自動車メーカーが磁石を開発?
「省ネオジム耐熱磁石」に見るトヨタの“自前主義”の理由
2018.03.04
デイリーコラム
550万台という目標を実現するために
トヨタ自動車は2018年2月20日、電動車の普及に向けた基盤整備の一環として、レアアース(希土類元素)であるネオジム(Nd)の使用量を大幅に削減した、モーター用の「省ネオジム耐熱磁石」を開発したと発表した。
ネオジム磁石は、1980年代に当時住友特殊金属に在籍していた佐川眞人博士によって発明されたものだ。ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とするレアアース磁石の一つで、永久磁石のうちでは“世界最強”といわれ、熱にも強いといった特長がある。身近なものでは、ハードディスクドライブや携帯電話、そして「トヨタ・プリウス」などのハイブリッドカーや電気自動車(EV)のモーターなどにも使用されている。
ではなぜトヨタが磁石を自社開発するのか? その基本的な疑問についてトヨタの技術担当広報に話を聞いてみた。
「昨年(2017年)12月、電動車普及に向けた取り組みとして、2030年にグローバル販売台数における電動車を550万台以上、ゼロエミッション車であるEV・FCV(燃料電池車)は、合わせて100万台以上を目指すと発表しました。実はこれはとてつもないことなんです」
2017年のトヨタの電動車の販売台数は約150万台(そのほとんどはハイブリッド)。これから十数年で一気に3倍以上を目指すというわけだ。そこで、そもそもモーターを作るには磁石が必要になる。ことの発端はレアアースを使ってその台数分の磁石が本当に作れますか? という話だ。トヨタは2016年からカンパニー制を敷いており、8つあるカンパニーの1つにこうした研究開発に注力する「先進技術開発カンパニー」がある。しかし、要素技術の研究開発を自社で行うのは今に始まったことではないという。
「電動車の3種の神器ともいえるものとして、モーター、バッテリー、インバーターの3つの技術があります。初代プリウスの時代から、当社はそれらに関して脈々と研究開発を続けてきた歴史があります。電動車の台数が増加していく中で、バッテリーはもちろんのことモーターの必要数も増えていきます。レアアースであるネオジムを使い続けていくと供給量不足やコスト増が懸念される。そうした点に着目して2009年からこの省ネオジム化技術の開発に取り組んできました」
“売ればいい”では済まされない大メーカーの責任
約9年もの研究期間を費やし、ようやく発表段階へたどりついた。この先にもまだ商品化に向けての実用性や耐久性のテスト、量産技術などさまざまなステップを踏んでいく必要がある。
「われわれが自社で磁石を作るところまではできませんから、この先は実際に作ってくれる企業を探して技術を共有しながら進めていくことになります。すでにバッテリーに関してはパナソニックさんとの提携を発表しているように、パートナーがいなければ400万台、500万台といった台数を作ることは到底できません」
この先、10年以内にはこの省ネオジム耐熱磁石を使ったクルマを登場させたい、また家電製品などへの応用も視野に入れていると展望を語る。そして世界最大級の自動車メーカーの責任としてその先を見据える。
「電動化に対して、遅いというご指摘をいただくこともありますが、バッテリー一つ、モーター一つを取っても課題はたくさんあります。安定して供給できる生産技術、生産体制、そして30年後、40年後にそれらをリサイクルするときにどうするのか? そこまで合わせて考えながら進めていかなければいけないと思っています」
ちなみに昨今話題のテスラのグローバルでの累計販売台数が約25万台(2017年11月時点)、世界で最も売れている電動車の「日産リーフ」でも累計約30万台(2018年1月時点)だ。
トヨタの場合はハイブリッド車になるが、グローバル累計販売台数はすでに1000万台を超えている(2017年2月時点)。“自前主義”ゆえに電動化に後れをとっているといわれるトヨタだが、その実はきっちりと地盤固めを進行中の、世界で最も電動化の進んだ自動車メーカーの1つであることは間違いないだろう。
(文=藤野太一/写真=藤野太一、トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

藤野 太一
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