トヨタ・ヴェルファイアZG(FF/8AT)
21世紀のお駕篭 2018.03.09 試乗記 トヨタのフラッグシップミニバンとして、根強い人気を誇る「アルファード/ヴェルファイア」。極東の自動車大国・ニッポンで、コワモテの四角い高級車がここまで支持を集める理由とは何か? その文化的背景と、高級ミニバンの歩むべき道について考えてみた。欧米の高級車と日本のミニバンの違い
以前にも同じことを書いたけれど、欧米の高級車は馬車の末裔(まつえい)である一方で、日本のミニバンは駕篭(かご)の後継であるというのが個人的な意見である。
愚説をいま一度繰り返すならば、馬車は4頭仕立て、8頭仕立てと馬の数が増えるほどに高級になった。先っちょが長い乗り物がエラいと西洋人は刷り込まれているから、クルマもロングノーズがカッコいいとされる。また、馬の数が増えるということは、よりパワフルに、より速くなるということでもある。したがって欧米の高級車はパワーとスピードがあってあたりまえ。のんびり、ゆったり走る高級車はあり得ない。一方、日本人がエラい人の乗り物として認識したのは、「下へ下へ」の大名行列の駕篭だ。だから日本では、四角くて、びっくりするほど速くは走らないミニバンが憧れの対象となる。
といった具合に、欧米の高級車と日本のミニバンでは、大げさにいえば文化的背景が異なる。したがって欧米のクルマが大好物のエンスーが日本のミニバンを見てカッコ悪いとさげすむのは(イマ風にいえば「disる」のは)、ちょんまげを笑うのと同じだ。同じではないかもしれないけれど、近いのではないか。
反対にミニバン愛好家が高級ヨーロッパ車に対して、「なんであんなに狭っ苦しいのに値段が高いんだ」という反応を示すのは、「なんでちっぽけなトリュフのかけらがこんなに高いんだ」と言うのと同じだ。同じではないかもしれないけれど、当たらずとも遠からじではないか。
すっかり前置きが長くなってしまったけれど、本題は2017年12月にマイナーチェンジを受けたトヨタ・ヴェルファイア。「駕篭の後継」という目で見ると、なかなか興味深いモデルだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
今まで以上にコワモテに
「バーニングブラッククリスタルシャインガラスフレーク」という舌をかみそうな呼称は、プロレスの技の名前ではなくボディーカラーの名前で、わかりやすく書けば“黒メタ”だ。乗り込む前に周囲を一周すると、大げさではなく小山のように感じるサイズ感と、立派なフロントマスクに圧倒される。
駕篭の場合も、エラい人が乗るモノほど大型化して装飾も派手になったらしいから、日本のフラッグシップミニバンであるヴェルファイアがデカくてギラギラしているのは、伝統に則している。参考までに、駕篭も立派になると引き戸が付いたというから、これもスライドドアに引き継がれている。
マイチェンに伴う変更箇所を記せば、まずフロントマスクの“目ヂカラ”がさらに強くなった。理由は、特徴的なヘッドランプのうち、下段の部分を大きくしたから、さらに“どっしり感”が増した。ちなみに、デザイナー陣はフロントの造形に手を加えるにあたってはダンベルの形状をイメージしたとかで、確かにそう言われるとダンベルのように見えてくる。そしてダンベルがモチーフかと思うと、ヴェルファイアの造形がさらに力強く見えてしまう。連想ゲームか。
デカくて強そうな部分に目を奪われがちであるけれど、フロントバンパーの角に施された“サイドポンツーン”(ダミーのエアインテーク)がいいアクセントになっている。ジャイアンにデベソがあるからかわいく見えるのと同じように、この構造物があるから、大きくて四角いヴェルファイアが走りだしそうな雰囲気を醸す。リアビューがすっきりしたのは、リアのコンビネーションランプの形状をソリッドなものに替えたから。より精悍(せいかん)な印象となった。
外観の変更点をチェックした後、ステップに足をかけて運転席に座る。座る、というより上がると表現したくなるくらい、着座位置は高い。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これはこれでファン・トゥ・ドライブ
試乗したZGは、3.5リッターのV型6気筒エンジンと8段ATを組み合わせた前輪駆動モデル。現行“アルヴェル”(“セドグロ”のように、アルファードとヴェルファイアの総称がこれらしい)が登場した3年前にも驚いたけれど、このクルマは見かけから判断するよりはるかにファン・トゥ・ドライブだ。
