1900×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:318ps(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpm
フロントモーター最高出力:46ps(34kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0-2500rpm
リアモーター最高出力:87ps(65kW)/7000rpm
リアモーター最大トルク:240Nm(24.5kgm)/0-3000rpm
タイヤ:(前)255/45R20 101W/(後)255/45R20 101W(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:15.7km/リッター(JC08モード)
価格:884万円/テスト車=951万3000円
オプション装備:Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100W、15スピーカー、サブウーハー付き>(42万円)/ペイント<クリスタルホワイトパール>(10万3000円)/テイラードダッシュボード(15万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:7104km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:1005km
使用燃料:79.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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片岡 英明
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