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「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来

2025.10.03 デイリーコラム 堀田 剛資
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これは果たしてSDVなのか?

スズキの新型電気自動車(BEV)「eビターラ」は、彼らにとってさまざまな意味を持つクルマだ。ひとつは言わずもがな、初の量販BEVであるということ。そしてインドから輸出される世界戦略車であるということ。欧州市場なんかでは、環境規制でにっちもさっちもいかなくなった(それはメーカーのみならずユーザーも同様)窮状を打破する一手としても、期待しているのだろう。

そしてもうひとつが、これがスズキ版SDVこと「SDVライト」の第1弾ということだ。……正直なところ、先般の技術戦略説明会(その1その2)、およびeビターラの発表会でそれを聞かされたとき、記者は「へ?」と思った。コンセプトモデル「eXV」のころからこのクルマを追いかけ、プロトタイプ試乗会も取材した記者だが、そんな話、みじんも聞かなかったからだ(ひょっとしたら、忘れているだけかもしれないが)。で、つい邪推したのである。これ、発表の直前にマーケティングの誰かが思いついちゃったんじゃないの? 「今“SDV”って話題だし、eビターラはSDVライトの第1号ってことにしちゃいましょ!」と。

そもそも、SDV(ソフトウエアディファインドビークル)とはなんであろうか? 経済産業省&国土交通省策定の『モビリティDX戦略』によると、それは「クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車のこと」だそうだ(参照)。またスズキ自身は2024年版の技術戦略説明会(その1その2)で、「ソフトウエアがクルマの価値をつくり出す電子アーキテクチャー」と説明している。

で、やっぱり思うのである。スズキeビターラは、果たしてSDVなのだろうか。

スズキ初の量産BEV「eビターラ」と、鈴木俊宏社長。2025年9月16日の発表会より。
スズキ初の量産BEV「eビターラ」と、鈴木俊宏社長。2025年9月16日の発表会より。拡大
発表会での実車見取りの様子。クルマのまわりはご覧のとおりの人だかりで、写真を撮るのが大変だった。
発表会での実車見取りの様子。クルマのまわりはご覧のとおりの人だかりで、写真を撮るのが大変だった。拡大
「eビターラ」のインストゥルメントパネルまわり。このクルマはスズキ版SDVである「SDVライト」の第1号と称されているが……。
「eビターラ」のインストゥルメントパネルまわり。このクルマはスズキ版SDVである「SDVライト」の第1号と称されているが……。拡大
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「eビターラ」にみるスズキ版SDVの萌芽

先述の定義を踏まえると、狭義の意味ではこれはNOだろう。無線だろうと有線だろうと、ソフトウエアの更新でクルマの価値が変わるような仕組みに、eビターラはなっていない。現状ではOTA(Over the Air:無線通信)でできるのはナビの地図更新ぐらいで、店先での有線更新も、車両不具合の解消やインフォテインメントシステムの一部デザイン変更が、技術的には可能……といった段にある程度だ。

そもそも、いくら業界が「SDV! SDV!」と騒いだところで、販売後のクルマで変更・改良できる範囲は法律で厳に規定されているわけで、「ソフトウエアの更新でクルマを進化させる」といっても、現状ではできることに限りがある。これはスズキのみならず、すべてのメーカーのすべての車種でおんなじだ。

しかし、じゃあスズキの言っていることはハッタリなのかというと、それもまたNO! eビターラは既存のスズキ車とは比較にならないくらい、デジタル化や電子アーキテクチャーの革新が進んでおり、その恩恵が現れつつあるからだ。

たとえばインストゥルメントパネルを見ると、これまで液晶メーターとディスプレイオーディオに分かれていたインターフェイスが、ひとつのシステムに統合されている。これは、フィンランドはQtグループのフレームワークをもとに開発されたもので、これまで運転系とインフォテインメント系でバラバラだった操作性・デザイン性を統一。またメニューやボタンなどの要素を、ドライバーや同乗者のニーズに合わせて調整することも可能になった。開発面でも、このシステムを他車にも展開すれば、各車のインターフェイスをひとつのコードで設計、テスト、再利用できるわけで、効率が飛躍的に向上。迅速なアップデートや多車種展開も可能となるわけだ。

こうした変化はインターフェイスに限った話ではない。運転席まわりでは、これまでバラバラだったワイパーやドアロック、ミラー、ヘッドランプなどの制御も、ひとつのECU(電子制御ユニット)とその上に乗っかっているソフトウエアに統合。電装系の制御の整理・集約が進んでいるのである。

