やめたはずじゃなかったの!?
メルセデス・ベンツが直6エンジンを復活させた理由とは?
2018.02.07
デイリーコラム
かつてのプレミアムカーの主力エンジン
かつてプレミアムクラスに搭載されるエンジンのスタンダードは、3リッタークラスの直列6気筒エンジンであり、さらにパワーが欲しい方は、より排気量の大きいV型8気筒やV型12気筒をどうぞ、というスタイルが一般的だった。
ところが1990年代後半から、直列6気筒は、徐々にV型6気筒へと置き換えられていった。その最大の理由は、V6は全長が短いので衝突安全性能を高めやすいというもの。エンジンの全長が短ければ、それだけボディー側に衝撃を吸収するスペースが生まれる。衝突安全性能を高めるには、直列6気筒エンジンよりも、全長の短いV型6気筒エンジンの方が、都合がよかったのだ。また、V6であれば、FF車にも搭載できるというメリットもあった。
そうした理由から2000年代以降、世の中から直列6気筒エンジンはどんどん姿を消していった。ずっと採用しているのはBMWくらいだ。もう直列6気筒エンジンは、ごく一部でしか使われない、レアアイテムになってしまうのか……と思っていたら、最近になって、メルセデス・ベンツが突然のように直列6気筒エンジンを復活させたのだ。
2017年にマイナーチェンジした「Sクラス」のラインナップを見ると、直列6気筒ガソリンエンジンを搭載する「S450」と「S500」が存在する(いずれも日本未導入)。もちろん、エンジンはまったくの新型だ。さらに今年の1月のデトロイトでは、同じく直列6気筒エンジンの「AMG53」シリーズを発表。まずは「CLS」や「Eクラス クーペ」「Eクラス カブリオレ」にラインナップされるが、日本へのデリバリーはまだ先というのが残念なところ。
![]() |
技術の進化が可能にした復活劇
メルセデス・ベンツが突然に直列6気筒エンジンを復活させたことには、一体どのような理由があるのだろうか?
考えてみれば、衝突安全性能のための車体の技術は、着々と進化してきた。また、クルマも世代を重ねるにつれて大きくなった。そのため、長い直列6気筒エンジンでも、求められる衝突安全性能をクリアすることができるようになったのだろう。
一方で、排ガスや燃費に対する規制はますます厳しくなっており、排ガスをクリーンにするための補機類は、どんどん大きくなる。こうなるとV型エンジンはスペース的につらくなってくる。逆に直列6気筒エンジンはレイアウトの自由度が高く、こうした状況には対応しやすい。さらに、ターボ化すれば直列6気筒エンジンは、上級となるV型8気筒に並ぶ水準の出力を得ることもできる。また、メルセデス・ベンツは、最新のマイルドハイブリッド技術である48Vシステムを新しい直列6気筒エンジンに採用した。つまり、燃費性能でも有利になるのだ。さらに48Vシステムの発展形でもある電動スーパーチャージャーをプラスすることで、高性能のAMGモデルにも対応した。
つまり、これまで直列6気筒エンジンではネガとされていた部分が、技術の進化によってクリアできたというのが、直列6気筒復活の大きな理由といっていいだろう。また、直列6気筒エンジン採用モデルにも注目してほしい。S450やS500、AMGといったモデルはいずれも中級以上のもの。つまり、エントリーとして直列6気筒エンジンを採用したわけではない。V型8気筒エンジンに代わるポジションとでもいうべきところに投入している。
しかし、直列6気筒復活の大きな理由は技術の進化以外にもあると思う。その根本に「直列6気筒エンジンを使いたい」という、そもそもの願望がなければ、復活はなかったのではなかろうか。
環境対策だけでなく、直列6気筒エンジンならではの「スムーズな回転」という特徴がある。直列4気筒やV型6気筒では得られない、気持ちのいいフィーリングが直列6気筒エンジンの最大のメリットなのだ。だからこそ、過去にプレミアムカーのスタンダードとして君臨していたわけだ。やはりプレミアムカーには、スムーズな直列6気筒エンジンを載せたい。それがメルセデス・ベンツの本音で、そのために最新技術を駆使した。それが復活のあらましではないだろうか。
この流れが、メルセデス・ベンツだけで終わるのか、それとも他メーカーにも広まってゆくのか。その行方に注目だ。
(文=鈴木ケンイチ/編集=藤沢 勝)
![]() |

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。