その理由として、まずステアリングフィールのよさが挙げられる。「前輪に大きなトルクがかかるFFのハイパワー車は、ステアリングホイールの手応えが悪くなる」という常識は、技術の進歩によって覆された。ステアリング操作を行うと、タイヤがどの方向にどれくらい切られているか、路面がどんなコンディションか、といった情報が細やかに手のひらに伝わってくる。
懐の深い乗りも好印象。まず、速度を問わずに乗り心地は重厚で快適、その乗り味は、ちょっと湿度を感じさせるしっとりとしたフィーリングだ。コーナーでは、4本の脚が伸びたり縮んだりよく動いて、車体を水平に保ってくれる。
残念ながら駕篭に乗ったことはないけれど、駕篭もこんな乗り心地ではなかったか。
目を閉じて想像してみてください。ヴェルファイアの車体の四隅を、体格のいい青年たちが担いでいる光景を。青年たちが膝を折ったり伸ばしたりしながら、一生懸命に駕篭の姿勢を水平に保ち、駕篭の中の大名さまにショックを伝えないようにがんばっている。
ファン・トゥ・ドライブといってもホットハッチのようにきびきび走るのとは違う。マスの大きな乗り物を正確に、快適に動かしていると感じる楽しさだ。
正確かつ快適に動かしていると感じられるもうひとつの要因は、素直に反応するパワートレインである。低回転域から豊かなトルクを発生するエンジンと、それを効率よく伝えるトランスミッションのおかげで、デカいボディーを意のままに動かしているという実感が得られる。
アクセルペダルを踏み込むと、スムーズかつ素早くギアが下がり、エンジン回転が跳ね上がり、きれいに加速する。このとき、V6エンジンがちょっといい音で回るのがおもしろい。
家族をたくさん乗せて高速道路を走っているアルヴェルのオトーサンたちは、決してイヤイヤ運転しているわけではなく、ドライブを楽しんでいるのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
まだまだ進化の途上
ミニバンは駕篭の後継だと書いたけれど、進化形ではない。というのも、駕篭はおそらく2人で運ぶタイプも8人で運ぶタイプも、決してほかの駕篭や人と衝突することはなかったはずだからだ。そして三軒茶屋にあったとされる三軒のお茶屋さんでは情報交換、例えば西からやってきた旅人から「大井川が氾濫して危ない」という情報をゲットすると迂回(うかい)ルートを考えた。そうした点では、クルマより進んでいる。
マイナーチェンジのタイミングで、ヴェルファイアはプリクラッシュセーフティーやレーントレーシングアシストといった運転支援機能がセットになった予防安全パッケージ、第2世代版の「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備されるようになった。
また、試乗車にはオプションの「T-Connect」が装備されていた。つまり“つながるクルマ”で、つながって何ができるかというと、「T-Connect」を装備して各地を走るクルマからのリアルタイムの情報とVICSの情報をあわせて、トータルで最適なルートを探索できる。熊本の震災で、トヨタがリアルタイムの情報を集めて「通れた道マップ」を公開したことが記憶に新しいけれど、お茶屋さんで旅人から話を聞かずとも、運転席で遠方の交通情報が得られるようになった。といった具合に、テクノロジーの進化とともに、ミニバンと駕篭はどんどん似てくるのだった。
ヨーロッパ車を好むエンスージアストがミニバンを悪く言うのは、おそらく駕篭のくせに椅子に座っている“和洋折衷”の雰囲気がカッコ悪いということだと想像する。畳の上に椅子とテーブルを置いているというか、湯飲みでコーヒーを飲んでいるというか。
この先、さらにテクノロジーが進化して、事故ゼロ(=自動運転)が実現したら、シートベルトはいらないから室内は畳でいいし、ドアも障子でよくなる。そうなった時に、駕篭の後継としてのミニバンが完成するわけで、いまはまだ未完成。ミニバンが完成した暁には、オプションに堀ごたつや、“茶室パッケージ”が用意されるようになるはずだ。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・ヴェルファイアZG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×1850×1935mm
ホイールベース:3000mm
車重:2120kg
駆動方式:FF
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:301ps(221kW)/6600rpm
最大トルク:361Nm(36.8kgm)/4600-4700rpm