もちろん、SDVのキモはソフトによるクルマの革新なわけで、ECUを統合すりゃSDVかといえば、そうではない。ただeビターラでは、既存のスズキ車よりはるかに「ソフトウエアでできること」が増えており、各部の機能がソフトでの制御を前提としたものになっていることは間違いなさそうだ。素人が何さま目線だって言いぐさではありますが、スズキはこのeビターラで、SDVの実装へ向けて大きく踏み出したのだろう。

2025年9月9日の技術戦略説明会の配布資料より。ソフトウエアの更新による購入後のクルマの進化に、ECU統合によるプラットフォームの高効率化と低コスト化、開発効率のアップなどなど、さまざまな価値が想定されている「SDVライト」だが、「eビターラ」はまだ、それらを十分に体現できているとは言いがたい。
2025年9月9日の技術戦略説明会の配布資料より。ソフトウエアの更新による購入後のクルマの進化に、ECU統合によるプラットフォームの高効率化と低コスト化、開発効率のアップなどなど、さまざまな価値が想定されている「SDVライト」だが、「eビターラ」はまだ、それらを十分に体現できているとは言いがたい。拡大
新たに採用された統合型インターフェイスディスプレイ。そのシステムはQtグループのフレームワークをもとに開発されたものだ。スズキはトヨタやホンダ、ボルボなどと同じく、Automotive Grade Linuxのオープンソースプラットフォームを活用し、ソフトウエアの開発を進めている。
新たに採用された統合型インターフェイスディスプレイ。そのシステムはQtグループのフレームワークをもとに開発されたものだ。スズキはトヨタやホンダ、ボルボなどと同じく、Automotive Grade Linuxのオープンソースプラットフォームを活用し、ソフトウエアの開発を進めている。拡大
ワイパーやドアロック、ミラー、ヘッドランプなど、運転席まわりの操作系も、一部を除いてひとつのECUに統合された。
ワイパーやドアロック、ミラー、ヘッドランプなど、運転席まわりの操作系も、一部を除いてひとつのECUに統合された。拡大

ユーザーに余計な出費を強いてはいけない

そんなわけで、eビターラでいよいよSDV化の夢へと歩みだしたスズキであるが、彼らの提唱するSDV=SDVライト(right)が、他社のそれとはいささか違う路線を歩んでいるのは、読者諸氏ならご存じのことだろう。AIやコネクテッドとの合わせ技で、「あれもしたい。これもしたい」と往年の名パンクのように夢を語る他社に対し、スズキはあくまで「お手ごろ価格」が第一。機能を過剰にせず、「ちょうどいい」「これでいい、これがいい」と感じてもらえるものを指向しているのだ。

それは電子プラットフォームの思想にも表れていて、技術統括の加藤勝弘氏によると、「将来的にもECUは4つ~5つぐらいに分けて搭載する。一部の海外メーカーのような、極端な統合集中型は目指さない」とのことだった。

確かにECUをひとつに統合すれば、より高度で効率的な電子アーキテクチャーが実現するかもしれない。しかし、そのぶんECUは高価で高性能なものになるし、そもそもそれでは、柔軟性が保てない。メールと文書作成にしかPCを使わない人にまで、ネトゲや映像制作にも耐えうるマッチョな据え置き型PCを売りつけるようなものだ。だったら、ある程度のECUの分化は容認し、車種や仕様に応じて一部のECUを省いたり、あるいは低スペックだけどお安く調達できるものに差し替えたりして、ちょうどいい機能&性能をちょうどいいお値段で提供できるようにする。それが、スズキの考えるSDVの最適解なのだろう。

2025年の技術戦略説明会より、スズキの技術開発の方針について説明する加藤勝弘氏。「eビターラ」の発表会では、実車見取りの際に直接お話を聞く機会に恵まれたが、肝心の写真を撮りそびれてしまった。
2025年の技術戦略説明会より、スズキの技術開発の方針について説明する加藤勝弘氏。「eビターラ」の発表会では、実車見取りの際に直接お話を聞く機会に恵まれたが、肝心の写真を撮りそびれてしまった。拡大

おじいちゃんだって運転したい

とはいえ重要なのは、アーキテクチャーの仕組みでも開発者の意図でもない。それを通してどんな機能を提供するかである。特に必要十分を是とするSDVライトでは、ある程度の機能の取捨選択が予想されるわけで、スズキが注力しようと考えているジャンルや方向性は、やっぱり気になるのだ。

これについて加藤氏に尋ねたところ、「まだ検討段階だし、法規と相談しながらだけど」と注釈を入れつつ、「個々のドライバーに合わせたカスタマイズを提供したい」と述べていた。もちろん、ここでいうカスタマイズとは「東京オートサロン」的な意味合いではない。ドライバーに応じた好適な運転環境の提供・切り替えを、ソフトウエアの力で実現したいというのだ。

