45歳にしてついにデトロイトショーデビュー!
塩見 智がコンセプトカーから次期日産車を読み解く
2018.01.24
デイリーコラム
あこがれのデトロイトショーにやってきた
不肖シオミ、45歳にして初めてNAIAS(North American International Auto Show)、すなわち北米国際自動車ショー、通称デトロイトショーを取材する機会に恵まれました。自動車メディアの片隅に身を置く者として、デトロイトショーを取材したことがないということの肩身の狭さを、どう例えれば皆さんにわかっていただけるでしょうか。ひとりだけ外国旅行へ行ったことがないような感じ? それとも冬休み明けの学校で紅白歌合戦について話が盛り上がるなか、自分だけ見ていない(けれどインターネットで得た知識でなんとなく話を合わせているような)感じでしょうか。違うか。
というのも、やはり世界で最初に自動車が大量生産された土地であり、長らく世界最大の自動車消費地だったアメリカのモーターショーなので、自動車の“最高”や“最先端”が披露される機会だったわけです。自動車雑誌を読みあさる学生時代や若手編集者時代、「会場内をマッスルカーが爆音を立てて走った」「演出で会場の外を無数の牛が歩き回っていた」「新しいクルマがガラスを突き破って登場した」などと、徳大寺有恒さんをはじめとする先輩ジャーナリストがデトロイトショー取材を書いた記事や写真を見ては、その規模の大きさ、演出の派手さに胸を躍らせていたものでした。いつか行けるかな?
行けました。今年それがかなったのです。やった。デトロイトだ。モータウンだ。メディアパスを受け取り、自由に出入りすることを許されるリングを腕に巻いてもらって会場入り。朝イチのレクサスのプレスカンファレンスを皮切りに記念すべき私の初デトロイト取材がスタートしました。第一印象は、日本のビッグスリーが思った以上に幅を利かせているなということ。GM、フォード/リンカーン、FCAに次ぐブース面積と存在感を見せていたのが、トヨタ/レクサス、日産/インフィニティ、ホンダ/アキュラの3社で、それらはメルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン/アウディよりもブース面積が大きく、建て付けも立派に見えました。
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コンセプトモデルの正体に迫る
今回のデトロイトショー取材の主目的は日産グローバルデザイン担当のアルフォンソ・アルバイサ専務執行役員へのインタビューです。それもあって、インフィニティと日産ブースを入念に取材しました。まずはインフィニティ。アルバイサ氏がデザインコンセプトの「Qインスピレーションコンセプト」を初披露しました。水平基調の細長いリアコンビネーションランプが印象的なリアスタイルが写った写真のみが事前に発表されていたモデルです。細かなスペックは明らかにされませんでしたが、全長5m弱クラスの4ドアクーペで、エクステリアもインテリアもシンプル、無駄な要素をそぎ落としたデザイン。アルバイサ氏によれば、このモデルはインフィニティの新たなデザインランゲージであり、将来のどのモデルということではなく、インフィニティ全体のデザインの方向性を示しているとのことです。とはいえ、この姿を見れば、とりわけ将来の「フーガ」や「スカイライン」(とそのインフィニティ版)を暗示していると見て間違いないでしょう。
インフィニティに先んじてアルバイサ専務は日産ブースのカンファレンスにも登場、同じくコンセプトモデルの「Xmotion(クロスモーション)」を世界初公開しました。こちらはインフィニティとは違って、武骨なデザインのCセグメントサイズのSUVです。日産車おなじみのVモーショングリルはありますが、グリル内にメッキのVモチーフがフローティングしている現在の市販モデルたちとはやや異なり、グリル自体がVを形どり、ボンネットフード上のキャラクターラインにつながっていきます。リアはシンプル。全体のプロポーションはオーバーフェンダーが強調されたマッスル系です。
インテリアはバタくさい印象のエクステリアとは違って和風。全体が赤と白に塗り分けられ、中央を1本の木から削り出したかようなコンソールが貫いています。Cピラー内側の赤く盛り上がった部分は赤富士をイメージしたとか。シートバックの黒い部分は和室の欄間のよう。全体に和風のモチーフがちりばめられています。Cセグメントのサイズといい、彼らが「4+2」と呼ぶ3列シートレイアウトといい、これはずばり次期「エクストレイル」でしょう。もちろん、市販に適さないディテールが多く、このままというわけではないでしょうが、“タフギア”と呼びたくなるルックスなのは間違いありません。
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アルバイサ専務の“日本LOVE”がうれしい
カンファレンス後、アルバイサ専務を囲んでインタビュー。彼いわくインフィニティは「間(ま)」を、日産は「粋(いき)」を表現したとのこと。共通するのはシンプリシティーであり、それは必ずしも単純ということではなく、いろいろな要素が調和されているという意味だそう。“日本LOVE”なことで知られるキューバ系アメリカ人のアルバイサ氏は1988年に初めて来日し、街がピースフルだがエキサイティングで、人々が西洋人とまったく異なる発想をすることに感動したそうです。98年に北米日産に入社した後、日産ひと筋でデザイナーとしてのキャリアを積んできました。
「ゲンバ(現場)」とか「わび・さび」といった日本語をちりばめながら「日本人じゃないからこそ日本の良さを思い切り表現できる」と自負していました。Qインスピレーションには、日産が世界に先駆けて開発した可変圧縮比エンジンのVCターボをはじめ、さまざまなパワートレインが搭載され、クロスモーションには現在の「プロパイロット」よりも進化した高度な自動運転技術が採用されます。「こうしたウルトラモダンテクノロジーを間や粋をキーワードとした和のデザインと調和させていきたい」と語るアルバイサ氏。
長年、自動車産業は欧米に追いつけ追い越せでやってきたわけですから、こういう話を聞くと日本人として自尊心をくすぐられ、気恥ずかしいけれど決して悪い気はしません。もちろん日本のジャーナリスト(の背後にいる日本のユーザー)相手ですからリップサービスもあるでしょうが、彼の日本好きは本物なんだということが言葉の端々から伝わってきました。100%彼の主導下でデザインされた日産車が出てくるのは数年先でしょうが、楽しみです。
念願かなって来られたデトロイトショーで、今後の日産デザインが期待できると感じられたのは良かったのですが、ショー全体の規模や演出は想像していたものとはやや異なりました。寂しかったのです。牛は歩き回っておらず、爆音も聞かれず、どこもガラスを突き破ってくれませんでした。これがあこがれのデトロイトショー? 昨秋、東京モーターショーの緩やかな衰退傾向を嘆いたところですが、(プレスデーしか見ていないとはいえ)デトロイトショーからも似た印象を受けました。先輩ジャーナリストに感じたままを話すと「君、来るのが10~20年遅いよ。リーマン(ショック)の前に来なきゃ」と言われました。私が東京に続いてデトロイトで見たのは、モーターショーの終わりの始まりだったのでしょうか。先輩にはああ言われましたが、だとしたら、むしろ間に合って良かったと言うべきなのかもしれません。
(文=塩見 智/編集=藤沢 勝)
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塩見 智
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