タイヤ:(前)235/50R18 97V/(後)235/50R18 97V(トーヨー・トランパスR30)
燃費:10.6km/リッター(JC08モード)
価格:494万7480円/テスト車=652万2120円
オプション装備:ボディーカラー<バーニングブラッククリスタルシャインガラスフレーク>(3万2400円)/本革シート+アクセサリーコンセント<AC100V・100W>(33万1560円)/3眼LEDヘッドランプ<ハイ・ロービーム/オートレベリング機能付き>+LEDクリアランスランプ<イルミネーション[デイライト]機能付き+LEDアクセサリーランプ>+アダプティブハイビームシステム+LEDシーケンシャルターンランプ<フロント+リア>+LEDコーナリングランプ(11万5560円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート+インテリジェントクリアランスソナー<パーキングサポートブレーキ>+T-Connect SDナビゲーションシステム+JBLプレミアムサウンドシステム(71万2800円)/デジタルインナーミラー(4万3200円)/12.1型リアシートエンターテインメントシステム<VTR入力端子、HDMI入力端子付き>(18万3600円)/ITS Connect(2万7000円)/寒冷地仕様<熱線式ウインドシールドデアイサー+PTCヒーターなど>(2万5920円) ※以下、販売店オプション 専用フロアマット<ロイヤルタイプ、エントランスマット付き>(10万2600円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:987km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:279.0km
使用燃料:30.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.3km/リッター(満タン法)
拡大 |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
NEW
先進のSUV「エクストレイル」という選択
2026.10.13SUVのフロントランナー 日産エクストレイルの魅力に迫る<AD>4代・四半世紀にわたって進化を重ね、SUVブームのなかでも開拓者であり続けてきた「日産エクストレイル」。その先進技術がもたらす“乗ればわかる喜び”とは? 最新世代の到達点について、詳しくリポートする。 -
NEW
自動運転はこの先10年でどこまで進化できる?
2026.10.13あの多田哲哉のクルマQ&A自動車業界において、再び話題になる機会が増えてきた「自動運転」。この先はどのように進化・普及するのか。既存の先進運転支援システムで十分ではないのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんの見解を聞いた。 -
NEW
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】
2026.10.13試乗記電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。 -
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.10.12試乗記ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。 -
電動化された新型「A110」の登場はいつ? 来日したアルピーヌのクリエフCEOに未来戦略を聞く
2026.10.12デイリーコラムアルピーヌのフィリップ・クリエフCEOが来日し、現在推進している戦略を報道関係者に説明した。なかでも気になったのは電動化された新型「A110」と、「A110Rウルティム」に相当する特別な超高性能モデルの存在だ。その内容とは? -
第346回:EVかいわいで辰巳かいわいへ
2026.10.12カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の「サクラ」と「アリア」、そしてホンダの「スーパーONE」と、国内メーカーがリリースする3台のEVに立て続けに試乗した。三者三様の走りを味わい、リアルに感じたことをカーマニア目線で報告する。



























