たとえば年齢である。加藤氏も「最近は、運転席から後ろを見るのに首をひねるのも一苦労(笑)」と言っていたとおり、人は年をとると、体形は変わるし筋力も衰えるし、体の柔らかさもなくなっていく。視力や動体視力、反射神経の低下もまぬがれない。そうした身体の変化を、ソフトウエアの力で補うのだ。

氏は具体的なアイデアまでは言及しなかったので、以下は記者の妄想だが、たとえばソフトウエアアップデートでADASの調律を変更したり、急加速を抑制するようパワートレインの制御を変えたりなどは、できるのではないだろうか。あるいはもっと簡単なところで、某「らくらくホン」よろしくディスプレイの文字を大きくしたり、高齢者向けの音声操作機能を付与したり……。

また、こうした機能は性差や体格による「運転のしにくさ」も埋めてくれるはずだ。ソフトウエア単体では不可能だが、たとえば現在開発&実装が進んでいる各種バイワイヤ技術と組み合わせれば、乗員に応じてハンドルの重さやブレーキの操作量を変え、力の弱い人でも楽に運転できるようにしたり、あるいは緊急時にもちゃんとフルブレーキができるようにしたりできるだろう。またフロントウィンドウに調整式のレンズを仕込めば、視力の弱い人でも安心して運転できるようになるかもしれない。

SDVと、最近開発が進んでいるバイワイヤ技術を組み合わせれば、ドライバーに応じた運転環境のカスタマイズも可能だ。写真は、ボッシュのブレーキバイワイヤとパッド型アクセル/ブレキーペダルを搭載した試作車。
SDVと、最近開発が進んでいるバイワイヤ技術を組み合わせれば、ドライバーに応じた運転環境のカスタマイズも可能だ。写真は、ボッシュのブレーキバイワイヤとパッド型アクセル/ブレキーペダルを搭載した試作車。拡大
「eビターラ」に備わるインフォテインメントシステムのディスプレイ。PCやスマートフォンのように中身を書き換えたり、機能をアップデートできるようになれば、こちらもカスタマイズの幅がぐっと広がることだろう。
「eビターラ」に備わるインフォテインメントシステムのディスプレイ。PCやスマートフォンのように中身を書き換えたり、機能をアップデートできるようになれば、こちらもカスタマイズの幅がぐっと広がることだろう。拡大

優先されるべきSDVの機能ってなんだろう?

自動車の高度なデジタル化が既定路線になった昨今では、その提供価値を説明するため、想定される機能やサービスについて、メーカーやサプライヤーが言及することも増えたように思う。

たとえば移動中(BEVなら出先での充電中も含む)の各種エンタメの提供や、「ボタンひとつでクルマが激変!」というドライブモードの革新、事故を未然に防ぐ仕組みづくりなどなど。ただ、なかには「車載機器でゲームができるようになりました!」と自慢しているメーカーもあったりして、正直「それって、わざわざクルマの側で機能を用意するもんなん?」と疑問に思うこともしばしば。USBやHDMIも付いているんだし、スマホや携帯ゲーム機でできることは、スマホや携帯ゲーム機に任せておきましょうよ。

やはり、クルマにはクルマの側でしか用意できない機能をまずは実装したほうがいいように思う。「ドアの開閉」という、地味だけど毎回の移動で絶対必要になる操作に注目したホンダは慧眼(けいがん)だと思うし(参照)、「より多くの人に移動の自由を提供する」という自動車の本分を思うなら、加藤氏のいう「人に優しいカスタマイズ」こそ、先んじて実装・提供されるべきSDVの機能ではあるまいかと、そんなことを考えた次第だ。

……というか、これは私的にも、記者がジジイになるまでにぜひ実装してほしいと思う。ちまたでは「高齢者は免許返納!」というのが当然の風潮になっているが、こちとらわが身を火葬場に運ぶときにだって、オバケになって自分で霊きゅう車を運転してやる気概なのだ。スズキにはぜひ、SDV化で「年をとっても安心して運転できるクルマ」を実現し、高齢者の移動の自由を守っていってほしい。終(つい)のクルマは「ジムニー」と決めているので、頼みますよ、スズキさん。

(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=スズキ、webCG/編集=堀田剛資)

「SDVライト」の第1弾として登場した「eビターラ」。スズキの提案するSDVがどのように進化していくか、興味津々である。
「SDVライト」の第1弾として登場した「eビターラ」。スズキの提案するSDVがどのように進化していくか、興味津々である。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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